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俺にファンタジー世界は早すぎたみたいだ  作者: ノエル・L・ファント
六話 霧を晴らして→私を見つけないで
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67 “誰”かの助言

 観察は終わった。


 考察は終わらない。“瞬間移動”とはとても厄介だ。攻撃できる一瞬の隙を見極めて、そこに集中攻撃を叩き込むことでしか勝機が無いのだから。それに加え、目の前のサイは“座標交換”なるクソ異能を持っている。


 単純に瞬間移動の上位互換だとは言えない。だが、少なくとも今の俺たちであれば、この能力は脅威も脅威だ。

 同士討ち。これを1番に考えて、全力で魔法を使うこともできないし、リッキーも多分本気を出すことができない。


 だけど、想像ならできる筈だ。


 リッキーは目の前の召喚獣を迎え撃つため、占長札を展開し始めている。そして、座標交換の弱点・欠点を探っている俺を守ってくれている。


 だが今、召喚獣が座標交換を行う気配はない。


「『占長札:泣雨(なきさめ)』! 『占長札:河蝶なる蒼槍(かちょうなるそうそう)』!」


 動きの止まった召喚獣に、槍の一撃を叩き込む。


「外しましたか! だがっ、『占長札:河蝶なる蒼槍(かちょうなるそうそう)』!」


 直前に顔を振り上げていた召喚獣。水の槍は角でなく顎に突き刺さる。リッキーはもう一度、一瞬の隙に蒼槍を撃ち込む。

 やはり、座標交換を行う気配は無く、未だに対策や突破の方法は掴めない。


「待ってるだけは……ダメかな!」


 腕を前に出し、こちらも詠唱を開始する。相手を待ってはいられない。それは単なる俺の性だった。


 占長札の効果が切れて、完全な臨戦へと至るリッキーを片目に、俺は魔力の糸を展開する。


「魔闘真流、転醒 魔力の糸【束縛の鎖(チェインバインド)】!」


 指の間から出された魔力の鎖、3本目がサイの召喚獣の右脚に掛かる。ここからの戦況を予測する。


(もしかしたら、召喚獣は能動的に能力を使えないのかもしれない。今までの座標交換、無駄な使い方はしていなかったはずだ)


『つまり、ここで1度、相手に不利であるが簡単に巻き返せる戦況を作り出して考察時間を得ようってことなの?』


 脳内にいたセタに首を振る。もちろん縦方向に。


(リッキーには悪いけど、こうでもしなきゃ分からない)



 4本目、後脚に掛けて、引っ張る!


「────ッ!!」


 召喚獣の咆哮、光る目とツノ。来るッ!!





 ──────! 強烈な違和感、今まで立っていた場所と、見ていた景色ががらんと無になる。1人と1体が視界から外れた。つまり!


「後ろだっ! リッキー!」


「分かっている! 『占長札:────っ!!!」


 勢いよく、少年が宙に吹き飛ばされる。手に持っていた紙切れが乱雑に舞い散り、本人は俺の後ろまで吹き飛んだ。

 召喚獣の角が光る。しかしそこには、今までとは違う変な色がこびり付いていた。それは、命を象徴する赤色で。


 唸ったのは後ろの少年だった。ここまで聞こえる歯軋りは、リッキーが致命傷を負ったことを意味していた。


「……はっ! まずい!」


 今、召喚獣に交換されたら、リッキーが危ない。


(止める、なんとしてでも!)


 そう思う寸前から、俺の体はもう走り出していた。


(セタ! 【雷闢(らいびゃく)】のストックは!?)


『3! これ以上は火力が望めない! ただただエルくんの疲弊が嵩むだけだ!』


 3本、時間稼ぎにはなるが──!!


「やるしかないっ! 『光る円環、鳴る冥音 黒い雷、轟く紫電 回れ、響け、貫け、叫べ 光り輝く稲妻の彗星となって敵を喰らえ 【光芒轟雷(こうぼうごうらい)】』!」


 光芒豪雷は諸刃の剣だ。これを使えば俺の動きが鈍くなる。だけどこの召喚獣になら使い得だろう。何せ、避けようと思っても避けられない位置に交換してやってくるから。

 俺は俺の攻撃で、リッキーにかなりの怪我をさせてしまった。だからもう、躊躇わない。攻撃を浴びるのは承知で、こっちも雷を叩き込む!


 無数の閃光が、雨のように轟いて刺し刻む。セタから供給された雷闢も同時に撃ち込む。普通ならこんな波状攻撃、ひとたまりもなく倒れるべきだろう。


 召喚獣の角が、雷闢や波状攻撃によって折れた。

 俺はそれを確認した。


「はぁ……やったか!? 角……弱点を折れば!」


 動きは止まった。少なくとも、ゼロダメージでは無いということだ。だけど、召喚獣がくたばる気配はさらさら無い。


『エルくん、もしかしてだけど……さ。こいつに魔法、効きづらいとかあったりする?』


 セタの言う通り、召喚獣のその独特な光沢のある外皮には傷が付いていない。

 息が切れる。喉が渇いてくる。まずいな、足がガクガクする。


「──まずっ!」

 視界が揺らいでいたからか、召喚獣の突進に気がつかなかった。

 目の前、至近距離、必死。


 完全に、これは、死ぬ────!!












「そいつを囲め! 奴の弱点は角なんかじゃない、目だ!」


 どこからか、俺でも召喚獣でも、ましてはリッキーでもない声が響き渡った。


「能力の元は角じゃない、目だ! 視界だ! 塞げ!」


 それを聞いた時の行動は、2人ともとても素早かった。


「占長札ぁぁぁぁあああああ!!!!!!」


 リッキーの咆哮で、俺や召喚獣の周りに飛び散っていた占長札が球体となり召喚獣を覆い囲む。

 バサバサと音を立てて囲まれていく召喚獣の目と折れた角が、俺を誘うように光る。


 瞬間、出来上がった暗い球体の中に、俺と召喚獣が対峙した。

 呼ばれたのだ、召喚獣はその能力を使い。俺と決着をつけようと、挑戦しろと。


「チャンスは一度きり、だから────っ!!!」


 全身に力を込めて、全身で魔力を練り上げる。魔力の糸を占長札に這わせて、そこから魔力を吸収する。


 お互いが宙に浮き、片方が地面を待っていた。


 もう片方──つまり俺はは、宙で戦うことを選んだ。


「魔闘真流拳闘術奥義 【閃電(せんでん)】!」


 魔力を纏った足蹴りが、召喚獣の喉元に炸裂する。その感触がまだある中で、俺はもう一度【閃電】を、今度は右眼に放つ。暴れる召喚獣は俺に向けて顔を捻り吹き飛ばそうとしてくる。

 無情に振られる必死の一撃。それに俺は息を下ろした。


「分かってる、そんなもの! ────見切ったぁあ!!」


 魔闘真流拳闘術、奥義の一つ【稲交接(いなつるび)】。

 相手の攻撃をいなし、その力を利用して体を捻り威力を上げるカウンター技。全力の攻撃をいなし、全力の攻撃に転換させる。そこに重力の力を上乗せし、破壊する。


 顔面、目の前、両目。全てを吹き飛ばす雷の轟音が鳴り響き、占長札のフィールドが弾け飛ぶ。


 視界が晴れる。そのまま俺は地面に落ち、召喚獣は地面に触れることなく消滅した。薄灰色の結晶を遺して。

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