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勇者よ、それがお前が望んだことなのか?  作者: 安藤昌益


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君を死なせたくないんだよ

 魔王ツヨノマが魔界を統一し、魔界から侵攻を開始したのは3年前のことだった。それに対して人間の国々、エルフをはじめとする亜人の部族が一致団結して魔族との戦を始めたのは、いくつもの人間の国が、亜人の部族が蹂躙されてからのことだった。それでも、一進一退の戦いの後の決戦で魔王軍が勝利し、人間・亜人の側はその度に後退せざるを得なかった。その戦いの形勢が、劇的に変化する時がきた。一人の人間が勇者の力を覚醒させ、魔王軍の一軍団を壊滅し、初めての勝利をもたらしたのだ。その立役者がセンシュウ・イチジツ、正式な騎士となって3年目、魔王軍との激戦を潜り抜けて来た若者だった。勇者の出現に勇気づけられた人間・亜人の連合軍は勇気づけられ、彼を先頭に劣勢を挽回、じりじりと失地を挽回していった。そして、亜人の最精鋭といえる者達が、人間の勇者イチジツとパーティーを組むことになった。これが、勇者パーティ―である。

 イチジツと勇者パーティーを先頭に人間・亜人の軍は、ツユ大陸南西の魔界に侵攻し、魔王四天王、副魔王とその軍を破り破竹の勢いで進んで、ついには魔王城間近にまで迫っていた。


 攻撃拠点として砦が作られた。その中には粗末ではあるが、何とか最低限の生活が確保できた。その日の夕食が終わり寝静まる頃になって、勇者イチジツは、勇者パーティ―のメンバーの1人である、ハイエルフのスン・インの小屋を訪れ、話が、2人きりで話したいことがあると言われて、彼の小屋に連れて来られたのである。

 彼が自分に好意を持っていることには、気きがついてはいた、そのように仕向けるように行動もしていた。わざと肌を露出して体を摺り寄せたり、耳に息を吹きかけたり、甘い言葉を囁いたり、戯れに抱きつくことを繰り返していた。あくまでも彼が自分に気を許し、油断させるためだった。

「深夜によびだして話がある?愛の告白かしら?ちょっとやり過ぎた?まあ、最悪一回肌を許してもしかたがないか?虫唾が走るけど。」

と心の中で戸惑っていた。


 それが、彼の語る話で気が動転してしまった。その彼女をしっかり見て、勇者イチジツは、

「わかっているよ。君は、彼らと一緒に私を殺すことになっていたのだろう?君は騙されていた、今は騙されているという状態かな?彼らは、エルフも嫌っている、排除従っているんだよ。だから、私を殺して、君を殺したんだよ。竜族のナッセが回復薬だと偽って勇者用の、僅かな時間だけど勇者の力を無効にする毒薬を飲ませる。次に君が私の後ろから抱きついて、すかさず魔剣、短剣で突き刺す。その後は次々に・・・。そうだろう?私は倒れて、でも直ぐには死ななかった。一応勇者のせいだろうね。君が声をあげて倒れた。君は私の方を見て・・・ごめんなさいと言ったんだよ。その後、私も死んだ。そして、気が付くと30年後の世界に転生していたんだ。人間やエルフの女達がオーガやオークの孕み袋にされていたり、竜族に喰われ、吸血族に生き血をすすられる、ドアーフの下で、使い捨ての奴隷労働をさせられている世界だった。」

