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道化者‥‥‥②

 『久しぶりだな、古賀さん』


 それは、大学時代の後輩《相楽宗壱》からの電話だった。昔っからイケ好かない野朗で、金がある事を鼻にかけやがる。

 

 古賀浩一郎の、学生時代は《相楽》という男に妬みと嫉妬を抱いていた。

 彼は没落貴族の末裔で、実家が呉服問屋とはいえ出自は低い方で、生まれながらのサラブレッドである相楽には到底及ぶものではなかった。

 一見すると彼らには何の接点も見受けられない様だが、その答えは古賀の恋人にあった。

 時は、高度成長期。後のバブル経済と呼ばれる時代。特に重工業の成長が著しく、当時《相楽重工》の跡取りであった相楽宗壱には幾人ものオンナがいた。

 そして、相楽の側には当然のように古賀の恋人の広江もいた。

 つまり、古賀から相楽に鞍替えしたのだ。

 それを知ったプライドの高い古賀は、激しく嫉妬したのだ。それ以来、相楽を目の敵にするようになった。 

 大学を卒業し、それぞれの稼業を継いだ彼らが次に顔合わせしたのは、裏の稼業を発足した時であった。


 自分の資産を元手に発足した古賀は、幾つもの組織を作り自らが元締めとなった。暗殺・工作員・密輸などを屈指し古賀浩一郎は裏の支配者になろうとした。


 その恩恵を預かる相楽は、文句は言えないが向こうがコチラを敵視する以上、娘の月子が《百鬼》を古賀の傘下に入れるのを渋った。確かにキャリアを積むにはいいが、いかんせん《古賀》という男に疑問を感じるからだ。


 「そうですなぁ。この前の総会以来か、まさか天下の相楽重工の会長さんから電話を直々に頂けるなんて思いもせなんだ」


 平然と嘘ぶく古賀に、相楽はチッと舌打ちした。

 このタヌキは、どこまでも真相を隠すであろう。

 この男には、悪い噂が絶えない。その決定打が古賀の愛人《本田留美子》の存在だった。

 今から20年くらい前のこと、1人の看護婦が殺された。彼女は当時、付きまとっていた男に殺害されたと言われていた。

 文字通りに話を取れば、おかしい所はないがこの話には裏があった。


 相楽は実のところ、娘が連れてきた男を胡散臭く感じており密偵に見張らせておいたのだ。

 ‥‥‥これは表に出せない話しである。


 彼女には、どうやら金銭的に援助してくれるパトロンが居たというのだが、その相手は金を与える代わりに、肉体とそのほかに裏の仕事もさせていたというのだ。


 それは、アンティークショップ『マーロン』を開いたばかりで間のない《百鬼》に関係があった。

 留美子は当時、本職である看護婦以外にも〝裏〟で密輸の仕事をしていて、その手引きをしていたのが百鬼だったのだ。

 彼の仕事は、客に扮した運び屋に〝商品〟を引渡し、船の手配をすることだった。


 ‥‥‥だが、男と女が上手くいっている時は良いが、ここでコジれたら後は地獄である。

 《本田留美子》の場合は、息子だった。

 その時の古賀浩一郎は、政界に進出をしようとしていた時期。

 彼は、自身の念願だった夢を目前に身辺整理を始めたのだが、それまで愛人の1人が子供を産み落としたのに気付かなかった。


 《涼介》という自分と同じ〝血〟の存在に気が付いた、古賀浩一郎は怒り狂い涼介を差し出すように留美子に言った。

 だが危険を感じた彼女は、海外に親子で逃げる渡航費を稼ぐ為に、息子を知人に預けて留美子はアタッシュケースを小脇に抱え、旅立とうとしていたのだが、ここで彼女は謎のベンツ軍団に追い掛けられたらしい‥‥‥密偵の寄越した写真には、見覚えのある顔がチラホラとあった。


 その連中は、広域指定暴力団の奴らで〝千夏司〟の持ち物にあった、SDカードの画像に映っていた〝男〟の子分の中に確か居たよ。


 言ってる意味が分かるだろうか?


