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俺にファンタジー世界は早すぎたみたいだ  作者: ノエル・L・ファント
六話 霧を晴らして→私を見つけないで
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70 怪盗“レンドリュー”と連なる獣

「そこにいたのか」


 俺の声を聞いたからかは分からないが、その男の持っていた召喚魔法書が閉じられる音がした。


「……怪盗っ!」


 目の前の男は振り返って俺に目を合わせた。その魔眼に等しく禍々しい眼光が、俺の眼を貫いた。


「えっと、はい。私が怪盗、レンドリューですが……何か用ですかね」


 が、その声に覇気はなく、自分の置かれている状況に不平不満のある商人のようだった。


「召喚獣の騒ぎを止めに来た」


 簡潔に、一言だけで、彼との会話を拒否する。対話はいらない。余計な情が入れば、ここまで来た意味がなくなる。

 こっそりと魔力の糸を展開しながら、相手の出方を窺う。


 ──その前に、仕掛けるっ!


(セタ、よろしく)


『『雷一閃 稲妻よ走れ 貫け電撃 【雷闢(らいびゃく)】』!』


 ズガガガガガガガッッ! 大きな炸裂音と共に、俺の掌から3本の雷柱が迸る。

 駆け出した魔法は薄暗い路地を縦横無尽に駆け回り、三方向から怪盗に襲いかかる。

 避けられるはずがない。たとえ相殺されたとしても、まだこっちにはセタが詠唱中の魔法が残っている。


(やったか!?)


『エル君、それはフラグだよ?』


 割れた壁の破片が飛んだ。煙が舞い、怪盗の姿が消える。

 ──マズいかもしれない。どこから来るかわからないからだ。流石にあの魔法だけで、“倒したはずだ!”なんて、短絡的で楽な考えに向かえるわけがない。


 倒しているはずがないんだ。だって、今までもそうだったから。


「まあ、相手にとって不足無し……ですかね」


「──っ! 【風神結界】!?」


 【風神結界】。オーソドックスな防御陣の詠唱魔法であり、ここゼルルドで魔導の道に少しでも触れた人間なら、一度は試すであろう魔法だ。

 ──つまりこの魔法は、誰でもできるような簡単な魔法なのだ。確かに性能は良い。だが、それで防がれたのだ。

 雷柱を3本生み出して、それを時間差で背中、右肩、ふくらはぎにピンポイントで撃ち込んだはずだ。はずなんだ。


 だか、


「かなり良いと思うよ。いい線行ってる。学生? なら中等学部くらいかな? うんうん、いいね! 将来性があるって言われたりしない?」


 軽く受け流して、ゆるく会話を振ってくる。


(もう一度頼む)


『了解。【雷闢】!!』


 もう一度、激しい雷が鳴り響く。今度も3本で左膝裏、右脇腹、喉仏。それらに照準を合わせて撃ち抜く。

 それを、怪盗レンドリューは片手間で受け止める。


「それってもしかして、詠唱棄却速効魔法ってやつ? ……凄いなぁ、憧れるよ。俺の古い家族に君と同じ詠唱棄却速効魔法を扱う女の子がいてね、まあその子の事を思いながら今日この騒ぎを起こしたんだけど……聞いてる?」


「──【雷闢】』!」


「えっとさ、とりあえず落ち着こうよ。話も戦いも始まったばかりなんだからさ。うるさいのは嫌いだよ、俺。詠唱棄却速効魔法……じゃないって事は分かったから、とりあえず」


 そう言った彼のスピードは凄まじく。


「黙れ」


「な──ぐふぁ!!」


 首元から捕まれ、民家の壁に身体が押し付けられた。身動きが取れない。左腕で俺の首元を抑え、右手で俺の両腕を抑えられる。力が強く──強すぎて、動くことすらできない。


 ここで魔法は放てない。手から──正確に位置が確認でき、発射口として定義できている場所は……。


「おい、お前のその服……マーキュリアル家のものだよな」


 声色が、今までの覇気のない、どこか諦観しているかのような声から、震えた、怒りの声へと落とされる。


「そんなの……勝手だろ!」


「勝手? そんな訳あるかよ。……どうしてだ? 吐け」


(……クソっ、身動きさえ取れれば!)


 魔法さえ使えれば、ここからの動きが大きく変わる。逃げるチャンス、倒すチャンス、諦めさせるチャンスが生まれる。


『エル君。もしかしたらこの人、シェルト・マーキュリアルが魔女の力を持っている事を知って、その事を吐けと言っているんじゃないかな? ほら、何処にいるのかとか──』


「だからって、教えられるかよ──うぐぁ!」


 ヒューヒューと、明らかに異常な呼吸音が、無音の路地裏に無限に止まない。

 押し当てられる力は強くなり、息をするのもままならない。


「話さなくていい、直接聞きに行く」


 腕の力が入らない。変な汗が背を伝う。このままでは終わる。何が終わる? それはもう、大変な、命とか。


 ──はっ! 魔力の糸があったか!


