表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『聖女の影』はやり直す ~破滅の運命を越えて、最愛の騎士と共に生きます~  作者: 彼岸茸
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/60

23 リアナ 11 新たな聖具

 リアナがレイヴンとともに訪れた鍛冶工房は無人だった。

 瘴気が王都を覆ってすぐに逃げ出したのかもしれない。勝手に工房を使わせてもらうのは躊躇われるリアナだったが、レイヴンはお構いなしだ。


「工房の方に許可を……」

「んなことしてる場合かよ。さすが聖女サマだな。品行方正なのは構わねぇが、時と場所は選べよ」


 彼の言葉も一理ある。

 緊急事態なのだから、使えるものは使うべきだ。


「そうですね。ここにある道具で聖具を完成させられますか?」


 リアナの問いに、レイヴンはざっと工房内を見回す。並んでいる工具を手に取って確認した彼は首を縦に振った。


「ま、問題ねぇだろ。聖具を寄越しな」


 怪しく口角を上げるレイヴンに、聖具を握るリアナの手がほんの僅かだけ止まった。

 この男が本当に信用できるか分からない。ひょっとしたらゲイルの手下で、未完成の聖具を渡したら壊される可能性も否定できない。


 だが、リアナは首を横に振ってその考えを否定した。

 彼は怪しいが、それでも姉カタリナの恩人だ。現在起こっている瘴気事件の首謀者の手下だとしたら、わざわざこんな回りくどいことはしないはず。


 短く息を吐いてから、レイヴンに未完成の聖具を渡した。


「よろしくお願いします」


 言動が粗野なレイヴンだが、意外にも丁寧に聖具を受け取る。


「任せろ。ほう、こいつは立派だ。作ったのはベルクラン工房のオヤジだな」


 聖具の溝を確認していたレイヴンが呟く。


「分かるのですか?」

「当然だ。新しく作ったんだろ? 何を素材にしたんだ?」


 レイヴンが加工に必要な工具を集めながら、尋ねてくる。特段隠すようなことでもないので、素直に教えた。


「私の血です。指を一本か二本提供しようとしたのですけれど、ユリウス様にも工房長様にも止められて」


 その答えにレイヴンが目を丸くした。そんなつもりはなかったのだが、彼を驚かせたようだ。


「指? お前、そうとうぶっ飛んでんな。そりゃ止められるだろうよ。あの騎士サマの溺愛ぶりは噂にもなってるくらいだからな。まあそれはどうでもいいんだが、指じゃなくて血を使ったのは正解だぜ」

「正解?」

「ああ。聖女の力の源はその血にあるからな。さて、お喋りはここまでだ。集中するから、もう話しかけるな」


 レイヴンは加工台に未完成の聖具を設置し、溝を彫るための工具を手に取った。

 慎重に溝を彫っていく姿は、職人のそれだ。手元が狂ってもいけないので、リアナは少しその場から離れる。


 工房から出ないようにして、王都を眺める。

 赤紫の瘴気は少しだけ薄くなっている気がする。


(お姉様が呪具を壊して回っているのね)


