第三次元:孤狼
今回は次元連続者からの視点でスタート。
次元連続者は割と多国籍だけど、テレパシーによって会話はほぼ翻訳されてる状態。
緑豊かな牧草地。勇猛果敢な遊牧民が住む土地に、オーバーオールを着た肥満気味の男は悠然と足を踏み入れた。時刻は満月の浮かぶ夜。遊牧民たちの多くは寝ているだろうが、月の明るいこの夜に見張りにでも見つかろうものならたちまち迎撃される。もちろんその男は丸腰ではない。彼の周りを取り巻く、テンガロンハットにチョッキと半ズボンを身に着けた開拓者風の集団は猟銃を備えている。中には機関銃を持つ猛者も。これなら、いかに勇猛果敢な遊牧民たちでも恐れることはない。その男は、ここを自分の牧場とするために来た次元連続者。通称・牧場主のフィード・カウマンなのだ。
フィード・カウマン「月は明るい満月。撃ちそこないはあるまい。狩りには絶好だなあ、おい!」
開拓者1「さようでございます。情報に間違いはなかったようで」
開拓者2「この分ですと、遊牧民の数も、我々で十分制圧できる程度かと」
フィード「こっちの世界のわしが、遊牧民の側から情報を流してくれたおかげだな。わしらで遊牧民に奇襲をかけて酋長を殺し、遊牧民側の鷲を新たな酋長に立てるよう命じる。そうすれば、この世界で最強の戦闘民族と、この牧場が手に入る。そうして遊牧民どもを恐れる周りの国家も支配していく。この世界の奴らも全てわしの家畜になるのだ!」
フィードはこの世界で遊牧民として生まれた次元連続者が、最近自らの能力を自覚し、コンタクトをとってきたチャンスを見逃さなかった。この世界の情報を遅らせ、征服するに必要な戦力を整え、次元戦艦でこの世界に連れてきたのだ。次元戦艦は奇襲作戦のためにもう帰らせたが、彼の部下は猟犬のごとくしつけられ、狩りには慣れている。
フィード「さて、奴らのねぐらを挟み撃ちにするぞ。前半のナンバーの者はわしと後方から、後半のナンバーの者は前方から攻める。見張りと罠には気をつけろ」
集団は散開し、静かに遊牧民のねぐらへと近づいていく。しかし、狩る側のつもりでいた彼らは、前方のねぐらと足元に気を取られ、後方への注意を忘れていた。突然、牧草地の草むらから人影が飛び出し、フィード・カウマンに組み付いた。
フィード「うわあっ、なんだ、おいお前たち!」
アジノーチェスト・ヴォルコフ「動くんじゃねえよ、ご主人様の首へし折られたくなけりゃな」
フィードの指示で銃を向ける部下たちだったが、フィードを捕まえて楯にする毛深いロシア系の男に凄まれ、発砲できない。
フィード「お前遊牧民ではないな、なぜ草むらに!」
アジノーチェスト「俺様が一味違うと見抜けるとは、腹だけじゃなく目も肥えてるじゃねえの。俺様はアジノーチェスト・ヴォルコフ、元・次元連続者にして、お前らを喰らう者よ」
フィード「ひっ、その名前、次元連続者だけを殺して回るというシリアルキラーの“孤狼”!?」
アジノーチェスト「孤狼って名前はイカスからまあいいけどな、俺様は狂った快楽殺人鬼じゃなくて実利があるからやってんだよ。覚えときな」
アジノーチェストが片手で掴んだフィードの両手首をねじり上げる。
フィード「ひぎゃああ!ごめんなさい、わしはそれしかうわさに聞いてなかったんです!」
アジノーチェスト「ウォハハハ!いい声で鳴くなあ、え?よし、知らねえなら俺様がお前らを殺したい理由話してやろう。なんと家畜と違って、自分の殺される理由がわかるんだぜブタ野郎?」
フィード「ひぐっ、許し…」
アジノーチェスト「俺様もなあ、お前みたいに領土拡大に血道を上げてた頃もあったぜ?俺様派閥には入らなかったが、数個の次元は支配してたわけよ。でも気づいちまったんだよなあ、もっとすごい力を手に入れる方法に?何だかわかるか?」
もはや泣きじゃくりながら力なく首を振るだけのフィード。もう会話で時間を引き延ばすしか考えていないようだ。他の部下が異常に気づき、遠くから隙をついてくれるわずかなチャンスを。
