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異世界旅行部  作者: ほんわか八咫烏
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活動記録 4頁目『本棚の世界』



“おもちゃ”で作られた夢のような世界を堪能した五人は、暫くテスト週間ということも相まって活動を停止していた。とはいっても、この旧校舎の一室は紫音と流星に一方的に勉強を教えてもらう地獄の部屋とかしていたのだが。



そして定期テストを命からがら終えた彼らは、この狭苦しい一室に再び集ったのだ。



全員が集まった頃、紫音はホワイトボードの前に立ち、予め宣言をしておいた。


「多分今回は、私以外興味のないものになってしまうけど、許してね?」


「そんなもん、今に始まった事じゃねーよ。」


テスト疲れからか、翔はいつにも増して怠そうに返事した。確かに個性と個性が殴り合うこのメンバーじゃ、中々満場一致で行きたい、となる世界は少ない。誰かしらは必ず文句を口にする。それは主に翔と玲羅だ。


しかし彩葉は、そんな気怠げな翔に聞こえるか聞こえないかの声量で呟いた。


「……なんだかんだでいつも一番楽しんでるくせに」


その瞬間、彩葉の隣に座っていた玲羅は思わず吹き出した。彼の単純さは、まるで子供のようだ。嫌だ嫌だと言いながら、実際やってみると一番楽しそうに過ごしている。この学校非公認………と言うよりかは、そもそも存在すら知られていない“異世界旅行部”に彩葉が勧誘した時、文句を漏らしながらも翔はちゃんと来てくれた。ぶっきらぼうな表情で隠しているが、この部で一番乗り気なのは、と聞かれると恐らく全員が翔だと答えるだろう。


どうやら彩葉の発言は翔の耳に届いてしまったらしく


「うるせぇ」


と一言吐き捨てて、顔を腕に埋めた。




「それじゃあ、勿体ぶってもしょうがないから、早速発表するよ?」


紫音はいつも冷静で落ち着いた雰囲気があるのだが、今回は少し浮き足立っているのがうかがえた。まぁ、紫音が心躍らせるものとなると、候補は幾つかに限定される。


「私が行きたいのは、“本棚の世界”です。」


紫音がそういうと、やっぱり、と全員が納得の色を見せた。










◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





いつもの事なので、扉の下りは割愛させていただこう。



なんら問題なく扉を通って来た五人の前に広がったのは、巨大な図書館のような室内だった。何層にも分かれた本棚が壁一面を囲い、二階、三階、と全てのフロアを埋め尽くしている。


その様子は大きな吹き抜けがある一階から良く見えた。色取り取りの背表紙の本が並び、本に興味がない人でも思わず感嘆の声を漏らしてしまうだろう。


そしてその吹き抜けには、何やら青白く輝く球体があった。どうやら、3Dホログラムのようだ。この本棚の世界には似つかわしくないサイバー的な物だが、なんとなく雰囲気にマッチしていて綺麗に見えた。もう少し近づいて見てみると、それはどうやら地球を表した立体ホログラムだということが分かった。


「でっかーい!」


彩葉は思わず、声を張り上げた。

玲羅はすかさず


「図書館では静かにね。」


と人差し指を立てて返した。

まるで子供をあやしているようで、流星は思わず失笑する。彩葉はムッとした表情で流星に睨むも、責めどころのない笑顔で簡単に流されてしまった。


そんな彼らに対し、紫音は興味深そうにそのホログラムを眺めていた。


「……どういう事でしょうね。」


そんな様子を見て、彩葉は紫音に質問した。


「どうかしたのー?」


紫音は、そのホログラムに少し疑問を抱いていた。恐らく大陸の形から見て、地球であることには間違いないだろう。日本列島もある。見間違えるはずもない。


ただおかしいのは、惑星のホログラムの南極に位置するであろう部分に大きく穴が空いているという事だ。そして更に、その穴と対極の北極であろう場所にもぽっかりと穴が空いている。


