46 目覚める灼熱の刀、猛る不凍の熱き焔
最初の猛攻を掻い潜れたものの、まだ、あの怪物の攻撃は止まない。
「こいっ、魔力の糸! くっ、なんだよこの速さ、この力ッ! 今までとは比べ物になんねぇよ!」
『大丈夫、力的には拮抗してる! そのまま押し勝て!』
いやいや流石に無理だろセタ! 俺はそこまで強くねぇ!
ソウイチとユノちゃんの方を見ることもできない。ビーム、突き刺し、またビーム。キリがない。攻撃に終わりがない、攻撃できない。
「がっ!」
頬が切られる。それだけで、臓腑を抉り取られるような痛みが、頬を中心に体の中を駆け回る。血は少ししか出てない、かすっただけだ。だが、この痛みは……
『毒かもね、エル君。慎重じゃ無理かも、急かす気もないけど短期決戦しか勝ち目は無しだ。それに──』
「せめてっ、希望的観測してくれっ! まあ、相手も短期決戦を望んでるんだ」
ただ────
光った。それに気付いた時にはもう、怪物の攻撃は済んでいた。
左手の感覚が無かった。冷静に考えることができるのは、多分まだそのことに実感が追いついていないからだろう。
血が、出ていた。皮が裂けて、そこから痛んできていた。すぐさま理解する。
(さっきの光、ビームで……)
そこで、ハッとなる。ユノちゃんとソウイチは、ユノちゃんとソウイチはどうなった!?
後ろを見る、さっきまでユノちゃんたちがいたところには、大きな土煙が立っていた。
「まずい、もしかしたら!」
さっきのビームは俺で無く、彼女らを狙ったものだ。確実に!
『エル君ッ!!!!』
セタの声。俺はすぐさま怪物の方へ振り向いた。
「う────ッ!! ぐぅぅ!」
脇腹を、抉り取られるようにビームが放たれる。それをもろに食らってしまった。立ち上がれない。
怪物は二発目のビームを放つ態勢になる。
俺を確実に殺すため、尻尾や鋏角を使って覆いかぶさるような態勢になっている。逃げ場など、無い。
もはや、死ぬことを考える余裕さえない。目の前の恐怖に、争うことしか考えていない。
怪物は待ってくれない。二発目の、確実に俺を消炭にするような凶砲を、打ち込んだ。
そして俺は、目を──
「魔闘真流────────剣術、奥義」
瞑ることができなかった。目の前に、刀を持った羽織りの少年が飛び込んできたからだ。
「炎舞 火廻!!」
ドゴゴゴッ!! と、大きな音と共に凶砲が、一瞬にして灰燼となって消えた。
「大丈夫か、エルヒスタ・レプラコーン」
「ソウイチ! ……ソウイチ? えっと、誰?」
まず声色が違った。いつもの調子の乗った声では無く、何か包み込むような暖かさで、それ故に他人を近づけない冷たさを持っている。
目つきが違った。いつもは今を生きているような瞳をしているが、今はまるで「今」を見ていないような、過去・未来を見通すような目をしている。
そして──髪の毛を解くように、うなじから、羽織りに隠されていた長い髪があらわになる。
「私の名前は、ココノエ・ロンダー。今は訳あって、ソウイチロウの代わりをしています」
「ココノエ……ロンダー? ソウイチの、代わり……?」
はぁ、とため息をついてから彼、いや彼女は俺に向かってこう言った。
「下がっていなさいエルヒスタ。ユノ・ワロキアは無事です。あの子のところまで行けば、あなたを蝕む毒は解かれます。彼女は凄い、私よりもずっと。だからさあ、行け!」
「ちょ……」
咄嗟に言おうとした言葉が詰まる。「ちょっと待て」という言葉が。突然吐かれた強い口調に驚いた訳ではない。俺は咄嗟に理解した。ああ彼は、あの怪物を殺すつもりなのだと。そして、それができるだけの力を持っているのだと。
「エル先輩こっちです!」
──わかったよ。催促するユノちゃんの声。
「頼む、ココノエ」
「はい、任せてください!」
体を引きずって後ろへ下がる、ユノちゃんのところへ。
「魔闘真流剣術奥義、炎舞 火鉢!」
轟音、そして閃光。ソウイチ、いやココノエと怪盗の戦いが始まった。
☆
「凄い……」
剣舞と4本の腕が、文字通りの火花を散らす。ソウイチ、いやココノエの剣技。その流派、魔闘真流。
魔闘真流の正式な継承者は、ありとあらゆる武器を扱うことに長けている。剣術から武術、槍術に瞑想術、はては調理術まで、ありとあらゆる行動を、魔力を使って強引に強化する。その極限、技の反復性と平均性を求めた【奥義】は、その術に最も最適な【属性】のような能力を扱うようにして詰め込まれている。
例えば、俺の使う拳闘術。『一撃の重さ』に重きを置いた拳闘術は、雷と同じような一瞬の力を強化するように魔力を設定する。故に、瞬間火力以外──例えるなら継続戦闘能力は残念であるが持ち合わせてはいない。
それに比べて剣術は、拳闘術とは真逆の『手数・継続的戦闘能力』に重きを置いている。どんな状況でも、燃え続ける魂の種火のように。
『エル君、魔力の糸の解除を早く』
ユノちゃんの魔法で、毒が消えはじめている。
「……だめです、エル先輩。これ以上戦場に立つことは……無理です」
ちっ──意識が少し朦朧としてきた。回復魔法の弊害、副作用。それが顕著に現れる。
「どこまでなら、俺でも戦える?」
「ですから……そうですね、魔法数発──やっぱだめです! もう無理です!!」
なんだ、ユノちゃんも戦えるってわかってるじゃん。
「魔法数発……ね」
『どうするつもりだい、エル君? 君の体はとっくに限界を超えている。肉体ダメージが薄いのが不幸中の幸い──」
あ? 不幸中の幸い? セタさんよぉ、それは違う!
顔を上げた。半分自虐的に、やつれながらも吐き捨てた。
「幸い。最大の幸いだ! 弱くて柔い俺に、まだやるべきことが残ってんだから、まだやれることがあるんだからなっ!」




