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俺にファンタジー世界は早すぎたみたいだ  作者: ノエル・L・ファント
六話 霧を晴らして→私を見つけないで
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66 俺とあいつを入れ替えて

「まずいリッキー、人が多すぎてあいつらどこにいるか分からない! それにこのままだと祭りの客にもでかい被害が出ちまう! どうする!? シェルトさん達優先か、それともこの場をどうにかするか!?」


「落ち着くんだエルヒスタ。彼女たち二人なら他の竜の冠(ドラゴンヘッド)のメンバー、彼女直属の王冠(インペリアル)隊が保護しているはずです。しかしながら、急いで合流する方がいいのかもしれないのですが──っ」


 ごった返す人々を下に見て焦る俺を、リッキーが諫める。


 家屋の屋根を踏み台にしてショートカット。隣のリッキーも顔色変えずついてくる。俺は魔闘真流奥義の要領で運動能力を強化しているが、彼にそんな素振りは見えない。

 まあつまり、リッキーは素で俺をゆうに超えたやべーやつってことだ。めっちゃ頼もしいんだけど!


「そっちは……えっと、インペリアル? に任せて、俺たちは召喚獣を止めないと! 他の人たちが危ない!」


「……分かりました。ですが、召喚獣があそこで騒ぎを起こしている一体とは限りません。他の召喚獣がお嬢様に危害を加える可能性が一つでも見つかったら、我はそちらに向かいます」


 横目に見たリッキーの顔には、本気の表情が浮いていた。


「分かってるぜリッキー。お前と同じ状況だったら、多分俺だって同じことするつもりだったから!」


「そうですよね! それなら決まりです!」


 俺はうなづいて、心の中で賛同の言葉をかけた。



 そして、その瞬間だった。召喚獣が俺の視界に入った。


「召喚獣……は? なん、だ……あれは?」


『サイだね、サイ。角が特徴的な動物だよ』


 セタがご自慢の日本知識でそう答える。

 俺に書き込まれた記憶の中にも、この動物が出てくる絵本とか動物園の写真とかでサイの存在は知識として刻まれていたため、セタの言葉を聞いて思い出した。


 ……こんな動物、この世界じゃ見たことないな。どこかにサイみたいな動物がいるのだろうか?


 だけど、サイだという情報だとこいつの能力が全然わからない。いやサイだよサイ。あの動物園? にいる奴でしょ?


(サイ……なんだろう。サソリが毒使ってくるのはまあわかるけど、サイって何するんだろう)


『最初に戦った影の召喚獣だって、犬やオオカミみたいだったけど影と同化する変な力持ってたじゃん? ファンタジーなんだからなんでもありなんだよ、感性を磨きたまえ』


(じゃあまずセタは感性じゃなくてこっちの常識覚えろ!)


 うざい小言が入ったが、まあいい。接敵直前の緊張はほぐれた。


「このまま突っ込む! リッキー合わせろ!」


「エルヒスタ、あなたこそ!」


 途端、少年の叫び声が耳を貫いた。


「うっ……うわああああ!!!」


 サイの脚に踏み潰されそうになる小さな男の子。腰を抜かして動けなくなっていた。


「まずっ……!」


 0.1秒以内。脳内をフル稼働させて頭ん中を回転させる。

 知識と経験と、博打。全部を計算に入れる……!


「リッキー、バケモン一瞬止めろ!」


「了解! 『占長札:泣雨(なきさめ)』っ!」


 召喚獣が咆哮と共に、一瞬だけ動きを止める。何かに押されているかのように、召喚獣は全力で足を踏み抜こうとするが、占長札の力がそれの邪魔をする。


 俺はそれを確認する間もなく『魔力の糸』を発現させた。


「届けっ……魔力の糸ッ!!」


「わっ!!」


 少年の身体を魔力の糸で縛り、一瞬の隙で引っ張って攻撃から避けさせる。


「大丈夫か、怪我は?」


「うっ……うん! えっと、君は!?」


 俺よりは流石に歳はとってないと思うけど、まあ俺も13歳だし人のことは言えんだけどね。


「大丈夫だ、早く逃げろ。あのでかい奴は俺たちで──こっちでなんとかする」


「でっ、でも君だって逃げないと!」


 やぶさかではあったが、俺は自身の着ている青い服をその少年に見せる。


「俺は、ただの貴族のボディーガードだ」


『ただの……なんてもんじゃないと思うけど』


 そんな横槍クソリプにゲンナリと肩を落とすが、まあ正式なのかは分からない。

 でもこれで何とかなりそうな気が────。


(やっぱこれってシェルトさんの職権濫用だよね……)


 少年を落ち着かせ、路地から走って人の多い場所へと誘導させる。

 これでよし。あとは召喚獣を片付けるだけ、だけど……。


「召喚獣の弱点か……セタ、サイの弱点ってなんだ?」


『角じゃないかな? 流石に安易すぎる?』


 安易で、それでいて安直だな。


 ……いや、やってみる価値は大いにある。


 もう一度召喚獣と相対する。俺の2倍ほどの高さを持った召喚獣を目の前にすると、自分の小ささがよくわかる。

 確かに怖いが、今はやるしかないんだ。


「リッキー、角だ! まず角を狙おう!」


 屋根の上で待機していたリッキーが声を上げる。


「分かりました。『占長札:河蝶なる蒼槍(かちょうなるそうそう)』っ──!」


 リッキーが手に持った札は、槍のような形に変化して召喚獣に飛んでいく。

 狙いは召喚獣の目と目の間の角。照準はバッチリ、召喚獣は避けるそぶりも見せない。


(このままなら……いけるか?)