その理由はわからないが、紫音にはそれがとても不思議に思えた。


「見て、地球に穴が空いてる。」


紫音は彩葉に教えるためにその部分を指差した。


すると彩葉も「おぉ、」と声をあげて身を乗り出した。


「凄いね! 何か秘密の入り口みたい!」


彩葉にとっては何の考えもない無邪気な発言だったのだろうが、紫音は面白い考えだと捉えた。なるほど、そういった考え方もあるのか、と素直に感心を示した。


もしかするとこの“扉を通じてやってくる世界”は、この穴の中にある秘密の世界なのかもしれない。所謂、異世界というものだろうか。なんとなくで皆んなが部活名を決める時に「異世界旅行部がいい」と言い出したのがキッカケだったが、案外間違ってもいないようだ。まぁ、地球上に“お菓子の世界”だの“おもちゃの世界”だの存在しない事は明白だったのだが。


本当にいつか、彩葉の言っていた“この世界の秘密”とやらにも辿り着けるかもしれない。


何だか面白いことになってきた。



紫音は楽しそうに顔を上げると、部活メンバーは既にこの場から姿を消していた。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





「思った以上に広いね!」


流星は遠足に来た子供のように、視線をあちらこちらと移しながら言った。


「ほんと、私は本に全く興味ないけど、なんかこういうのは好きなのよねー。」


玲羅もまた周りを首が折れそうな勢いで見回しながら感想を述べる。その意見に、流星は秒単位で同意する。


「あ、分かる!興味はないけど工場のパイプラインとか、バーカウンターとか好きな物があるよね。」


興味はないが、どうしてか好きなものがある。流星と玲羅は互いに共感しながら笑いあった。


この本棚の世界でもそうだ。

対して本は好きではないにも拘らず、ずらりと整頓されて並んだ本棚には、どこか芸術性すら感じる。無意識のうちに、心を揺すられているのだ。綺麗、美しいと脳が勝手に解釈してしまう。


360度、見渡す限りの書架が二人の美的感覚を刺激していた。


「本当に、幻想的よね。」


「海外のおしゃれな図書館みたいだよね?」


玲羅は「あー、」と納得した声を漏らした。


「大学図書館みたいな?」


「そうそう!」


流星も少し舞い上がったように、玲羅の例えに同意した。


「別に本を読まなくても、眺めてるだけで気分が良くなっちゃうよ。」


流星は近くに置かれたソファーに腰掛けると、軽く伸びをする。そして改めて、この“本棚の世界”を見渡した。


流星は、きっとこの景色に飽きることはないだろうと感じた。それどころか、ちょっとした妄想も捗る。


こんな場所で目を覚まし、洒落たコーヒーとベーコンエッグを乗せたトーストを食しながら、英字新聞でも読む。


なんだかちょっと大人になれるような気がした。



「それじゃあ、私はもうちょっと探検してくるわ!」


ソファーに囚われてしまった流星を置き去りにし、玲羅は広い通路を駆けて行った。確かに、この広い空間を走って見ても楽しいかもしれない。こんな所で鬼ごっことかしても面白そうだ。


「転ばないようにねー。」


そんなことを考えながら、流星は子供のように走り出した玲羅にまるで母親のように言った。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「ねぇねぇ!紫音ちゃん!」



何やら楽しそうな声をあげて、彩葉は紫音の元に駆け寄って来た。


「どうしたの?」


紫音はわくわくを堪えきれない様子の彩葉に、優しく問いかけた。すると彩葉は「面白いものを見つけた」と愉快そうな声をあげ、持っていたものを紫音に見せつけた。


彩葉が持って来たのは、黒く、表紙に何も書かれていない本だった。それどころか装丁に鍵まで付いている。明らかにページをめくってはならないものだという事が見て取れた。


というよりも、紫音はその本についての正体を知っていた。実際に読んだことはないが、某コズミックホラーの小説で似たようなものがあると読んだ事があった。



「……その本は多分、読むと発狂するからやめときなさい。」



目を輝かせる彩葉を紫音は諭すと、その本を元の場所に置いてくるように言った。彩葉も流石に自分にも被害が及ぶことは嫌だったようで、渋々納得してとぼとぼと歩いていった。


