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勇者よ、それがお前が望んだことなのか?  作者: 安藤昌益


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エルフ達の動向➂

「それで、ダークエルフ達やハーフエルフ達には、不穏な動きはないのだな。」

「はい、私の知る限り、見た限りでは。イン様への忠心ぶりというか、献身ぶりからというか、敬意というかからも、全くそういうものは感じません。」

「私もそういうことは感じません。」

 少し年配を感じさせる執事と侍女は、部族長の質問に回答した。執事は、インが勇者を出迎えに部屋を出た後しばらくして部屋に入ってきた。

 彼が言うには、勇者は屋敷に入るなり、

「愛する妻はどこだ?」

と捜すように第一声を放ち、しばらくするとインが走って来て、彼の胸に飛び込んだ。それを彼は愛おしそうに抱きしめたし、彼女も同様に抱きしめた。そして、寝室に直行したという。

「まさに淫乱馬鹿夫婦だな。全く人間相手に・・・。」

と部族長は吐き捨てるように言った。その前に立つ2人も同感だという顔だった。


「部族長様。お待たせして申し訳ありません。夫が・・・勇者様がなかなか離してくれなくて・・・。」

と部屋に入るなり、弁解?を口にした。上気した、それでいて満足したような顔にも、男女の営みの臭いが彼女から立ち昇っているように感じて、3人は気づかれない程度に顔をしかめた。

 彼女は、しかし、目ざとくそれを見付けたが、また、執事が部屋にいることにも、何も言わなかった。

 そのまま、椅子に座ると部族長と話の続きを始めた。そして、

「巫女様には、しっかりと大部族会議で、しっかりと優しく諭して差し上げますわ。」

と最後に言った。1か月後の大部族会議で、大聖樹、ハイエルフ領域の一番古く、大きな聖樹、その元で大部族会議が開催される、の巫女、各地の聖樹にはそれぞれ巫女がいる、が勇者センシュウ・イチジツについて禍々しいものを感じる、禍々しい存在だとしきりに言っているらしい。

「お手柔らかに頼むよ、勇者夫人。」

と彼は立ち上がると彼女に言った。どうなるか心配でたまらなかったので、少し表情が引きつっていた。

「大丈夫ですよ。」

と彼女は微笑んだ。そして、深々と頭を下げた。


 インに、玄関を出て、馬車まで付き添われ、従者達が尽きしたがわれて馬車に乗ろうとした彼に、

「申し訳ありません。時間がなく、ご挨拶も遅れてしまいました。」

と勇者センシュウ・イチジツが姿を見せた。彼の前で頭を深々と下げた。

「いやいや、勇者様。お忙しい身であることはよく存じておりますし、こちらも突然の訪問でしたから、そのようなことは気にしていませんよ。」

と部族長が言うと、歩み寄り、

「妻のことはよろしくお頼みします。我々の共闘に、誤解をしている者もいるようですから。」

とセンシュウは言った。それが、大部族会議のことをいっているのだと、直ぐにわかった。

「もちろん。安心したまえ。」

 それに対して、

「ありがとうございます。」

と一旦は頭を下げて礼を言いながら、

「もし、妻に何かあった場合、最悪、私はハイエルフを全て殺戮することになりますから。そこまでいかなくても、関係した部族は消え去ることになるかもしれません。見せしめのためにも。そうならないと思っていますが。何もなければ、何もそのようなことを考える者がいなければ心配も何もないのですから。」

 初めは殺気を感じさせるような表情が、最後はにっこり笑っていた。かえってそれが恐ろしく感じた。本気だ、と感じた。慌てて助けを求めるように、スウ・インの方を見ると、

「そうならないように、よろしくお願いしますよ。くれぐれも変な誘惑に乗らない、口車に惑わされないように。」

というような顔で微笑んで、勇者の傍らに、寄り添って立っているのが目に入っただけだった。

「もちろんだ。」

と答えて、慌てて馬車に乗り込んだ。


 動きだした馬車の中で、真っ青な顔で必死に頭を働かせなければならなかった。呟く声が漏れるのをどうしようもなかった。

「絶対、あの話には乗れないな。いや、それだけでは・・・。絶対阻止しなければなるまい。事前に・・・、阻止しなければならないか?少なくとも、我が部族内は、粛清しておく必要があるか?かと言って他の部族との関係も・・・。そんなことを言っても・・・。」

 その時、インが言った言葉を思い出した。

「夫にとっては、妻の部族は特別ですからね。」

 その言葉の意味は?と思った。

「もう逃れられないと観念しろということか?特別でなければならないのだな?もう一蓮托生だと腹を決めろと?そうだな、そうしよう・・・わかったよ。」

 彼はがっくりと頭をおとした。 

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