 つまりは、全ての謀に《古賀浩一郎》が関わっている。

 死んだ本田留美子に、これまた死んだ宮田正司。不幸なのは、彼は暴力団の抗争で亡くなったらしいが‥‥‥当時。地元に問い合せたら、そんな話しはなかったらしいよ。暗殺されたんじゃないかって、もっぱらの噂らしいがね。

 あと私が一番、不思議に思っているのが《栗栖要》だ。

 栗栖に関しては、曖昧なところが多い為に掴みにくいのだが、久保田という刑事は単に百鬼に預けりように命じられたようだ。

 だが、彼を調べたところ《本田涼介》を暗殺する為に送り来られた人間だって話しらしいが‥‥‥確かに彼は、本物に接触しているが、瀕死の状態さながらも《涼介》は生きているらしい。

 多分、あまりに理不尽な要求な為にトドメを刺さなかったみたいだ。


 まぁ、不器用で無頓着な百鬼は栗栖が古賀からの刺客だとは、気付いてない。

 簡単に《千夏司》を栗栖に預けるし、まぁ無事に送り届けたから良しとしよう。

 だから、いつまで経っても二流だって言うんだよ。これが他の奴だったら、千夏司を殺してトンズラするぞ。

 それに、百鬼自身がいる組織が古賀浩一郎率いる《古賀会》だ。どんなに足掻いたって元締めのところには辿り着かない。


 せいぜい、頑張ってくれたまえ。


 『ところで、古賀さん。取り引きしないか?』


 私は、自分で出来ることをするまでだ。相楽翁はゆっくりと口火を切った。


 



 一方、その頃。 

 ホストクラブ『SIREN』店長の藤浪が、マーロンで座り込みを決め込んでしまって、困り果てた。


 「だから 、俺とちゃんと話しをしたかったら辞める理由を教えてよ。納得する答えだったら、有無言わずに帰るからさ」


 ヘイ、カモン状態で百鬼を挑発する藤浪は《ユウヤ》等身大パネルをタオルで拭き始める。そんな藤浪に、半ば呆れながらも百鬼は最後の切り札を使った。


 「藤浪さん、実は俺は‥‥‥」


 実は?何だよ、早く言ってくれよ。コッチはパネルの飾り付けをどこにするか悩んでんだよ!

 

 《ユウヤ》が店に戻らない限り、テコでも動かまいとする、以外に仕事熱心な男に掛ける魔法の言葉である。


 「店長。俺、ゲイですから」


 ‥‥‥‥‥一瞬、藤浪は自分の耳を疑った。

 あれ? おかしいな、何かソラ耳が聴こえたような気がする。幻聴? 一度、耳鼻科を受診した方がいいかな。


 明らかに藤浪の様子がおかしい。なぜか変な脂汗出てるし、目が泳いでいる。ならばと、もう一度言った。

 

 「藤浪さん。俺、男好きなんです。ホストクラブには、金を稼ぐ為だけで入りましたから女性に全く興味ありません」


 もちろん。本当の狙いは別の事だが、ここではあえて伏せとく。

 だが、その言葉は効果絶大。それを聞いた店長・藤浪のパネル拭く手が完全に止まった。


 「え? ユウヤ。でも君にご執心な月子さんがいるし、ほら‥‥この前、同伴出勤した日菜子さんだっているじゃないか! それなのに女に興味ないなんて、冗談キツいなぁ」


 なんで‥‥‥諦めてくれないんだろ? ならば、と戸塚の腰に腕を回してコイツが恋人ですよアピール。

 これには流石の店長も、目ん球ひん剥いてた。だが、中々諦めきれない店長は叫んだ。


 「だったら、俺が恋人になってもいいから!」


 思いっきり上から目線の店長に、百鬼以下『マーロン』の面々プラス室井は、思ったという〝絶対、いらねぇ!〟と‥‥‥


 「藤浪さん。俺、アンタ程の魅力ない男は初めてです。お願いだから帰って」


 「え!」 それはそれでショックな藤浪だった。




 話しは、衆議院議員《古賀浩一郎》と相楽重工の《相楽宗壱》の会話に戻る。

 

 相楽は言った。証拠品を渡す代わりに、千夏司から完全に手を引け。と‥‥‥


 「‥‥何を言い出すんだ。ワシに手を引けと言うのか、アレが表に出るとワシの人生がメチャクチャになるんだぞ! 模造品がないと限らんだろうが」


 フザケやがって! 憤慨する古賀に、相楽は宥めるように話す。

 

 『古賀さん。アンタを付け狙う輩は死んだんだ。千夏司を襲う理由なんてどこにもない』

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