第三話 探し物はなんですか?
いつもと変わらない朝、船島はあいかわらずぷかぷかと波にまかせて流れており、フフカはログハウスの屋根に座り、双眼鏡で遠くをのぞいていた。
「あれ?ジョー太郎、あれ船だよね?」
フフカは相変わらず針と餌の付いてない釣竿の糸を水面に垂らしているジョー太郎に声をかける。
「え?うーん、たしかに船……かな?」
ヒレを目の上にかざして影を作り、目を細め遠くを見るジョー太郎。
遠くには木材と錆びた鉄で造られたような船が波に揺られながら進んでいた。
帆はボロボロ、煙突からはぽん、ぽん、と輪っかのような煙が出ていた。
その船は何かを目指すように進んでいた。
近づくと舵を握っていたのは――ひとりのおじいさんだった。
「おお〜、珍しいなあ……こんなところで誰かに会うとは!」
おじいさんは、日焼けした顔に大きな笑顔を浮かべて、
ぎしぎしと鳴る船を船島の横に寄せた。
「おじさん、こんなオンボロ船で何してるの?」
フフカが思わず声を上げる。
「うん?ああ、街を探しているんだ。海のどこかに水の上に咲いたサンゴの街がある、それを探してるんだ」
「サンゴの街なんていっぱいあるじゃん」
「あぁ、しかしわしの探しているサンゴの街はそれじゃない」
ふたりは不思議そうに顔を見合わせた。
おじいさんは顎をさすり、小さく笑った。
「わしは若いころロボット兵の研究者をやっていたんじゃ」
「ロボット兵?何それ?かっこいい!」
フフカが目を輝かせている。
「しかし当時わしはロボット兵のメンテで乗り合わせていた戦艦が撃沈され、運良く流されてその場所に着いたんじゃ。そこでわしはとある女性に恋をした」
ジョー太郎とフフカは真剣におじいさんの話に耳を傾けている。
「だが、その女性はわしとは住む世界が違った。わしは軍の人間じゃ。生き延びたことを軍に知らせると帰投命令が下った、ご丁寧にロボット兵と軍人達が現れてな」
おじいさんは少し間を置いた。
「機密保持のため、拒否すればこのサンゴの街を……わかっているな?と。わしは必ずこの街に戻ってくるとその女性に告げた…しかしその約束は叶わなかった…わしはロボット兵の開発に関わりすぎてしまい、秘密保持のために長い年月、とある場所に軟禁されてしまったんじゃ」
「そう…なんだ…」
フフカの顔が暗くなる。
「軟禁を解かれたあとも監視生活を強いられ、彼女に会いに行けなかった。」
おじいさんは遠くの海原を見つめた。
「数年前に監視を解かれたが、わしは狙われていると疑ってしまい彼女や街の人達の身を案じて会いに行かなかった…。
しかし、余命数ヶ月と告げられ……彼女に会いたくなったんじゃ」
沈黙が続き、ジョー太郎が「どこか悪いんですか…」と尋ねる
「不治の心臓病だ」
再び沈黙が流れた。
「若い頃の恋をずっと引きずって婚期を逃してしもうたわ」
おじいさんは照れくさそうに笑った。
「ずっと想い続けるって、良いことじゃないですか」
ジョー太郎は目を輝かせている。
おじいさんはジョー太郎を見つめ、少し驚いたが、キョトンとするジョー太郎を見て口元を緩めた。
「そういえば、おまえさん達の名前を聞いてなかったな」
「私はフフカ〜!」
「ジョー太郎です」
「そうかそうか」
おじいさんはぼろぼろの航海日誌にふたりの名前を書き記し、最後に「可愛いお嬢ちゃんと変な生き物」と書いた。
「ちょっとちょっとー!」
とジョー太郎が抗議すると隣でフフカが爆笑した。
「それじゃあな」
おじいさんはオンボロ船の帆を張り、操縦席に刺さっているキーを捻った。
すると煙突からポン、ポン、と輪っか状の煙が飛び出した。
操縦席の後ろについていた小さな巻き貝の鈴は、風でチリンと音を立てた。
そしてオンボロ船はゆっくりと動き出す。
遠い昔の約束を果たすように。
「会えるといいね」
「きっと会えるよ」
小さな船と遠い約束を見送りながらふたりの旅は続く。