「ほ。本当なの?」

 勇者暗殺の手順を彼が知っているということで、彼女は半ば彼の話を信じる方に傾いていた。

「そ、そうよね。卑しいオーガやオーク、ドアーフが私達エルフと仲良くしたいなんて、考えるはずはないものね。」

 心の中で呟いていた。

「くそう。騙されたわ。」

とも思ってしまった。だが、一つ思いついた。

「で、でも、騙されたとは言っても、勇者様を殺そうとした私を赦せるの?」

「君はエルフのためということで従ったのだろう?仕方がないと思っているよ。」

と彼は穏やかな声で答えた。

 しかし、彼女が自分の死の直前にあざ笑っている顔が鮮明に目の前に現れた。

「お前の本当の気持ちは分かっているさ。でも、そんなことは気にしない。3度もお前を殺しているんだからな。泣いて命乞いする顔は・・・哀れだったよ。」

と心の中では嘲藁っていたが。そんな彼の心の内を知らない彼女は、

「相変わらず、馬鹿が付くくらい人がいいんだから。」

と心の中で舌をペロッとだした。

「私は君を失いたくはない、今度こそ。だから、2人で、人間とエルフを守って、奴らを返り討ちにしよう。」

「え、ええ。」

と彼女は頷いてしまった。

「よし、一気に進めるか。」

と彼は心の中で呟いた。


「僕は君を愛している。君はどうなんだい?このまま、彼らとともに私を殺して、自分も殺されて、エルフの悲惨な未来を許すのかい?」

と彼は彼女に迫った。

「理屈は支離滅裂だけどな。」

と心の中で思ったが、彼女にはそれに気が付くほどの気力は残っていなかった。

「わ、私も愛している・・・で、でも・・・。」

「婚約者がいるから?」

「知っているよ。」

「え?それなら?」

「彼はね、君の死をいると直ぐに他の女と結婚して、多分前々からそのつもりだったんだろうね、オーガの傀儡になって、自分だけは保身を図っていたよ。」

「えー?」

 彼女は声をだしてしまった。

「まあ、2回、共に殺されようとしていた時、あいつはお前を愛してなんかいなかったと言って命乞いしていたけどね。愛人がしっかりいたから、嘘ではないよ。」

 それで彼女の心が完全に折れたようだった。

「私も本当はあなたを愛していたの。だから、一緒にに・・・。」

と答えた。


「では、互いに魔法誓約を結ぼう。恋人として、夫婦として、同志として、戦友として、同盟者として、共犯者として。」

「え?う、うん。」

 彼女は、それがどうして必要なのよ、と頭の片隅で思ったが、もう流されることに抗する気力が残っていなかった。


 まず、両手を握り合い、互いの魔力を流し合い、

「私達は次の魔法誓約を締結する。私達は、恋人として、夫婦として愛し合い、信じあい、協力し合い、お互いを守り合い、互いに最大の快感を感じ、決して裏切らない、与え合い、戦友として、同志として、共犯者として、同盟者として、人間とエルフの未来のために協力しあい、決して裏切らない、手を携えて戦いあう。そして、ハイエルフの女の若さと寿命の特性を人間の男に転写して、ともに若く長く過ごす。」

そこまで言ったから、ほんの少し間を空けて彼は、

「人間の男である勇者センシュウ・イチジツは誓う。」

一手から、目で促した。そのまま流されれるように彼女も、

「ハイエルフの女である魔導士スン・インは誓う。」

と誓った。

 彼女が言い終わった瞬間、2人の体に衝撃が走って、一瞬握り合った両手が光った。直ぐに、衝撃が収まり、光が消えた。

 誓約は成立した。二人が改めて誓約を破棄しない限り、片方がどう破棄しようと思ってもそれはかなわない。

「成功したな。」

と彼は心の中でホッとした。まずは、この女とエルフの同盟と長い若さ、寿命を手に入れられた。第一段階は確保した。小屋の周囲には誰もいない。隠蔽魔法も感知しない。足音も聞こえない。彼の張った不可知魔法に接触した形跡もない。そこまで確認して、完全に緊張が解けた。すると、目の前にすがるような目をしたハイエルフの女の顔があった。憎しみにと見下す感状で歪んだ罵る顔と恐怖に歪んで命乞いする顔が同時に浮かんだ。それがかえって、今の彼女の顔に欲情を誘った。あるいは、この時は本来彼女に想いを寄せていた時間的影響が襲い掛かってきたのかもしれない。堪らなくなった。

「愛しているよ。これからずっと一緒だよ。」

「う、うん。」

 ゆっくりと顔を近づけ唇を重ねた。彼女はそのに抵抗することはなく、自ら舌を差し入れてきた。

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