第四次元:預言
今回は完全に一人の次元連続者の視点からスタート。
僕は次元連続者の一人、星海衛人、通称・測量士だ。この度とある派閥の副幹に指名された。まあご指名でNo.2に昇格できるのはめでたいことなんだけど、どうも話が一方的だ。
第一僕はその派閥に属していない。無所属でも十数の次元を支配してるから、十分副幹の資格はあるけど、それにしても全く関係のない僕をいきなり副幹に置けるものなのか。第二に、その派閥は外部への情報が少なく、閉鎖的なところがある。僕を指名したという派閥の大幹部は、占星術の伝承者らしい。はっ、今時占いって。僕も星を見るのが仕事だから関連性はあるかもしれないけど。まさか箔をつけるために僕を呼んだんじゃないだろうか。これからお目通りだけど、そうと分かればお断りだ。今まで目の曇った連中の勧誘を断ってきた僕の御眼鏡にかなうはずがない。
大幹部の部屋まで案内されると、案内してくれたターバンの男たちとベールの女たちは帰っていく。
星海衛人「ちょっと、部屋のカギは開けてくれないんですか?」
ターバン男「部屋のカギは開いております。預言者様は必要な時以外にカギを掛けないのです」
ベール女「今回はあなたと1対1で星の話をしたいとのことで、わかりかねる私たちは席を外させていただきます」
初対面の僕と大幹部を二人きりにするのか?それとも部屋には部下が隠れているのか?どちらにせよ舐めているとしか思えない。僕はさっさとドアを開けて、部屋に入った。
その部屋に入って思わず部屋の内装に見とれてしまった。天井は見事なプラネタリウム。僕が見る限り星の位置や微妙な動きが正確に再現されている。天井からの距離的にも観察しやすい。どうやら人工衛星からの映像を縮尺調整してリアルタイムで再現しているらしい。壁にかかっているのは、占星術に使うであろうホロスコープ。古いものから新しいものまである。それぞれ独特の解釈の違いがある代物で、見る限り本物の骨董品だ。これがインチキなら、全ての品を自分の理論に合わせておくはずだ。
預言者「やはりあなたは星に熱心な人みたいね。さあ、どうぞこっちへ」
対天井や壁に気を取られてしまった。部屋の中央にカーテンで仕切られた一角から、声を掛けられた。ずいぶんと若い女性の声だ。近づいて「失礼します」と断ってからカーテンを開ける。
その中にいたのは想像よりも幼い少女の姿が。いつもつけているスコープ越しに観察する。黒いおかっぱ髪と褐色の肌から見るに、アラブ系らしい。この年で大幹部とは…それとも傀儡なのか。
預言者「あなたは運命って信じる?」
星海衛人「運命?お嬢さん、僕はもうそんな年じゃないんですよね」
預言者「信じないって答えでいい?そんなお兄さんの未来を見てあげる」
預言者は目の前のテーブルにあるホロスコープを操作し始める。占星術で人を占うなら星座などが必要なはずだが、それも聞かないのか。僕が見ていると、彼女の手がほどなくして止まる。
預言者「お兄さんがあたしの派閥に入ってる未来が見える」
星海衛人「ただの勧誘とは拍子抜けですね。それに今のは占星術とは違うのでは?」
預言者「占星術はあくまで星を見るための手段。私は星の運行を見れば運命もわかるの」
星海衛人「しかし僕が入らなければそれも意味がないようですね。話はそれで終わりですか?」
預言者「他には、お兄さんの管轄する5番目の次元の星のひとつが軌道を変えたみたいだけど、これの意味がよく分かんない。星図にも載っていない星だし…」
僕の星が軌道を変えた?まさかエラーか!僕はカーテンの外に出ると、その星にテレパシーで連絡を取る。そちらではまだ異常は起きていないけど、このところ点検をしていないようだった。僕が巡回した時に点検してもらうつもりだったとのこと。少し任せておいた間になんてずさんな管理だ。調べさせると推進機関に故障が見つかったので、緊急停止させた。念のために確認してしまったが、本当に軌道が変わりそうになっているとは。
