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『聖女の影』はやり直す ~破滅の運命を越えて、最愛の騎士と共に生きます~  作者: 彼岸茸
第一章

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7 夜の語らい

 連日の『封印の儀』をやめて、三日に一日は休みを入れるようにした。

 それ以来、貧血によるふらつきは少し減った気がする。


 ユリウスのためにお弁当を持っていき、帰りは彼に屋敷まで送ってもらうのも日課になっていた。


 しかし、今日の彼の仕事は王都の巡回なので、リアナから会いに行くことはできない。


 その代わり、仕事が終わると、直接会いに来てくれることになっている。

 それはそれで新鮮で、リアナの心は浮き立った。

 

 いずれにしても、彼がアルクエル邸を訪れるのは陽が沈んでからになる。


 貴族としては少々はしたないかもしれないが、アルクエル家の現当主でもあるカタリナには許可を得ているので、問題ない。

 いや、カタリナがユリウスに向ける視線を考えると、別の問題はありそうだ。


 ともあれ、一周目の世界では、こんなにも夜が待ち遠しいと思ったことはなかった。


 メイドにユリウスの訪問を伝えられたリアナは、聖具とナイフを持ってユリウスのもとに急いだ。


「リアナ嬢、会いたかった」


 会うなり、彼からそんな台詞を言われ、顔が熱くなる。


「わ、私も早くお会いしたかったです」


 それでも勇気を出して、そう答えた。

 リアナはそっとユリウスの鍛え抜かれた二の腕に手を添え、いつものガゼボへ向かった。


 彼がリアナの歩調に合わせてくれることも、躓きそうなところをさりげなく避けることも知っている。

 そんな優しさもリアナにとっては嬉しい。


 彼が歩くのに合わせてランタンが揺れる。

 ガゼボでしばらく語らって、帰っていくユリウスを見送るのが、ここ最近のリアナの一番の楽しみだ。


 今日も、ユリウスが仕事で起きたことを話してくれる。


「君が『封印の儀』をしてくれるおかげで、魔獣被害が減っていると騎士団でも話題になっている」

「私は大したことなどしていません。お姉様が頑張っているからです」


 ユリウスが褒めても、リアナは本気で謙遜する。


「俺はそうは思わないが……全てが聖女様の手柄になっているのも理不尽だと思っているくらいだ」

「私の力なんて微々たるもので、ほとんどはお姉様の功績ですから、それでいいのです。私は『聖女の影』で十分です」


 そう言って、彼女は微笑んだ。

 彼女がそれでいいと言うのであれば、ユリウスはそれ以上口を挟まない。


「ですが、瘴気がちゃんと減っているのはよいことです」


 リアナはほっと安堵した。

 しかし、ユリウスは少し難しい顔をする。


「何かあったのですか?」

「君に話していいのか判断しかねているんだ……話せば、君が無茶をしそうでな」


 リアナが首を傾げる。


「そこまで言われたら気になるではありませんか。絶対に無茶はしませんので、教えてください」

「放置するわけにもいかないのも事実だしな……実は今日、貧民街のスリ師を捕まえたんだ」


 ユリウスは悩んだ末に、話し始めた。


「ユリウス様のご活躍で王都の平和が守られているのですね」


 素直に賛辞を述べるリアナだったが、ユリウスは首を横に振る。


「そう簡単な話じゃなくてな。いろいろあって、結局その男は見逃したんだ。娘が黒斑病と言っていた」

「黒斑病……」


 その単語を聞いたリアナの脳裏に、一周目の世界の記憶がよぎる。


 王宮の地下牢に投獄される少し前に、黒斑病が流行り始めていた。

 調査の結果、瘴気を撒き散らす呪具の影響と判明した。

 そして、リアナはその呪具を用いた犯人として、投獄されることになったのだ。


 今回の件は、破滅とは無関係かもしれない。

 だが、破滅の始まりの可能性はある。


「破滅は、回避しないと……」


 彼女はぽつりと呟いた。夜風は冷たくないのに、寒気を感じる。自分自身の身体を抱き、小さく震える。


「リアナ嬢?」


 急に顔色を悪くした彼女を、ユリウスが心配する。

 リアナは彼を見上げた。


「お願いです。貧民街に私を連れていってください」

「……やはり、そうなるか。令嬢が行くには危険な場所だ。まして夜になるとなおさらな」

「そこを何とかお願いします。もう……破滅は嫌……」


 あまりの必死な形相に、騎士の分隊長であるユリウスでさえ気圧される。

 彼は眉を寄せつつも、仕方ないというふうに肩を竦めた。


「まあ、君がそう言い出すことは予想できていたことだ。君の力があれば黒斑病を癒やせるからな。だからこそ伝えるか悩んだんだが……」

「はい。微力ですが、きっとお役に立てます」

「……君の安全は俺が必ず守る。だから、リアナ嬢、君も無茶はしないと約束できるか?」


 真剣な表情のユリウスに、リアナも真面目な顔を返す。


「お約束は……申し訳ありません。場合によっては無茶をするかもしれません。ですので、どうか私を守ってください」

「……以前の君はそこまで頑固だったか?」


 今度はユリウスが首を傾げる番だ。

 彼にとってリアナは引っ込み思案で、積極性に欠ける令嬢だった。


 実際、時間を遡ってくる以前のリアナであれば、状況に流されていただろう。

 けれど、今のリアナには明確な目標がある。


 そのために、積極的に行動すると決めたのだ。

 もちろん、ユリウスに胸を貫かれる未来のことなど話せない。


「お姉様が聖女になられたので、私もしっかりしないといけませんから」


 だから、そう言って誤魔化したが、それも決して嘘ではない。


「そうか。俺は今の君の方が好きだな」

「え? あ、そんな、好きだなんて……」


 ユリウスの不意な発言に、動揺してしまう。恋愛事はまだ不慣れだ。

 そんなリアナに、彼は苦笑する。


「行こう、リアナ嬢」

「は、はい。お願いします」


 動悸が激しいが、今はなすべきことをなすだけだ。

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