「くっ……【魔力の糸】!!!!!!」


 波打つ糸が怪盗を掴む。2本目、3本目と同時に出し、4本目は砲門として使う。


「これ、は!」


 面食らう怪盗を横目に、俺は本気の攻勢をかけた。

 首にはまだ怪盗の手がある。息はできない。声はかろうじて出せる。……だから!


全門斉射・解砲オープン・フルバースト!」


 腕をとられ、足を止め、回答に向け魔法を放ちまくる。

 だが、彼はこれも対応する。元から、何が来るかを知っていたかのように、用意周到に。


「『世界を守る盾 理想を阻む壁 全て等しく【堅壁】』だ!」


 【風神結界】よりも高度な障壁が展開され、俺の魔法が全て防がれた。笑いもせず、本気の怒りで。


「終わりだよ、エルヒスタ・レプラコーン!」


「──俺のっ、名前を!」


 まずい、死ぬ。


 諦めるな。


 まだ。




 戦い抜く方法はある。


 彼女の元に戻るために。


 生きて、生き抜いて、勝つ。


(『諦めるにはまだ早い!』)


 精神で、2人の声がシンクロする。


 負ける要素がない。俺と、セタが、共にいるのだ。


    ☆


 勝ち目しかない……は言い過ぎだけどな。


「いや、そこはもっと自信持とうよ」


「勝てるとは思ってないよ。って言ったのは間違い?」


 ここは俺の心の中。99.9%の俺の中にある、0.1%の小さなスペース。それすなわち、『精神世界(マインドルーム)』である。


 そこの主は若干19歳でどっかの世を去り、この世界で俺の頭に居座る病衣の男、セタ・シンノスケ。


「それで、魔法が放てる状況じゃないって分かってるの?」


「それは、まあ……分かってます」


「僕だって、ズルして君をこの世界に引き摺り込んだんだから……時間だってそんなに無い」


 と言っても……まあ。あいつに魔法放つ方法が思いつかないんだが、全く分からないんだが。


「正面から……できるかな」


 不安がある──成功失敗以前の、可能不可能な段階で。その状況から『成功』に持っていくのは至難の技だ。


 ここから堅実に反撃できる何か、又は運で戦況逆転か、どちらか。


「そういえばエル君。あの紫髪の子めっちゃ恥ずかしがってて可愛かったよね!」


「おい、時間ないって言ってたのどこのドイツだよ」


「ヤド? さんだっけ。エル君視線気づいてた? あの子、相当にウブだね」


「いやその話に持ってくな、時間ないって!」


 まあまあ、となだめるおばさんが乗り移ったセタ。こりゃ話長くなりそうだ。


「それでさ、どこ見てたと思う?」


「どこ──って…………あ」


「はい終了! これで分かったでしょ?」


 セタに気づかされ、顔が赤くなる。ははっ、癖というか……まあ、治らないもんだね。


「という訳で、エル君! ──やれ」


「──おう」


 任せとけや!


    ☆


「ふふふ……ははっ!」


「何がおかしい!」


 現実世界に戻って、開口一番高笑い。いまだに腕は使えず、魔力の糸も障壁に阻まれ使い物にならない。砲門として定義できる場所がない。

 だから、(ちょっと下ネタだけど)今作った。


「何っ、て、いや……ちょっと恥ずかしくて」


 単純に、笑いだけ。


「じゃあもう、死ね!」


「死ぬかよぉぉああ!!!」


 俺は本気の怒りで、本気の羞恥心で、ぼそっと呟いた。


「そういえば俺トイレをしてから、チャックを閉めてなかったんだって」


「…………は?」


 動きが確実に止まる。攻撃が確実に止まる。


 この一瞬をセタと俺は待っていた。


「ぶちかませ、セタァァァああ!!」


『雷一閃 稲妻よ走れ 貫け電撃【雷闢】!!!』


 そう、俺が砲門に指定したのは。



 文明齟齬も甚だしい、ちょっときらっと光るアレ。


 ファスナー、それが機能を放棄した一部分。


 光り輝き、雷柱を生み出すのは。



「俺の股間。……社会の窓だぁああああ! うぉぉぉおおおおお! 砲門形成! ソーシャルウィンドオープンフルバーストぉぉああああああ!!!!!」

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