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俺にファンタジー世界は早すぎたみたいだ  作者: ノエル・L・ファント
四話 呪いに対し抗う者たち→焦がして
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45 毒を食らわば皿まで

「怪物……」

『ほへー、おっきい。いやキモすぎでは!?』

 怪盗と召喚獣が合体した……ように見えた。異形、怪物、魑魅(ちみ)。とにかくヤバいとしか言いようがない。もう退けないのに、逃げたい。


「これが……俺だ……怪盗の、力だーッ!」

 形はほぼさっきまでの召喚獣と変わりはないが、腕が4本に増え、胸からはガーメスの顔と腕だけが生えていて、また尻尾が三叉に分かれていた。

「うんこいつ完全に人間辞めちゃってんなっ!」


 腕──つまり鋏角が横薙ぎに振るわれて、俺の命を刈ろうとしてくる。魔力の糸では対処不可能だろう。化物の攻撃は、明らかにパワーとスピードがアップしている。対して俺の魔力の糸は練度が足りない。魔力を集める時間も足りないから使用することができない。

「死ね……死ね死ね死ねッ!!!!」

 苛烈になる攻撃。完全に狂ってるはずなのに、的確に隙を潰されてしまっている。攻撃のチャンスが掴めない。今の怪物には、【閃光】一回でも当てることができないだろう。少なくとも、今の俺では。


「チッ、くそっ! 4本腕は無理だっ、ろ!」

 魔力の糸を動きながら作り出す。避けながらだとかなり至難の技。しかも今魔力の糸を、とっさに防御にでも使ってしまったら防ぎきれずに(現世から)一発退場してしまうだろう。糸を練り上げ、練度を高めていく。

『左っ!』

 魔力の糸は万能だが全能ではない。立体機動性を糸を使って無理やり引き上げたりだとか、そんなことはそうそう無理だ。しかも、使うごとに自分の魔力がバンバン消費されていく。はっきり言って辛すぎてヤバイ。でも退けないのは、後ろに背負っている2人……いや、お祭りを楽しんでいるであろう街の人やアストたちがいるから。

「負けて、たまるかよっ!」

 また避ける。またまた、まだ避け続ける。それしか、俺に方法は考えつかない。いや、考えるために避け続けるんだ。


 そして召喚獣が、怪盗が動いた。今まで自由にされていた三叉の尻尾の先端が、こちらを向いた。

「キヤァァァ! 死ねッ! 滅びろッ!!」

 そして、謎のビームが俺めがけて放たれた。


「くっ……」

『エルくん大丈夫か!? 生きてる!?」

 大丈夫、生きてる。だから大丈夫。後ろを見るが謎ビームで負傷はしていない様子。ユノちゃんは、まだ意識のないソウイチを遠くへ逃がそうと引っ張って動かしている。


「キヤァァァ、ガガガッ!!!」

 召喚獣と怪盗の融合体の、その巨躯が動く。


 避ける、右に、左に、上に。魔力の糸の練度を高めながら攻撃を回避する。ビームも、鋏角も、その威圧的な召喚獣の顔面も……その、殺戮に心を飲まれた怪盗も。全てを避けて、攻撃の機会を窺う。だけど、隙らしい隙を見つけることができない。理性ぶっ飛ばしながらただ暴れているだけではない。ビーム、鋏角、あらゆる攻撃で自分の隙を埋めているのだ。

『左!』

 ジャンプした直後、尻尾が弧を描いて俺の首筋を撫でるように引き裂こうとする。セタの忠告を聞いていたため、体を思いっきり丸めることで避けられることが理解できた。

「ありがとうセタ。多分今の、俺死んでた」

『よそ見しない、隙は作る! いついかなる時も、エル君の両目で見極めるんだ! まあ僕も、手伝わせて貰うけど!』

 隙を作る、か……。やってみたいが、まだ怖い。それには、セタの詠唱魔法も必要になってくるかもしれない。


 セタが魔法を放つと俺の体に負荷がかかる。それがどの程度なのかは、まだまだ分かりきったことではない。もし今の動きが、セタによって阻害されてしまったら……俺は毒入りの挽肉だ。


 いや少しまて──毒? そういえば、融合してから毒の攻撃を受けていない。物理攻撃が強くなって、毒の力が失われるということは考えづらい。つまりは、つまりだ。俺は最初、あの召喚獣……もしくは怪盗ガーメスに幻覚を見せられていた。今は、どっちだ? これは、この目の前にいる化け物が、俺に幻覚を見せている可能性もあるのか。いや、そんなこと言ってちゃ埒が明かない。


「毒なんて、かかってても……ぶっ飛ばすッ!」

 突き刺してきた尻尾を、右足で蹴り上げて軌道を逸らす。次に左足を使って鋏角をいなす。隙は作るものだ、見つけるものでもあるけど……自分で、動くんだ!