鍵がかかっていた事が、せめてもの救いだった。あの好奇心の塊のような彩葉だったら、鍵がなければすぐに読んでいたに違いない。紫音は内心でホッとしていた。



ーーーあれはきっと魔道書の類だ。


それも、普通の人間が読むと精神がおかしくなる類の。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




翔は、かなり退屈していた。


景色もすでに見飽き、本を読む気も起こらない。ただただこの広い図書館を散歩し、あたりを見て回っているだけだ。高いところに登り、下から見上げるのにも既に飽きた。やはり、自分がこの異世界旅行を一番楽しんでいるというのは嘘っぱちだ。翔は自分が飽きっぽい性格であることをよく知っている。そしてそれは、自分の長所であると誇りを持っている。つまらない事は、自信たっぷりにつまらないと言い切れる人間だ。だからこそ、断言しよう。翔は今、物凄く暇である。


紫音は勿論、玲羅と彩葉も未だにこの図書館内を興味深げに見て回っている。その一方で流星は、ソファーに寝転がって動きたくないなどと言い出していた。


何か退屈をつぶせるものは無いのだろうか。せめて、コミック系の物があるといいのだが………。


そんな時、翔は少し面白いものを発見した。


「………ん? なんだこれ。」


それは、“何もない”本棚だった。


何もない、というのは言葉通り、本が一冊も並べられていない、空っぽの書架だ。


不審に思った翔はその本棚をしばし眺め、何か閃いたようにその床を見た。そこには、何かを引きずったような細かな傷跡があった。そして翔の頭は冴えており、その傷跡は半円状にできている。これは確定だ。


翔は棚の端を掴むと、思い切り傷跡に沿って引き摺って移動させた。



すると、そこには古ぼけた扉があった。

翔は、妙に冒険心がくすぐられていることに気がついた。如何にもな扉を目にして、どうして落ち着いていられようか。いいや、抑えきれない。なんて言ってもこの扉は……。



「………隠し扉だ。」






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「何これ!」


「隠し扉じゃん! 面白そう!」


翔は仕方なく部員をこの扉の前に招集させ、皆んなで隠し扉の中へ行くことにした。それは後々「どうして教えてくれなかったの」と文句を言われるのが嫌だったからだ。彩葉ならば言う。絶対に言う。


案の定、彩葉と玲羅の二人は飛び跳ねるように感情を表に出していた。この二人は好奇心の塊なので、はしゃぐ事は目に見えていた。少し意外だったのが、紫音や流星も隠し扉を凝視し、中を気にしている様子を見せていた事だ。やはり人間は、“隠されたものの中身”というのが気になって仕方がないタチなのだろう。


「………俺が見つけたんだ。扉を開けるのは俺でいいよな?」


そんな気持ちが前へ前へと進んでいく彼女たちを制止するように、翔は彼女たちの一番先頭に立った。


彩葉は納得がいかないように、間抜けな声を出す。


「え〜、なんで〜?」


それを機として、玲羅も不服の声をあげた。


「ほんとよ〜、ずる〜い。」


それに対し、翔はめんどくさそうに溜息をつくと、二人に冷たく言い放った。


「……気持ち悪い声を上げるな。」


そう言っても、彩葉達は食い下がる機がないらしく、翔に抗議を続けた。


ここから先は、最早いつも通りの眺めだろう。たった“扉を開ける”という一つの動作だけなのに、彼らは愉快に口論を開始した。その小学生レベルの喧嘩は十分ほど続き、流石にこれ以上長引くと面倒だという事で流星と紫音が三人を宥めた。


