道化者‥‥‥③
人の人格なんて十人十色。皆、考え方が違うから面白いんだ。
だから、どんなに恵まれた容姿を持った人物を前に、脱兎の如く逃げ出した者も然りである。先程まで百鬼のことを褒めちぎっていたのに。
‥‥ただ一つ言えるのは、先程まで大切にしていたパネルを、百鬼がカミングアウトした途端。チキショー、憶えてやがれ! と放っぽりだしていったことくらいだ。
「こらー! このパネルを一緒に持って帰れ!」
《ユウヤ》もとい《百鬼》もとい《森本鉄郎》は自分の働いていたホストクラブ『SIREN』の店長・藤浪が『マーロン』勝手に来て、勝手に暴れて、勝手に帰るくらい。
まったくユキ(室井)の奴め、なんで藤浪さんに自宅を教えるんだよ!
「しょうがないでしょ、店長が俺に勝手に付いてきちゃったんだから。でも知らなかったよユウ‥‥じゃなかった、鉄郎さんがホモだったなんて。あんなに女性客にモテたのに」
もったいない! なんて言うユキだって立派に烈(長男)の追っかけやないか。俺の事は放っといてくれ。
「あ〜、まさか鉄郎さんが《烈》と《海》の父親だったなんて知らんかった」
双子の通っていた中学校は、成績でクラスが決まるから成績優秀な次男はA組で、勉強苦手な長男はD組。
授業参観は、戸塚と二手に別れて三者面談を行ったので(ちなみに百鬼は海のクラス担当)百鬼も室井も互いに面識はない。
確か成績優秀な海は、授業参観の時にT大付属高校の推薦を受けるように担任に説得されたが、断り続けたっけ。
とても懐かしい思い出だ、海は女の子と仲良すぎてトラブルも多かったけど。ちなみに烈は、勉強が出来なさ過ぎて呼び出しくらう。
「あの同伴出勤してきた日菜子さんも、海の彼女なんでしょ? 中学の時は同級生とばっか付き合ってたから、まさか年増にはしるとはっ‥‥‥ぐはっ!」
いきなり《小山日菜子》の話題に入ったら、室井に異変が!! しかし、その後ろには室井の首を絞めようとする10本の指が!
「その話しを、詳しく話しなさい! 殺されたくなければね」
背筋がゾォッと、凍るような気がした。
一体、どうやって入って来た? 気配が全く感じられなかっぞ!
「あっ、ヤッべェ! 俺、これから用事があるのよ。じゃあねぇ」
そういうと、百鬼は店番を戸塚に任せ、そそくさと店を後にする。
その頃、栗栖要は沙織とその父親である《古賀恭介》とともに、パーティ会場に着いた。
とても立地条件の良い場所で、テラスからは盛夏の香りがし、色採りに飾られた花瓶に挿された花達は客たちの目を楽しませる。
その日は、晴天に恵まれ、大勢の人間が1人の女性の為に、時間を割いて駆けつけていた。
今日の主役は古賀麗華。衆議院議員古賀浩一郎の一人娘である。
会場は、彼女が営む『古賀不動産』の裏庭で立食形式のホームパーティだが、有名店からの出張デリバリーを頼んであるので、抜かりないようだ。
「涼介くん。こっち」
明るく喋る古賀沙織に、手を引かれ木下(本田)涼介に扮した栗栖要は、沙織の母親である麗華の元へと訪れていた。
栗栖要‥‥‥ここでの役割、古賀沙織の恋人兼古賀家の身辺調査である。ただし、表向きはね。
沙織は早速、母親の好きな黄色いバラを渡す。
そして栗栖からは、綺麗にラッピングされたクロロホルム入りのオイルランプを。
「あら、沙織のボーイフレンド? 素敵ね」
年の割には若く見える沙織の母親は、時折チラッと栗栖の方を見て頬を染める。
どうやら、この手の顔は女のウケが良いみたい。
そういえば、もう一人なんでか男好きがいたな。なんだか見惚れるというよりは、痛々しい目で俺を見ていたようだが。
「もう! ママにはパパがいるでしょ」
愛らしい顔をプウと膨らませ、母親に抗議する沙織は、嫉妬深いのが悩みだ。
沙織はギュッと〝涼介〟の手を握ると、その場を離れようとする。
彼女の指には、お揃いで買ったピンクゴールドのリングが光っていた。
もちろん、栗栖は束縛されるつもりはない。
ただの〝保険〟と割切っているが、あまりにも沙織が《木下涼介》に心酔しているのが、気になるところだ。
ところで、先程から射るような視線を感じる。
衆議院議員であり、沙織の祖父でむ古賀浩一郎とその一派である。
(こんなところに来てまで説教かよ)
多分、栗栖と千夏司にベンツ軍団を差し向けたのは、古賀浩一郎の身内だと思われる。
宮田千夏司を百鬼が匿っていることに、気付いた古賀浩一郎は千夏司の暗殺命令を栗栖に下した。
だが、最初から乗り気ではなかった栗栖は百鬼の頼みの方を聞き入れたのだった。
「沙織。ごめん、ちょっと席を離れるよ」
栗栖は、沙織にそう言い残すと席を離れた。
彼女は、つまならなさそうにしながらもテーブルに並べられた料理に手を伸ばす。
中央の方では、母親が招待客と歓談を楽しんでいた。その周りには着物を女性がや、ボーイ姿の男性がカクテルや日本酒を運んでいる。
「あ、ボーイさん。ドライ・マティーニを」
1人の招待客が、一見したら女性と見違える程の見目麗しいボーイを呼び止めた。
「はい。かしこまりました」
このパーティに、忍び込んだ百鬼だった。