 反対になった視界で、俺は右手を突き出す。ここでしか、攻撃できない。多分、反撃されると思う。もしかしたら防御されて、ただ相手の攻撃を、この無防備な状態で食らうかもしれない。

『そんなこと知ったことか! って言いたい?』

「ああ、知った……ことか、ぶっ飛ばす!

『雷一閃

稲妻よ走れ

貫け電撃【雷闢(らいびゃく)】』!!」


 轟音、閃光、最後に無音。一瞬の出来事だったが、俺には時が止まったように見えた。融合体は、さっきの3本の雷柱で動きを止めている。

「やっ……てるわけないよな。セタ、警戒態勢よろしく」

 『了解』とセタの声。


 息を吐く。魔力の糸の練度は充分で、完全に十分だ。

「魔闘真流、転醒。魔力の糸【束縛の鎖(チェインバインド)】」

 指の間から出された魔力の鎖は、完全に融合体の要所要所(鋏角や尻尾)を巻き込んで拘束していた。


「一応、拘束できたか? セタ、生体反応は?」

『バリバリにあり。でも、魔力の糸の硬度はそんなに弱くない。引きちぎられることはあっても、霧散させられるようなことは……ないんじゃないかな?』

 融合体に近づいて、怪盗の目の前に立った。目をつぶって、静かに細い息をしている。

「聞こえるか、ガーメス。お前を拘束した。大人しく融合を解除し、この街から立ち去れ」

 少しの時間の後、うう、と呻いて、怪盗はその目を開けた。

「エルヒスタ……か。なぜ殺さない、俺を。お前にも何か、あるだろ……? 怪盗のせいで、召喚獣のせいで、失ったものが……」


「そんなものは……ない。殺さない理由は……うん、情報が欲しい。早くその融合を解いてください」

 ガーメスが肩を落とした……ような気がした。

「やり方、ないよ。多分な」

「……それでは、おかしいと、思う……な」

 だって、そうだろう。当たり前だろう。何で優位に立っていたやつに、こんな身を削るような手段を仕掛けてきたのか。意味がわからない。召喚獣との融合は、とても苦しいだろう。隙を窺うために、行動をよく観察していたからわかる。何で俺みたいなひ弱な奴のために、暴走しているようにエネルギーを喰らい尽くす存在に成り果てそうになったのか。


 俺には、全然わからない。


「動揺するのも無理はない。俺は、このサソリと相性が悪いんだ、ほかの【()()()】……デルシャ嬢や下っ端怪盗と比べて。それに……もうじきこいつは暴走を始めるだろうな、俺を飲み込んで。もう、無理だ。これ以上話すことはない。俺を、止めてみな」

「暴、走。……止められますか、俺に」

 ガーメスは笑った。さっきまでの憑物が落ちたみたいに。自我を取り戻して、優しくなったみたいに。


「だがエルヒスタ……お前に、できるかな。この──」

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

「──この状況で生き残ることが!」

 尻尾と、鋏角、頭の角、目、その全てが俺を包むように、飲み込むようなところにある。

「包囲、された……セタ!」

『わからない、毒かもしれない。何で、僕は見ることができなかった? いや、ごめんなさい。これを、突破してくれ。ごめん、エル君』

「攻めてるわけじゃないよ、セタ。俺だって、魔力の糸が千切られたことに気付かなかったから」


「さっきから誰と会話をしているんだエルヒスタ! ……俺の、装獣者の攻撃を喰らえッ!」

 ──怪盗の刃が、エルに向かって激しさを増して貫く。


 ()()を取り戻し、より強固になる。それは、優しさではない。


      怪盗ガーメスの、凶暴性(ポイズン)だ──

絶体絶命

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