アジノーチェスト「それはなあ、全ての平行世界の同位体を殺して、俺だけが生き残ることだぜ!平行世界に可能性が分岐することのない唯一無二の存在、俺はそいつになりたいのさ!ウォハハハ!わかるか!」
フィードにとってはわかるはずもない。聞いたところで荒唐無稽な話としか思えなかったからだ。
アジノーチェスト「分からねえよなあ、お前も。分かってくれるなら他の奴らに説明させるために生かしておいてやったんだがなあ。じゃ、そろそろ死ぬか?」
フィード「ま、待て待て!わしの部下はまだ半分が向こうで待機している。そいつらが気づけばまだ…」
アジノーチェスト「そいつらは来ねえよ。半分の数で遊牧民全員を相手にしてるからな」
アジノーチェストの言うとおり、遊牧民のねぐらからは、徐々に追い立てられているフィードの部下たちが。
フィード「まさかお前が…」
アジノーチェスト「ああ、正確に言うと教えたのはお前らに情報を流した遊牧民だ。あいつは2重スパイをやってたんだぜ」
フィード「バカな、お前と組むわけが…」
アジノーチェスト「組んじゃいねえよ。遊牧民としての誇りを守ったらどうかと唆しただけだぜ。まあ、あいつも俺様の糧となる次元連続者に変わりねえ。お前の部下が消耗させたところを食ってやるよ」
フィード「お前たち、何でもいいから速くわしを助け…」
アジノーチェスト「無理だよなあ、飼いならされてるから。ご主人様の醜態でパニック起こしてるのはこいつらの方だぜ?ご主人様を傷つけるからどうしても動けない。家畜なんてこんなもんだぜ。さあ、俺様の血となり肉となりな!」
アジノーチェストはフィードの喉笛に食らいつく。鋭い犬歯でのどを食い破られ、フィードは血を吐き出し、苦痛に悶えて倒れた。フィードが死んでも、部下は動く気配がない。主を失った猟犬は、その事実を受け入れられないのだ。
アジノーチェスト「また力が湧いてくるぜ…おいお前ら、俺様が命令してやる。向こうのお仲間に加勢しろ。撃ち殺されたくなけりゃな」
アジノーチェストはフィードのオーバーオールのポケットから、リボルバーを頂戴していた。もはや行き場のない部下たちは、遊牧民たちと開拓者の戦う戦場に飛び込んでいく。
その後、数を増した開拓者たちによって、遊牧民は制圧された。後からやってくるアジノーチェスト。その姿を見て、ひとりの遊牧民の若者が何かを訴えようとしたが、その寸前でアジノーチェストにリボルバーで撃たれた。
アジノーチェスト「ご苦労、勇敢な遊牧民君。お前は楽に死んで良いぜ」
目当ての次元連続者二人を殺したアジノーチェストは、酒を持ってくるように命じる。開拓者たちは、フィードが持ってきていた牧場産の最高級ワインを持ってくるが、アジノーチェストはグラスに注がれたそれの匂いを嗅いだだけで首を振った。
アジノーチェスト「分かってねえなお前ら。俺様にとっての酒は最低でも37度以上、それ以下は水も同然なんだよ。もっと強い酒もってこいオラ!」
仕方なくあちこちを探してようやくウィスキーを持ってくる開拓者たち。アジノーチェストはそれを何本も開けていく。ほどほどに酔いが回ったと見えたところで、アジノーチェストの手が止まる。グラスに新しく注がれたウィスキーの匂いを嗅ぐと、それを注いだ開拓者1をにらむ。
アジノーチェスト「毒を仕込みやがったなお前…」
開拓者2「いえ、滅相もありません…」
アジノーチェスト「俺の鼻はごまかせねえんだよ。しかもこいつはそこらの農薬を使ったとかじゃねえ、飛び切り強力な神経毒だ。そして俺様が最初に注文した時のワインではなく、今のウィスキーに毒を仕込んだ。お前、俺様の情報をある程度握っていたってことか?」
開拓者2「見抜かれては仕方ない。私は上から配備された。孤狼が出たら手段を選ばず抹殺せよと!」
開拓者2が拳銃を抜こうとするが、アジノーチェストがリボルバーを撃つ方が速かった。