結局、最終的には翔が扉を開けることとなり、二人はそのすぐ後ろで待機する事となった。


「……それじゃあ開けるぞ。」


部屋の中は薄暗く、そしてひんやりとしていた。翔が慎重に足を踏み入れると、突然ライトに明かりが灯った。


「うぉっ!」


翔は唐突なライトオンに、少々驚きを見せた。その様子を彩葉と玲羅は、先程の腹いせも含めて大袈裟に笑った。


「ただライトついただけじゃん!」


「おやおやぁ〜、翔君は案外ビビリなんでちゅね〜?」


翔は盛大に舌打ちすると、


「その口縫い合わすぞ」


と暴言を吐き捨てた。

それももう何時ものことなので、誰も怖がる様子は見せなかった。それどころか、二人は更に煽り続ける。


「やだ〜、この人怖いよ〜。」


「見ちゃいけません! 野蛮が感染っちゃう!」



最早翔の暴言は日常茶飯事で、こういったじゃれ合いに利用されることが殆どだった。翔も厳つい顔から怒っているように見えるが、実際にはそれ程怒ってないとこも皆んな知っている。彼はそれほど短気ではないのだ。


そんなこんなで進んで行くと、そこには一つの台が置かれていた。その台の上には、一冊の絵本が乗せられていた。


五人は題名を覗き込むが、この世界の言語なのか知らない模様が羅列してあるだけで、全く分からなかった。


「なんて書いてあるんだろう?」


「さぁ、表紙だけ見れば、何かの流れ星かな?」


その絵本の表紙に描かれているのは、夜空を見上げる少女が一人。その少女の見上げた先に、一筋の光を描く虹色の流星が描かれていた。


そんな時だ。


その文字は矢庭に変化を始め、次第に見覚えのある文字へと移り変わっていく。


「うわっ、なにこれ」


「ある意味ホラーだな………。」


突然の事に、思わず翔も少し引いている。

そして象形文字のようだった文字は、日本語へと置き換わっていく。まるでこの部屋に来た人間の知っている言語に合わせて、絵本の言葉が翻訳されていくようだった。



そして、出現した題名にはこう書かれていた。



『虹を描くほうき星』



玲羅は不思議そうに題名を眺めると、


「なんか、それほど特別そうでもないね。こんだけ厳重にされてる割には。」


と疑問を口にこぼした。しかしその一方で流星は、少しそわそわしたように


「ま、一回読んでみようよ。」


と皆んなに促した。どうやら早く読んでみたいようだ。確かに、隠し部屋に収納されている絵本だ。何やら、特別な内容であってもおかしくはない。彩葉も早く読んでみたいという意図を全員に伝え、皆んなもこの絵本を読む流れになった。






そして彩葉は、表紙を捲った。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





『虹を描くほうき星』





きょうは、雲ひとつないきれいな夜空です。そんな夜を、ひとりの少女が窓からながめていました。


少女はまいにち、こうして夜空をながめるのが好きでした。そしてながれ星を見つけると、いつもちいさな願いごとを言います。


ですがきょうは、ながれ星がながれません。



少女は少しおちこんで、きょうはもう寝ることにしようと思いました。



その時です。



まるで虹のように7色で、光りかがやく大きなながれ星が、夜空をかけぬけたのです。あまりにもキレイで、うつくしくて。少女はその大きなながれ星を、夢中になって見ていました。



しかし、ながれ星はすぐに遠くへ行ってしまい、見えなくなってしまいました。


少女はあわててお母さんのところに行き、さっきのながれ星の話を嬉しそうにしました。



「ねぇ、今の見た?」



ですが、おかあさんは首をかしげて



「ううん? 何かあったの?」



と少女に聞き返しました。

少女はすこし残念そうに、



「すごかったんだよ。虹色のながれ星がみえたんだよ!」



とおかあさんに話しました。

それにはおかあさんも、



「それはすごいわね。とても見たかったわ。」



と、少し残念そうに言いました。

それからおかあさんは少女の頭を撫でて、



「でも、きょうはもう遅いからおやすみなさい。また明日、その話をきかせてちょうだい?」



と言い、少女がねるまでそばで見守ってくれました。






そして次の日、少女は学校で皆んなに虹色のながれ星について話しました。はやくこの感動を、みんなと分け合いたかったのです。


ですが、誰も見たという人はいないのです。


少女は不思議に思いました。



どうして私だけしか見ていないのかな?