 畳み掛けるために俺も魔力の糸を準備する。


 リッキーの放った河蝶なる蒼槍が召喚獣に当たるギリギリのタイミングを見計らい、突撃する。


「魔闘真流、転醒 魔力の糸【束縛の鎖(チェインバインド)】!」


 指の間から出された魔力の鎖と、青い色をした槍が同時に召喚獣に襲いかかる。それでも、召喚獣は動かない。


「ならこっちのもんだ、行けッ────っあ!?」


 魔力の糸が召喚獣に絡んで、確実に拘束できていたはずだった。今頃召喚獣は角を穿たれて、少なくともダメージを受けていたはずだった。なのに、どうして!?


「ッ────ガハッ!!」


「リッキーッ!!」


 召喚獣はリッキーを足蹴にした。その勢いで、リッキーは俺の後方へと吹き飛ばされてしまう。

 おかしい……! どうして、どうして召喚獣が……天井の上に移動しているんだ!?


 槍としての役割を終えたかのように、一枚の紙の札な俺の目の前に落ちてきた。生身、最初の、何も魔力が感じられない、新品のような札だった。


「いったいどうな…………って!!」


 天井の上に佇む、俺の倍ある大きなサイ。素っ頓狂な状況だけど、それよりもこいつの力の怖さがあった。


「こいつは、このサイみたいな召喚獣は──高速移動、するってことなのか……!?」


 召喚獣の咆哮が響き渡る。かの獣の目は、明らかにこちらを向いていた。もちろん、敵意はガンガン剥き出しで。


「高速移動ってか……瞬間移動か!? どうすれば!?」


「落ち着くんだエルヒスタ、抜け道はあるはずです!」


 後ろで体勢を整えたリッキーが叫ぶ。焦ってはいけない、瞬間移動にも弱点があると俺に伝える。


 大丈夫だ。召喚獣は一体のみ、周りに怪盗の気配は無い。

 この召喚獣をまず倒してから、その後に怪盗を探し出す。


 俺は手を召喚獣に向けて突き出して、そしてそのまま魔法の詠唱を開始する。打ち込む魔法の名前は【雷闢(らいびゃく)】。二本の雷柱を、俺の腕を中心に発現させる。

(──夏休みに鍛えたとはいえ、まだまだ俺の魔力量は他の人と比べて少ない。残弾を考えながら戦って、それで召喚獣も止めて……難しいけどそれをしないと、やられる!)


 足に思いっきり力を込める。隣のリッキーを見る、彼も占長札に魔力を込めている。


「『雷一閃 稲妻よ走れ 貫け電撃 【雷闢(らいびゃく)】』っ!」


 バチバチと火花を散らした雷柱と共に突撃する。侍らすように魔法と併走し、その後に雷柱を時間差で発射する。


「『占長札:速水激流刃(はやみげきりゅうば)』!」


 リッキーの占長札が俺の上を通ることを確認して、俺は地面を蹴る。そして召喚獣の裏に回り込むように飛び出しながら、奴のたたずむ天井へ跳びこんで拳を放った。


「おぅ────ら!」


 召喚獣の角と目が光る。……何かが起こる。


「でもっ……もうおせぇんだよ!」



 瞬間、召喚獣が唸った。瞬間、視界がずれた。










 瞬間、召喚獣が視界から消えた。



「────っっ」


「避けろエルヒスタッ!! ()()()ッ!」


 何となく、今のこの状況を理解しようとしない自分がいることはわかっていた。

 わかろうなんて思える方がすごいし、この状況で冷静に分析できる奴はそもそも今の状況を作らない。


 後ろを振り向く。そこには、占長札で作られた鋭利な刃と日本の雷柱が迫っていて、今まで俺がいたはずの場所に召喚獣が飛んでいた。

 俺と召喚獣の位置が、入れ替わっている。

 つまり、召喚獣に与えようとしていた攻撃が、全部俺に向いているということ。まともに食らえば、再起不能になるということ。


「『風神よ、我を守り 我に追風(おいて)を与えよ 【風神結界】』……ッッ!!!!」


 雷柱一本、占長札の刃を風の結界でいなす。しかし後一つ、俺が時間差で打ち込もうとしていた雷柱が襲い掛かる。

「避けら────れっ……!?」


 途端、視界がまた揺らぐ。


 強烈な浮遊感から解放される安堵と共に、自身が地に伏していることに疑問を持つ。


「が────っっつ!!!」


「エルヒスタ、どうなって……いるんだ?」


 今まで俺のいた場所に、一枚の紙がひらりと舞う。変わりに俺は立ち上がろうとするが、強烈な攻撃で力が入らなくなって、後ろにいたリッキーにへたり込む。


「瞬間移動……じゃない!? これは、なんて言えばっ」


「──座標交換、そう呼びましょう。……あとエルヒスタちょっと早くそこどいてくれません?」


 すまない、と一瞥して立ち上がる。目の前には召喚獣の巨体が迫っている。


「座標交換……ねえ」


 瞬間移動より厄介だな。────だけど、高速移動よりは楽に対処できる……はずだ。


 だから。やらなければいけないだろ。やるべきだろ。

 いや、やる。


「はぁ──リッキー、弱点を見つけ出す、30秒俺に貸せ」


「ふ、ははっ……ああ、了解しました」


 乾いた笑いと共に、リキッド・ダイヤルが肩を掴む。


「時間稼ぎ? もちろん、それ以上を遂行する。王冠(インペリアル)の力を、甘く見ないことですよ!」

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