開拓者2「なぜ、そんなに素早い反応を…」
アジノーチェスト「俺様はこの程度じゃ酔っちゃいねえ。それに次元連続者でもない人間に殺されやしねえよ。お前は眼中にない」
開拓者2も殺され、もはやこの世界の征服活動は完全に頓挫した。アジノーチェストも次の獲物を求めてこの世界から去る。
アジノーチェスト「次元連続者の連中も本気だな。俺様と奴らのバトルロイヤル、必ず食い尽くしてやるぜ。唯一無二、俺様だけ勝ち残ればいい」
それから数日後、牧場主のフィードの派閥では、定時連絡がないことから、彼の失敗には気づいていた。現地調査したところ、生き残りのメンバーから、既に去った孤狼の仕業と判明する。一応の対策も講じていたのだが、それも看破されたと。その一連の流れは、派閥の上層部に報告された。
金色の装飾に縁どられたオフィスの一室で、電話をかけている恰幅がよくて福々しい笑顔の男。彼が、牧場主の派閥のNo.2、副幹の役職を務める金城福丸だ。
金城福丸「わてもびっくりですがな。酒好きの孤狼はんは飲ませれば、ヤマタノオロチみたいにイチコロや思っとったんですけどなあ」
電話の向こうの相手は彼より上の派閥のトップである大幹部。通称・会長だ。
会長「ロンリーウルフはその大胆さに反して警戒も怠らなかったということだろうね。隠し玉を各所に配備するだけでは足りなかった、OK?」
金城福丸「せやなあ、やっぱり殺すのは皮算用ではあきませんわ。はあ~あ、それにしても牧場主はんが死んだ損失はいくらやろか。あの人ワンマンやったから、もう数個の次元の牧場で統制が取れへんのですわ」
空いた手でそろばんをはじき始める福丸。数字のことを考えると無意識にそろばんをはじき始める彼の癖である。
会長「フーム、噂ではロンリーウルフだけでなく、我々の真の敵も動き出すそうだ。私もそのための体制を整えたいが難しくてね。例の派閥の副幹・ミセス書記にもぜひ協力をと誘いをかけたんだが、例のごとく断られたよHAHAHA!」
金城福丸「会長はん、その年でナンパとはお盛んやなあ。書記はんは若いべっぴんさんやのにもうお局でっせ。簡単には引き抜けんわー」
会長「そうでなくとも、他の派閥とのつながりは欲しい所。次元戦艦を借りているミスター将軍はどうだい?」
金城福丸「将軍はんは頭固すぎてあかんなあ。色々しょい込みやすい人や。軍事力はあっても負債の匂いがするわー」
会長「我々は物資は豊富でも戦力では劣る。そこを補えればベストなんだがね」
金城福丸「派閥のみんなにもよく言っときますわ。それにしても、何でわてらの派閥と組んでくれる人はなかなかおらへんのやろ」
会長「金持ちが被害にあっても、外からはプラマイ0とみられるものさ。マイナスがあることには変わらないのにね。ミスター広告塔、君も気を付けてくれよ」
金城福丸「わてが被害にあった時は副幹も降りんならんしなあ。後はいつもの運しだいやで。グッドラックや会長はん」
各派閥は、次元連続者が次元を束ねてまで対抗すべき真の敵、その到来を予感していた。
孤狼が言っている、平行世界の自分を全て亡き者にして、自分だけが唯一無二の存在になるっていうのは、時々SFである設定。洋画の「ザ・ワン」とか。どこかの次元で、孤狼はそれを確信してしまったようです。次元連続者からは連携を保つために、狂人呼ばわりされてますが。
第一話で革命家がやって見せた通り、次元連続者は他の次元連続者に捕まれていると、双方とも次元移動が不可能と言うことに。複数の同位体で、他の同位体と入れ替わるのが、パラドックスにあたるからです。テレパシーによる連絡まで阻害されます。孤狼はそれを利用して、牧場主を最初に封じました。
それと、派閥は数十の次元を支配する大幹部がまとめている設定。その大幹部が補佐として、十数の次元を支配する次元連続者を副幹として任命します。この形式の派閥が複数存在し、大幹部や副幹は互いに実力者と認識し合っています。