しかし、本来なら他の派閥の連中がこの星を知っているはずがない。なぜなら極秘裏に小惑星を改造した人造の星なのだから。だから星図にも載っていない。ましてや広い宇宙でステルス状態にまでして動かしているのだから、探しようがない。人造の星とはいえ、僕が5番目に管轄してるのに間違いはないが、製造ナンバーまで知っているのか?あなどってはならない情報網だ。ここは占いを信じられなくとも、彼らの側についておいた方が…。
好意的な今のうちに返事をした方がいい。返事を待たせて焦れさせると、後の交渉で主導権を取られてしまう。
星海衛人「やはり、あなたの派閥の情報網は本物のようです。僕も加えさせてもらうことにしますか」
預言者「良かった信じてもらえて!さっきの預言はお兄さんの未来、つまり10日後にはお兄さんの身が危なかったんだよ!」
それを聞いて又驚かされた。僕は確かに10日後に抜き打ち検査に行くつもりだった。僕の身ひとつで転移して向かえばいいので、自分の頭の中で予定を立て、誰にも話していない。これは情報網で探り出せることではないはずだ。そういえば、故障のことも彼らが人造惑星を知っていたところで見当のつく話じゃない。外部からの調査や細工など不可能な代物なのだから。
そして僕が派閥に入ることまで言い当てた。これはどうやら本物だ。物事の真実を見極める、本物の目を持っている。この人となら、僕も世界を新たな視点から見られるかもしれない。
星海衛人「前言撤回、あなたの予言を信じるとしましょう。ご存じと思いますが、僕は測量士の星海衛人。あなたのお名前は?」
預言者「あたしはエルハーム・ビント・ムスタクバル。これからよろしくね、お兄さん」
笑顔で差し出してきたエルハームの小さな手を、やや戸惑いながら握り、握手する。何とも初対面の僕に対して馴れ馴れしい。部屋の鍵をかけていないことと言い、いつもこうなのだろうか?
星海衛人「それで、僕を選んだ理由はなんですか?僕はあなたのもとで何をすれば?」
エルハーム「お兄さんを選ぶ時が来た。そう運命が教えてくれたの。お兄さんが見てきた星の知識を、星図に生かせばさらに多くの世界を占えるって」
確かに僕は測量士として多くの宇宙を観測して星図を作り、星の運行も正確に把握している。天文学の発展や宇宙進出を予定している世界からはほぼ間違いなく星図を依頼され、次元連続者が住まう宇宙の位置関係はほとんど知っている。
星海衛人「僕はあなたの占星術を盤石にするために呼ばれたと思っていましたが、なぜ他の世界まで占う必要が?」
エルハーム「全ての世界に迫ってるからよ、あたしたちの真の敵、異教の神々が」
異教の神々━それは僕たち次元連続者が全ての次元の力を結集し、倒すべき敵とされている高次元の存在だと聞いたことがある。しかし、そのための備えをするように警告はされているが、僕が知る限りではまだどの世界にも現れていない、理論上の存在のはずだ。正体不明だからこそ「異教の神々」なんて抽象的に呼ばれている。僕みたいに信じるふりして上層部に話を合わせている次元連続者の方が多いんじゃないだろうか。
星海衛人「占星術でそうとわかったのですか?一体異教の神々とはなんなのですか?」
エルハーム「天文学の研究資料として、星図を公開している世界の未来を占ったら、見えたの。異教の神々と戦う次元連続者の一人が。でも戦ってはいけない、相手は伝説以上に恐ろしい存在だったの…」
僕は彼女が見た近い未来の戦いを詳しく聞いた。確かにそんな結果になるなら、戦うべきではない。戦っていた次元連続者も副幹として実力はある人だが…相手が悪すぎる。
星海衛人「そのことはもう本人に伝えましたか?」
エルハーム「うん。急いで『あなたの世界に異教の神々が来ても、戦わないで。あなた一人では危険すぎる』って言ったんだけど、それを聞いて相手が怒って話を打ち切っちゃって…あたし一人だと、どうしても他の次元連続者さんから信じてもらえないところがあるの。やっぱり避けられない運命なのかな…」