あれだけ綺麗なながれ星を、見逃すはずがありません。



その日の夕方、少女は近所にすむおじいちゃんに、このことを話しました。


するとおじいちゃんは驚いて言いました。



「おお、君は虹色の彗星を見たのかい。」



「すいせい?」



聞いたことがない言葉に、少女はおじいちゃんに聞き返しました。



「あれは“ながれ星”じゃなくて、“彗星”と呼ばれるものじゃ。“ほうき星”ともいうのじゃがのぉ。」



おじいちゃんは立派な白いひげをなでながら、少女に話してくれました。



「君は、そのほうき星がほかの友達には見えないことがどうしてかと聞きたいんだね?」



「うん。」



少女はうなづきました。



「それはね、君が選ばれたからじゃ。」



「選ばれた?」



「そう。君はお星様に選ばれたのじゃ。」



少女には、おじいちゃんが言っている意味が分かりませんでした。



「君は正直者だから、そして優しいから、お星様が君を選んだのじゃ。そのしょうこに、君にだけそのほうき星が見えたのじゃろう?」



少女は首をふって、おじいちゃんに言いました。



「私、全然いい子じゃないよ。おかあさんの言うこときかなかったり、約束を守らなかったり、嘘ついたり………。」



しかしおじいちゃんは優しく少女の頭を撫でると、



「そうして反省できるところが、君のいいところじゃ。」



と少女を褒めてくれました。それからおじいちゃんは夕やけをみて、



「もうすぐで日もくれてしまう。きょうはもう、お家にかえりなさい。お母さんも、心配していることじゃろう。」



と少女に家に帰るよう言いました。


帰りを待っているおかあさんを思い浮かべると、はやく帰らなきゃと少女は思いました。


少女はありがとうとおじいちゃんにお礼を言うと、手をふって帰ろうとしました。


ですが、おじいちゃんは



「ちょっと待ちなさい。」



と少女を呼び止め、あることを教えてくれました。



「次にそのほうき星が見えたとき、君はきっと大きくなっているじゃろう。そのときにまだ、この話をおぼえていたなら、君はあるものを探してごらんなさい。」



「あるもの?」



少女はくびをかしげて聞きました。

するとおじいちゃんはまたひげをなでながら、


「夢につながる扉じゃよ。」



と答えてくれました。



「夢につながる?」



なんてメルヘンチックなんでしょう。

少女はわくわくしておじいちゃんに聞きかえしました。おじいちゃんは夕日をみながら、少女に話してくれます。



「そう。虹色のほうき星は、“夢とこの世界をつなぐかけ橋”なのじゃ。夢の世界を見つけ、行くことができるのは、おほしさまに選ばれた人だけなのじゃよ?」



少女はうれしそうに目をかがやかせると、



「分かった!」



とげんきいっぱいに答えました。


そうして少女は、おじいちゃんにさようならして家に帰りました。









それから時間はながれていき、いつしか少女は立派な大人になっていました。


成長した少女の目の前には、ぼろぼろの木の扉がありました。それがどうやら、夢へとつながる扉のようです。少女はほほえむと、小さくつぶやきました。



「それじゃあ、おじいちゃん。夢の世界に行ってきます。」



そうして、少女は夢につながる扉をひらくのでした。








◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



全てを読み終えた彼らは、口々に感想を言い出した。それは野次るように、はたまた褒めるように。



「なんだ? その“俺たちの戦いはこれからだ!”みたいな終わり方。」


「別にいーじゃん。子供用の絵本なんだし。」


「それにしてももうちょっとなんかあるだろ?」


「作家でもないくせによく批判できるわね。これだから現代人は……。」



主に批判しているのは翔であり、擁護に回っているのは彩葉と玲羅だった。



そんな啀み合う三人を遮り、流星はぽつりと言葉を漏らす。


「でもさぁ、なんか似てるよね………。」


確かに思った、と紫音も流星の言葉に便乗した。


「夢につながる扉ねぇ………偶然にも思い当たる節があるわね。」


そう。この異世界旅行部が様々な世界へと渡るための扉………。それがもしかすると、この絵本に登場した“夢に繋げる扉”なのかもしれない。流星と紫音は少なくともそう考えていた。


