エルフ達の動向➃
大部族長会議では、結局、スウ・インと大聖樹の巫女との議論の一騎打ちということになってしまった。大きな楕円形のテーブルのそれぞれの端で、威厳を持って立って話す巫女と、両手をテーブルに漬けて身を乗り出して、怒り狂っているスウ・インは完全に睨み合い、2人から立ち昇るオーラにどの部族長も間に入ることすらできなくなっていた。
大聖樹の巫女は、小柄な清楚というより少女のようなあどけなさが残るような顔立ちの美人だった、スウ・インより年上である、敢えてひたすら冷静さを保っているように装い、ため息をついて諭す風でもって主張した。
「あの勇者には、禍々しいものを感じます。あの勇者は、結局は卑しい人間ですから、信用できません。このまま彼の言いなりになっていては、恐ろしい未来が待ち受けているに違いありません。今ここで立ち止まって、いや今一度引き返してはどうでしょうか?」
インは、主敵は大聖樹の巫女と見て戦いを挑んでいるというつもりでいた。同時に、部族長達を脅し付けて、巫女を孤立させようとも考えていた。その美しい顔が、ゆがみすらしていたが、恐ろしい仲に不思議な美しさを漂わせてさえいた。
「それはどういう意味?私が嘘をついていると言いたいの?禍々しいというけれど、私を助けて、そのついでに人間とエルフを亜人達を倒そうというのだから、心優しい無垢な心でやれるわけないでしょう?それだけのことをやるなら、血も流し、策謀も働かせなければならないのよ。禍々しくなければやっていけないでしょう。大体、あんたは亜人達が薄汚いオーガやオーク、どんくさいドワーフ、動物臭のする竜族や獣人どもが、あいつらの心はおきれいな、清く、神々しく見えるのかしら、大聖樹の巫女様は?あいつらは私を殺して、エルフを滅隷属させよう、滅ぼそうとしていたんだからね。」
「それは勇者が言ったことではありませんか?事実かどうかもわからないことで、亜人達は私達と共闘を約束していたのですよ。それが。」
「そのことは前にもいったでしょ?彼は、全てを知っていたのよ。少なくとも彼は、私と殺されて、30年後に転生したことは事実なのよ。そして、私が殺されていなければ、私に愛を告白して、私を妻にして、溺愛できるわけないでしょう?自分を殺した女を妻にして、愛することができるわけがないでしょう?彼は、私がいいのよ。私のためにエルフも守るっていっているのよ。」
「そ、そんなあなたの都合でもエルフを犠牲にするつもりなのですか?大聖樹が何と言うか。」
「なにを言いたいの?私が殺されていてもいいと言うの?私が殺されていればよかったと言うのよ?」
「そ、そんなことは言ってません。」
「言っておくけど、私を愛したから勇者はエルフを許したのよ。私がいなければ皆殺しにしていたろうし、私がいたから、私に万一のことがあればと思って手を控えたのよ、亜人達は。私が殺されていたら、エルフには義理もないのよ、亜人達と一緒にまとめて皆殺しの対象になっていたわよ。それに、もう踏み出したのよ。あの糞亜人どもが改めてよろしくお願いします、などと言ったからといってにこやかに迎え入れてくれると思っているの?あんな性悪の連中にそんなことを期待しているの?もう私達は人間と、いや勇者と手を結んでしまったのよ。もう戻れはしないの。私達とともに、人間と連合して亜人達を返り討ちにするしかないのよ。」
「そ、そのようなこと・・・大聖樹が。」
「はあ?大聖樹が何時、あなたに、何を言ったのよ?私も大聖樹、他の聖樹の前に立ったわよ。何も言われなかったわ。冷たい風も、怒りの波動もなかったわよ。言っておくけど、私の首でも差し出して頭を下げればいいとても思っていたら、とんだ見当違いよ。勇者が黙ってはいないわよ。まずはエルフ、ハイエルフを皆殺しにするわ。なにをさておいても、エルフを許さないわよ。それでもいいなら、やってごらんなさい?」
「何を・・・言っているのですか?言っていることがめちゃくちゃですよ。私は、単に一旦立ち戻ってと。」
「それはもう許されないと言っているのよ。勇者と私と一緒に進むしかないのよ。今ここで、勇者と私とともに進むことを改めて認めること。それしかないのよ。私は、エルフのため、ハイエルフのために要求しているのよ。選択の余地などはないわ。」
「あなたはそれでもハイエルフですか?ハイエルフの誇りはどこに言ったのですか?勇者に篭絡され、人間の下になろうとして。」
「その言葉、そのまま返してあげるわ。亜人どもに媚を売って、土下座して、エルフの、ハイエルフの誇りを捨てようとしているあなたにね。亜人どもが、勇者に殺戮されるエルフを助けに来てくれるとでも言うの?あいつらがそんなことするわけがないでしょう?」
「お待ちなさい。竜の巫女も、聖女には禍々しいものを感じたと言っているのですよ。私だけが言っているのでありませんわ。」
後ろ盾のある主張よ、どう?反論できる?という顔の巫女にインは、
「あいつらにとって都合が悪い勇者が、清く見えるはずはないじゃない。だからこそ、勇者が彼らから私達を思ってくれるということよ。勇者が、だってことよ。たせいたいね、何時から我がハイエルフの巫女様は、トカゲ野郎の巫女の風下になびいて立つことになったのかしらね?」
スウ・インは叫ぶように言って、テーブルに握りしめた手を叩きつけた。
「く、狂っているわ。勇者に・・・。」
と聖樹の巫女は顔面蒼白になりながら、呟いた。
「ふん。亜人の誰かか、亜人に心を打った誰かに篭絡されたくせに。」
「なんですって?」
「事実でしょう?」
睨み合う2人の間に入ることのできる者はいなかった。
「撤回して下さい。」
「事実を撤回なんかするもんですか。」
「そこまで言うなら証拠を出しなさい。」
「あなたが言っていること、しようとしていることが証拠よ。いい加減に大聖樹を騙るのは止めてよね。そこまで言うなら、勇者の前に行ってスウ・インを殺して、亜人達とやり直しますと言って、勇者にエルフを皆殺しにすればいいわ。」
「そ、そんなこと言ってません。」
「言っているのよ。あなたは、勇者にエルフ殺しを唆しているのよ。分からない?」
「何を訳の分からないことをいっているのですか?頭がどうかしているのですか?」
「この期に及んで、亜人どもの下につきたいの?何を約束してもらったのよ?」
「何を言っているのよ、この淫乱女。」
「淫乱女に言われたくないわよ。」
もう、2人を引き離すしかなくなって、長老たちの指示で衛兵達が二人を押さえて、連れて行こうとした。
「私を拘束したら、勇者は敵対行為とみなすわよ。」
とのインの一言で、長老たちは彼女だけから衛兵を引き離した。これで、彼女が議論に勝った形となった。




