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第二話 何もないのが大切な時間

世界には、何も起こらない時間が多い。

だけど何もないようで何かあることもあれば、何かあるようで何もないこともある。

だからこそ、それを探す楽しみがある。


大海原に浮かび、ぷかぷかと流れに任せて進む小さな浮島「船島」

そこで背中にチャックの付いたしゃべるサメの着ぐるみのような二足歩行の生物「ジョー太郎」が釣りをしている。

しかしその釣竿には糸が付いているものの、針や餌が付いていない。

ただ水面に糸を浸けているだけである。


船島に椰子の木が一本生えている。

隣には小さなログハウスがぽつんと建ち、傍にある備え付けのハンモックに寝そべる少女「フフカ」がいた。

「ジョー太郎、釣れてる〜?」

「針も餌も付けてないのに釣れるわけないじゃん」

「じゃあ、なんで釣りしてんの?」

「意味の無い事でも意味が有るかもしれないじゃないか」

「そうなんだ〜」

「そもそも釣れたって同じ海の生き物のお魚さんは食べれないよ」

「ジョー太郎着ぐるみじゃん。それ抜きにしても、鮫は海の生き物捕食してるし」

「失礼な、僕はそんな野蛮な連中とは違うのだよ、なんていうか…」

ジョー太郎が何かを言おうとした瞬間、船島が揺れた。

どこかで海底火山が爆発したのだろうか、海底から押し上げられた大きな気泡がいくつも海上に上がる。

その勢いに押されて海底から手紙が入った瓶も海面に浮かび上がった。

急に浮かび上がってきた瓶にジョー太郎がびっくりしていると

「何かに引っかかって海の中にあったのかな?………ジョー太郎、釣竿貸して!」

とジョー太郎の返事を待たずに釣竿を伸ばし、瓶を引き寄せようとするが全く届かない。

「も〜!えいっ!」

フフカは釣竿を網のように投げた。

しかし、回収する方法など考えていなかったため、釣竿は無情にも海に沈んでいく。

「わぁぁぁ!僕の釣竿ー!」と叫ぶジョー太郎。


フフカは意地になり、ログハウスに入って床のハッチを開けた。

そして操縦席に座り船島を動かし始めた。

フフカは無事に手紙の入った瓶を回収した。

「僕の釣竿……」とぶつぶつ言うジョー太郎を無視して、瓶を開け、手紙を広げた。

「サティ……へ…………」

漢字が読めずジョー太郎に渡すフフカ。


「サティへ


 俺は今、これから起こる大規模海戦へ向けて準備しているところだ。

 この海はきっと赤く荒れるだろう、それでも故郷の海はどこまでも続く青い色であってほしい。

 故郷に戻れたら、また一緒に光る砂浜を見に行こう。

 君や次の世代の子達の海が綺麗な色である様に。


 それからもし戻れなかったら、この手紙と俺の想いが君に届いてほしい。

 俺は誰よりも君を愛している。

 だから、俺の事は忘れて幸せに生きてほしい、俺は君を幸せに出来なかった愚か者だと恨んでほしい。

 こんな最低な男より君に相応しい男はいっぱいいる、思い出もこれからの未来にも涙はいらない


 君の幸せを望む者

             フランド」



手紙に書いてあった日付はフフカが産まれる何十年も前であった。

「昔……ここで大きな海戦でもあったのかな?」

ジョー太郎が呟いた。

「大人って、いつも勝手だね…」

フフカは静かに手紙を閉じた。

「そうだね…元の場所に戻す?」

ジョー太郎が尋ねるとフフカは少し考えたあとに首を横に振った。

そして手紙を再び瓶の中に入れて、ログハウスに置いた。

「僕たちが拾ったのも何かの縁かもね〜」

「……あったらいいね」


数日後、船島が流れついたのは、小さな島の漁師町だった。

木造りの桟橋にゆらゆら揺れる灯。

干物と潮の香りが村中に染みこんだ活気に満ちた陽気な町。

ジョー太郎は食糧や燃料を船島のログハウスに積み込んでいる。

フフカは浮き輪型のポーチを腰に巻き、ジョー太郎が終わるのを待っていた。


積み込みが終わり、ふたりで町を見て回ると酒場から騒がしい声が聞こえる。

フフカとジョー太郎が興味本位で覗くと、そこには二人の老夫婦が座っていた。

老夫婦の前のテーブルに大きなケーキとたくさんの料理が並んでいた。

まわりには話し方から察するに息子、孫、ひ孫までいるような大家族がいた。


「フランドおじいちゃん、サティおばあちゃん!結婚55周年おめでとう!」と声が聞こえる。

その名前にフフカは目を丸くした。

しかし家族に囲まれて幸せそうな笑顔の老夫婦を見てそっと微笑んだ。

「……やっぱり、大人は勝手だ」

ジョー太郎が笑い「これからもお幸せに〜」と声を上げた。

その言葉に一瞬びっくりするもありがとうと優しく微笑む老夫婦。


フフカとジョー太郎は船島に戻り

「あの二人……幸せそうだったね」

とフフカはりんごをかじりながら呟く。

「無事で良かったね」

ジョー太郎はフフカに作ってもらった針と餌の付いてない釣竿の糸を水面に垂らしていた。

「なんか大物が釣れそうな気分だよ!」

「いや、無理でしょ〜」


何も無いけど幸せはあった。

昔、何かあったけど、今は何も起きない幸せ。

明日は何かあるか?何も無いか?

そんなことを思うふたりを乗せて船島はぷかぷかと大海原を流れていった。

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