しかし翔は馬鹿馬鹿しいと言いたげに鼻で笑うと、


「いやいや、これはフィクションだろ?」


と真っ向から否定した。しかし紫音はそうだとは考えなかった。


「だったら、あなたが言うようにわざわざ隠し部屋に置くような絵本でもないわ。」


この絵本は事実である。だからこそ、隠されていたのではないだろうか。それが紫音の主張だった。


彩葉は思いもよらない事で、この世界を少し知れたことにややテンションが上がっていた。


「ねぇねぇ! 誰か“虹色の彗星”って見た事ないの?」


翔は真っ先に首を振ると、


「いや、ない。」


と断言した。それに続くように玲羅も


「あるわけないじゃん」


と否定し、紫音と流星も続けざまに


「右に同じ」


「僕もないね。」


と言い切った。



彩葉は少し残念そうに肩を落とした。


「えぇ〜、誰もみてないの?」


それに託けて、翔はやっぱり自分が正しいと言わんばかりにドヤ顔で


「ほら見ろ、やっぱりあの絵本はフィクションなんだって」


と言い張った。


だがこれ以上紫音も言い争うつもりはなく、素直にそうかも知れないと認めた。


「それにしても、そろそろ足が痛くなってきちゃった。」


彩葉はここにきて、ずっと立ちっぱなしだったことに気がついた。その所為か、少し足に痛みがたまってきていた。それにつられるように、玲羅や紫音も大きく伸びをした。


「ま、今日はここらで帰ろっか。」


そんな彼女たちの様子を見兼ねて、流星はお開きにすることを提案した。


「それじゃあ記念に、何持って帰る?」


彩葉は部員たちにそう聞くと、翔が投げやりな感じで返答した。


「もう、この絵本でいいんじゃね?」


その提案は「それは流石にまずいでしょ」という声の方が大きく敢え無く却下となった。


「どうせなら、この世界の言語で書かれた本の方がお土産感あるよねー。」


玲羅は現実世界にあるような言葉の本よりかは、この異世界独特の言語の本の方が面白そうだと言った。確かにそれは一理ある。いつもバラバラなこの部員達が、珍しく満場一致で賛成とした。


「それなら、丁度面白そうなの見つけたのよ。」


紫音は全員を連れて、その冊子の元に案内した。紫音が近くにあった台に乗って取ったのは、少し大きめの辞典のような冊子だった。


「ここにイラストと文が書かれているのだけれど、なんだかちょっと面白そうなのよね。何書いてるかはさっぱり分からないんだけど。」


そう言って紫音は、パラパラとページを捲った。そこには、何やら宝具や器具っぽい物のイラストの横に、独特の言語の文が長く綴られている。


「おぉ、いいね! なんか雰囲気もあるし!」


彩葉は興味深そうにその冊子を眺めると、色々な想像を膨らませた。


「ほら! これなんか宝石に見えない?」


「どちらかといえば水晶かしら?」


「いや、案外ただの岩かもよ?」


イラストは当然白黒なので、文字が読めないとどんな物であり、どんな用途で使用されるのかは分からない。ただ、それが逆に様々な妄想をさせるのだ。彩葉は大事そうにその冊子を抱えると、


「それじゃ、帰ろっか。」


と笑顔で言った。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



その次の日のことだ。


放課後、部室で皆は思い思いのことをしていた。ある人は小説に没頭し、ある人は雑談に花を咲かせ、そしてある人は考えに耽っていた。


珍しく彩葉は何か考え事をしているようで、頬杖をつきながら静かに窓の外を眺めていた。そんな異常すぎる様子を流石に心配したのか、紫音は読んでいた小説のページに栞を挟んで彩葉に話しかけた。


「何かあったの?」


彩葉は小さく頷くと、頭に手を当てた。


「頭痛?」


紫音がそう聞くと、彩葉は首を左右に振った。それから彩葉は、小さく口を動かし始めた。


「………そういえば、私見たことあった。」


彼女が何を言っているのか、紫音には分からなかった。何を見たのか。その主語がぶっ飛んでいる。


「……何を見たの?」


紫音は彩葉に問うた。

すると一拍を置いて、彩葉は顔を上げると真剣な眼差しで言った。





「“虹色の彗星”」

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