第一話 はじまりはじまり
世界に大きく広がる大海原、大小さまざまな大陸や島が点在している。
その海原にぽつんと一つある小さな島。
潮の流れと風にまかせ、まるで船のようにゆるゆると浮かぶ島、「船島」
船島には、ひとつだけ生えている椰子の木がある。
その葉は大きく広がり、帆のように風を受けるように設計されている。
幹には縄が巻かれ、帆を傾けたり回したりできるようになっていた。
帆のとなりには、ぽつんと建つ小さなログハウス。
木材は流木とサンゴを組み合わせて造られていて、どこか懐かしい香りがする。
この島に住んでいるのは、ふたりだけ。
ふたりは、ここで暮らしながら、どこかを目指して旅していた。
……とはいえ、その「どこか」は、ふたりにも分かっていない。
その日の朝、心地良い風が吹いていた。
背中にチャックが付いたしゃべるサメの着ぐるみのような二足歩行の生物「ジョー太郎」はログハウスの傍に備え付けのハンモックに仰向けでウクレレを弾いていた。
一方でスクール水着姿で浮き輪のようなポーチを腰に巻いたピッグテールの少女「フフカ」は屋根に登って空を眺めていた。
「う〜ん……陸地は無し、雲がひとつあるだけ」
遠くを見ながらフフカが呟いた。
「フフカ〜、絶好のお昼寝日和だよ〜、フフカもお昼寝したら」
ジョー太郎はウクレレを枕元に置き、うとうとしていた。
「でも……あの雲…なんか…」
フフカの視線の先、海と空の境界には雲のかけらがぽつりと浮かんでいた。
ただの雲。でも、ただの雲じゃない気がした。
「ずっとあそこに留まって、ひとりぼっち…」
フフカは屋根からすべり降り、ジョー太郎のお腹に着地する。
「ぐぇっ!」とジョー太郎が叫んだが、フフカはそれを無視してログハウスに入り、床下のハッチを開く。
そこにあるのは、島の“心臓”――操縦席だ。
珊瑚のレバーが三本、羅針盤に似た石板、そして波音を拾う貝のスピーカーがあるだけの簡素な席。
そこは、ふたりの小さな旅の“ハンドル”だった。
「今日、動かすの?」
お腹をさすりながらジョー太郎が操縦席を覗き込んだ。
「うん。あの雲、ひとりぼっちで寂しそう…」
「あの雲が?」
「うん、雲のところに行ったらなんか起こりそう…起こらないかもしれないけど」
「ふふっ、起こるといいね」
「じゃあ、レッツゴ〜」
フフカがコンソールに手を伸ばし、レバーを握って奥へ倒した。
すると風鈴のような音が鳴り、島のスクリュープロペラが回り始めた。
椰子の葉の帆が、きぃ……とゆっくり風をつかむ。
「……よし。進路、雲のほう」
「全速前進緩やかに〜」
ジョー太郎がビシッと前方をヒレで指した。
風が、椰子の葉をなでた。
潮が、船島を少しだけ押した。
そしてふたりを乗せた島は、雲の呼ぶ方へ、動き出した。
行動するのに立派な理由なんていらない。
ふたりが進む先には、今日も新しい景色が待っているから。




