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俺にファンタジー世界は早すぎたみたいだ  作者: ノエル・L・ファント
四話 呪いに対し抗う者たち→焦がして
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47 弱き者に、今できること

「どうしましたこのクソ怪盗サソリ野郎、攻撃しているの? その腕、止まって見えていますよ?」

 ココノエ・ロンダーが軽口を叩く。サソリの形をした異形の融合怪物は今、その髪の長い炎刀の少女に劣勢を強いられている。

「テメェ黙ろうか、少しッ!」

 そのサソリ──怪盗のガーメスは()()()()()の自我を取り戻して、怒りを声で、そして体で表現する。


 刀一本で敵の攻撃をいなしながら、視界を2人(エルとユノ)の方向からずらすように怪物を誘導する。燃え盛る彼の刀は、戦いの終わりを感じさせるように轟々と焔を滾らせていた。

「毒が効いていない……?」

「当たり前です、燃やしてますから」

 そう言って、ヒュンと刀で空を斬る。それと共に、怪物が用意しておいた毒が全て焦がされていく。


「毒を燃やす? どうりで……か。ははは」

 怪盗が、理性のかけらもないような声で笑った。殺人ウイルスをばら撒く凶悪犯罪者のような低くてドスの効いた、他人に恐怖を与える笑い方。もはやさっきまでの、なけなしの理性すら打ち捨てて、ただ恐怖を作り出すためだけに存在するように。ただ、怪物の本能に身を任せるだけで。

「なら、毒を直接撃ち込めばいい話だ。自分の体、燃やすか崩れさせるか、テメェはどっちを選ぶ?」


 その戦いを一番近くで、一番遠くで見ていた弱者がいた。

(どうすれば戦える? どうすればこの状況で力になれる? 考えろ、脳を動かせ。戦いの事だけを、怪盗を倒す事だけを考えろ!)

 保身を考えてはいけない。犠牲を惜しんではいけない。分かっているが、踏ん切りなど付くはずがない。だって、エルヒスタは──


 ──アストゥーロやトゥルオーラ、シェルト、ギルカなどとは違い、怪盗に復讐する理由がないからだ。戦う理由が薄いからだ。誰かのために戦うことは悪いこと、という訳ではない。ただ、違う。決定的に違う。憎しみと、思いやりやお節介では。その何もかもが違うのだ。悲しみ、苦しみ、痛み。奪われたものは、奪うことでしか自分の穴を埋めることができない。それ故に強く、強く狂うのだ。


 優しさは弱さだ。でも、その弱さは弱くない。脆く、小指だけで崩れ去るようなものであっても。優しさは弱い。けれど、優しい者は強いのだ。


(……やるしか無いんだ。善の心があるのなら、それしか無いのならっ!)

 「やるしか無いだろ」とボソッと呟く。それを見たユノもまた、ため息をつきながらも「お手伝いします」と独り言。


『君の全てを引き出そう。僕にできることは全てする。だから、見せてやれ。()()の強さを!』


 ある人が言っていた。弱い人間は、決して脆くなんかない。ずっと踏みつけられて、草花は強くなる。臆病だからこそ、危険をいち早く察知できる。卑屈だからこそ、打算的な行動が取れる。心配性だからこそ、計画をしっかりと立てることができる。


 その弱さを、強さに変えろ。弱いことを言い訳にするな。安全地帯であぐらをかいて待つことが、弱者の仕事ではない。


 弱いからこそ、今できることを考えろ。惨めな考えを、消極的で、なんの意味もない腐り切った考えを、俺は──

「俺のやり方で、俺は戦う!」

 ──否定する。

☆★☆★

 結局のところ、人間1人で怪物に勝とうなど、考えるべきではない。

「どうした!? 刀が止まってるぞっ!」

 ココノエは苦しい戦いを迫られていた。最初に毒を打ち込まれた瞬間、それだけで形成が逆転してしまう。心拍数を上げて戦うので、毒は早く体を巡っていく。ヒリヒリするような痛みと不快感、そしてそれに伴って集中が切れていく。

「くっ、あがっ──!」

 膝をついたところを、その自由自在な尻尾が狙う。かろうじて攻撃を逸らすことに成功したココノエだったが、刀の炎は既に尽き、ただ残火の揺らぎがあるのみだった。


 ココノエは完全に劣勢に立たされているのだ。エルヒスタは観察して理解する。勝つために必要な()()()は必要がないのだと。最初、物凄い優勢であったココノエなら、コンディションさえ合えば必ず勝てると。


 そのために、まずは。

「魔力の糸、っ……力魔の深根(スピリツリー)──」

 魔力を使って魔力を空気中から吸い取る。無論、自分の魔力ではないため、かなりの不快感を感じる。しかも、霊脈も何も無い土地の魔力は、言いにくいがとことん粗悪だ。


 無いよりましだ。そんな考えで魔力はエルヒスタに触れていく。何をするかは、まだ考えてはいない。だが、この戦いに介入できるなら、エルヒスタにとっていちばんの策が魔力を使った行動なのだ。それだけだ、それだけなのだ。


 理由なんてそれで──

「……魔力を、吸い取る」

 ココノエを見た。毒な侵されて劣勢。エルヒスタはここから動くことは難しい。ユノが接近することもできないので、()()()()()()()解毒できない。


 だが自身に回る毒なら? 代わりに毒を吸い取れば?


 簡単に答えが決まった。吸い取った魔力を全部使った、極小の糸がココノエの周りを回る。


「──ふふっ、どうやら私の勝ち……みたいですね」

 膝をついたまま、誇った顔のココノエ。それを見て怪物は狂い唸った。

「なら、ならッ!! ……お前らを殺すまでだッ!!」


 ビームがエルヒスタとユノを襲う。ココノエへからまだ毒を吸い取れていない。

「う、ぐ、ぐはっ!!」

「アババっ、バーっ!!」

 ユノを突き飛ばし転がるエルヒスタ。もちろん、ビームなど回避できるはずがない。


「吸い取ったぜ……お前の毒っ」

 意識ギリギリで、耐える。毒を回すまいと身体中の血液の流れが遅くなる。酸素が回らない。

『エル君このままだと!!』

 だが、笑っていた。何故か、分からないが。そこには不思議な安堵があった。回った毒はユノが、化物のような怪盗と召喚獣はココノエが、それぞれ対処してくれると思ったから。だが、魔力の糸の吸収を止めてはいけない。また毒が撃ち込まれたらどうする!?


「こんなんで、死ぬかよ」


 毒を吸い込まれたココノエは、自身が完璧な状態であると誇示するかの如く、刀を煌々と閃かし、轟々と焔を滾らせていく。

「魔闘真流」

 仁王立ち。無防備。ただ、エルヒスタとユノの尽力で、どれだけ毒を撃ち込まれても吸い取られる。また、他の攻撃も半分以上魔力の糸で迎撃される。


「剣術奥義──」

 刀を前に、目を瞑り、練られた魔力は大輪を咲かす。異様な空気、それはココノエの、ソウイチからの魔力の変質からか。体の周りに、チリチリと火花が咲いて散る。その一つ一つが盛る。


 そして、開花する。赤き花弁が舞い踊る。

()()

 そのすべての炎が、彼の手に持つ一振りに。


「──総逸の、灯火」


 刹那、閃光が世界を襲った。

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