道化者‥‥‥①
‥‥‥今は夏とはいえ、夜も深まれば冷えてくるものだ。
今日も千夏司は、海にゲームに勉強にと多忙しのようでバタバタと慌ただしいこと。
千夏司に大甘のバアさんは、千夏司に付きっきりで勉強を教えたり、ご飯を一緒に作ったりしてる。
そんな千夏司の笑顔に、バアさんは絆される。
かくいう私も、チカちゃんの大ファンなのだが。
私《相楽宗壱》が、初めて《森本鉄郎》と出会ったのは彼を鑑別所から連れ帰った娘に紹介されてのことだった。
本当、生意気なヤツだったよ。まるで昔の自分を見るようだ。特に向こう見ずなところがね。
月子は《相楽財閥》を盛り上げる為、鉄郎を一から仕込んでいったが、残念ながらヤツの目には娘は〝恋愛対象〟としては映ってなかったようだ。
それよりもウチの若い衆(男)に色目を使うは、いつの間にか養子を貰うし男の恋人は出来るはの予想外で驚きの事ばかりだった。
その代わりといってはなんだが、孫の居ない我が家は夏になると森本家の子供たちと一緒に、海や川へと遊びに行ったりとしたもので楽しい〝家族ゴッコ〟をさせて貰ったよ。
この際どうせなら、月子と籍に入って本当の家族になればいいのに、ついでに戸塚くんもセットでいいから。
ああ、そうか。チカちゃんの話しだったね。
つい先程〝件のモノ〟が速達で届いたところだ。パソコンで拝見したが、確かに厄介な代物だね。
この《古賀浩一郎》というのは、非常に厄介な人物でね。この男には癒着の噂があり、彼の友達には良からぬ人間もいる。
チカちゃんの実父である《宮田正司》は、殺されるべくして存在した男だったのだ。
なぜかって? 彼は暴力団の構成員だが、実際には下っ端もいいところで密会写真をネタに、強請りたかりで生計を立てていたといっても過言ではないだろう。
千夏司の母親は子供を残して家を出ており、男手一つで息子を育てたのは立派だが、生き方としては褒められたものではない。
まぁ鉄郎くんが、隠れ蓑としてウチを利用するのは、ある意味正解だと思うよ。
ウチみたいな〝権力者〟に、丸腰で近付くヤツなんて、そうそう無いからね。
それで言ったら、ウチに近付ける人間なんて皆無に等しい。だから千夏司がここに居る限り安全だという事だ。
そういえば、この前チカちゃんを連れてきた青年は、え っと‥‥名前が確か栗栖くんだったかな? あの男の、愛人の顔に似せたキチガイ。
‥‥‥勘違いしないでくれ。別に、嫌ってるわけじゃないさ。ただの好奇心だよ。
彼はきっと、やり遂げる筈だよ。鉄郎くん、君の反骨精神にね。
‥‥‥その日の『マーロン』は、いつになく緊張感が走っていた。
今日、栗栖要が《古賀沙織》を店に連れて来ていたからだ。
見目は、以前のように無精ひげに(ダテ)眼鏡。前髪はオールバックにしたから大丈夫。
彼女は最後まで、恋の相談をした《ユウヤ》の存在には気付かなかったようだ。
それより、初めての店に興味津々で母親のプレゼントはそこそこに、自分用にと物色をし始めた。
ああ、どうぞ。色々とありますので、どうぞご覧ください。
女性に人気なのは、パワーストーンにガーネットにアメジストや水晶‥‥‥あれ? ウチに、こんなデカいアメジストあったっけ?
ちょっと〜、日菜子! また盗聴器を仕込みやがったな。
栗栖には、頼まれていた代物を。扱い方はキチンと教えといた。まぁ、失敗しないことを祈る。
だが全く関係ないところで、ある問題が‥‥‥
「ねぇねぇ、ユウヤさん。そんなカッコつけても似合わないよ」
それを話すは、ホストクラブ『SIREN』で一緒だった《セナ》こと、室井雪之丞。
ちなみに《ユウヤ》とは、百鬼の源氏名である。
「ユキ。こんな所で油売っててもいいのか? 店の準備があるだろ」
この前《烈》への想いを暴露してしまった室井。それ以来、いつの間にか『マーロン』が、彼の溜まり場となりつつあった。
ハッキリ言って《日菜子》一人でも手に余る状態なのに、これ以上は煩わさないでくれ。
「いや〜。なんか店長がさ、ユウヤさんを連れ戻せってウルサくって〜何か付いて来ちゃったんだよね」
何気にイヤな事を、サラリと言った室井に百鬼は度肝を抜いた。
‥‥‥え、何それ? 俺は、ちゃんと試用期間分は働いたし、それが過ぎたら辞めるって、キチンと説明もした筈なんだけど。
「ユウヤ〜、ヒドいなぁ。お客様は神様だろぉ? 皆、ユウヤの帰りを待ってんだぜぇ」
今一番、会いたくないチャラ男店長。藤浪登場!
わぁ~! 会いたくないヤツが来たよ。しかもナニよソレ? ホスト姿の俺の〝特大パネル〟いらねぇ〜。
俺は、『マーロン』ではストイックな店主で通ってんだぜ? 営業妨害もいいところだ。
「だってさ〜。ユウヤが居なくなって、客が激減したんだよぉ。なんか他の条件の良い店に移ったんじゃないかって噂が立つしさぁ」
あぁ〜、そろそろアジトを変える頃かな?
百鬼が、そんな弱音を吐く頃。3男の千夏司を、預かって貰っている《相楽宅》では動きがあった。
「ああ、もしもし。古賀さんかね? 相楽だが」