僕にはどうしてそうなったかよく分かる。副幹ともなれば、戦うために力をつけてきたプライドと言うものがある。敵から最初に逃げるなんて忠告は聞けないだろう。やはりこの子は運命を信じすぎて、人との距離感をすぐに詰めようとする。そこも僕が見極め、フォローしなくては。
星海衛人「そのような次元連続者との折衝は、僕が取り持ちましょう。ご安心を」
エルハーム「やっぱり、お兄さんを呼んでよかったなあ。お兄さん、あたしの占いを頭ごなしに否定するんじゃなくて、疑うか信じるか、ちゃんと向き合ってくれたし」
星海衛人「全て僕が派閥に入ると分かっていたから、にしてもそこまで人を信じられるものですか」
エルハーム「あたしは信じてるよ。今のお兄さんみたいに、運命を目指して生きてる」
星海衛人「なんだかあなたの手の上にいると言われた気分ですね」
エルハーム「そんなことないよ?あたしは運命を通して、人のことがわかるだけ。運命はその人次第でいくらでも変わるもの。平行世界が分岐するみたいにね」
それからは、彼女の占星術について話を聞いた。平行世界を認識している彼女は、運命が変わるものだと知っている。だから、運命を変えようとする人間の、変わった後の未来も見ることができる。その気になれば、人間の一生を余すことなく予言することも可能だそうだ。彼女の支配する世界では、彼女がすべての国民の未来を予言し、それによって人々は備えや整理、安心や覚悟を持って生きることができる。運命を変えようと努力する者もいる。それがうまくいくかどうかも、彼女は確約してくれる。
未来を全て予言されることを拒否する人間もまれに出てくる。そういう人間には他の世界で生きることをお勧めするのだが…半年ほどでその3割がまたここで暮らしたいと懇願しに戻ってくるそうだ。戻って来た彼らの話では、外に出たものの半数は事故や事件などの非常事態に全く対応できずに帰ってこれなくなり、未来を自分で決める人生に適応できるのは2割に満たないとのこと。こんなこともあって国民は外の世界になどでかけず、移住者もすぐに死んだり還ったりするので、この派閥は閉鎖的なのだという。だが、閉鎖的でも国民を守ろうとしていることは伝わってきた。
その後は僕の世界の話を聞かれた。僕の世界では彼女が占いで見たように小惑星を改造して動かしている、そこまでは説明した。小惑星だから星図に乗っていなかったのかと彼女は納得し、さらに宇宙の話を聞いてきた。それを話しながらも、僕は複雑だった。僕の人造惑星がなぜステルスで運行しているのか。それは、治安を乱す勢力を撃滅する兵器を兼ねているからだ。惑星クラスの兵器で闇討ちにかければ、どんな敵でも倒せる。僕はそれを当然と思っているし、今更やめる気もない。ただ、彼女が血を流さぬように国民を守り、異教の神々からすべての世界も守ろうとしている話を聞いていると、自分とのギャップを感じる。今までこんなことは考えなかったのだけど、僕は彼女に心が近づいてきているのだろう。この気持にけりをつけるには、せめて彼女の治世を手助けするのが一番いいだろう。こっそりと血生臭い手段をやめようとしても、いずれ彼女にはバレることだ。それが僕と彼女との距離感と言うものだ。
今まで閉鎖的だった預言者の派閥が副幹を引きいれたこと、これこそが運命の始まりだった。
次元連続者の真の敵は、異教の神々のことです。異教と言っても、現在の人間に広く知られる宗教ではないという意味。次元連続者は各次元で情報を集めるうちに、人間の知らない高次元からやってくる異教の神々の痕跡に気づき、それへの対抗勢力として次元統一を開始した経緯があります。高次元から降臨する異教の神々は、どの次元にも現れて、現在の世界を淘汰してしまうとされています…。