 本当に以前のカタリナとは別人だ。

 彼女に「死ね」と言われたことは忘れていない。決別して、見限ることもできただろうが、結局はこうして助けてくれるのだから、姉のことを信じて良かったと思う。


 遠くの方で白い光が広がった。カタリナがまた一つ呪具を破壊したのだろう。


 それでも王都を覆う瘴気は漂っているし、魔獣の咆哮も響いてくる。


「グルルルルル……」


 不意に近くから魔獣の唸り声が聞こえた。はっとして声の方を見ると、大きな猫のような魔獣がリアナを標的に定めていた。

 リアナは背後を確認したが、まだ聖具は完成していない。

 ベルクランを襲った鷲型魔獣の時のように、リアナの血を武器に塗って戦おうにも、その武器がない。


 武器があったところで、リアナには振るうことができないが。


 魔獣が地を蹴って、リアナに迫ってくる。しなやかな体躯から繰り出される動きはかなり速い。

 あっという間に距離が縮まり、魔獣の爪がリアナを裂こうとした瞬間だった。


「躾のなっていない猫ちゃんですね」


 横合いから現れたマーサが魔獣を蹴り飛ばした。


「マーサさん!」

「ご主人様の命令で、こっそり奥様をお守りしてました」

「なぜ、こっそり?」


 リアナが激しく鼓動する胸を押さえながら、ユリウスのメイドに問う。マーサは親指を立てて、にっこりと笑った。


「その方が格好いいでしょう?」


 その感覚はリアナには分からないが、助かったのは本当だ。

 体勢を整えた魔獣が再びリアナに向かって駆けだしたが、気づけば魔獣の眉間に短剣が刺さっている。


「マーサさん! その程度では魔獣は――」

「知ってますよ」


 いつの間にか、マーサは魔獣の首を短剣で斬り落としていた。リアナには彼女が何をしたのか見えなかった。

 ただ、魔獣が黒い靄となって消えたのだけは分かる。


 マーサが持っていたはずの短剣が消えているのは謎だが。メイド服のスカートの内側に隠しているのだろうか。

 何にせよ、万能メイドのおかげで命が繋がった。


「ありがとう、マーサさん」

「いえいえ、これもメイドの嗜みですから」


 何事もなかったかのようにメイド服を整えるマーサ。

 そこに、レイヴンが声をかける。


「そんなモンがあってたまるか。まあいい。できたぜ、聖女サマ」


 彼は円盤状の聖具をリアナに渡した。受け取ったリアナが聖具を確認すると、さっきまで平らだったところに溝が彫られている。


「は、早いですね」

「ベルクラン工房のオヤジがほとんど終わらせていたからな。とっととゲイルの企みをぶっ潰すぞ」


 リアナは力強く頷く。

 『祭壇の間』まで行く時間も惜しい。カタリナの負担を減らすためにも、この場で聖具に血を注ぐことにする。


 聖具を作業台に置いたリアナは、一切の迷いもなくナイフで自らの掌を切った。


「はっ、カタリナよりも躊躇がねぇな」


 レイヴンの感想が聞こえたが、気にしない。

 一滴の血も無駄にしないように、流れ出る血を聖具に捧げる。

 リアナの血を素材に使った聖具なので、当然彼女の血との親和性は高い。前の聖具は少しずつリアナの血に馴染ませる必要があったが、これはその必要がない。


 同じ血液量でも浄化の力が強いのが分かる。

 これなら、限界まで血を捧げる必要はない。


 工房からあふれ出た浄化の光は王都を包み込み、瘴気を消し去った。


「はぁ、はぁ……」

「奥様、大丈夫ですか?」


 肩で息をするリアナを、マーサが心配する。リアナは「大丈夫」と微笑んで見せた。


 魔獣の咆哮はもう聞こえない。

 だが、発動したまま放置されている呪具がある以上、瘴気が再び溜まるのも時間の問題だ。


「さっきの浄化である程度、呪具も力が弱まっているだろうよ。騎士どもがゲイルの手下を捕らえて、呪具の場所を吐かせりゃそれで呪具に関しちゃ解決だ」


 呪具に詳しいレイヴンが言うなら、そうなのだろう。

 レイヴンは言葉を紡ぐ。


「だが、終わりじゃねぇ」


 ほっと安堵しかけたリアナだったが、怪訝な表情に変わる。


「どういうことですか?」

「根本的な解決にはなってねぇってことだ。聖女一族のくせに何も知らねぇのか?」


 レイヴンの試すような冷たい視線に、背筋がぞくっとした。


「えと……」

「はぁ……ゲイルのクソ野郎が使った呪具なんか、正直どうでもいい。問題は最大の呪具だ。そいつをどうにかしないことには、瘴気は溜まり続ける一方だ」


 理由は不明だが、瘴気は王都の地面から少しずつ、だが確実に滲み出てきている。レイヴンが言っていることは正しいのだが、どこか引っかかる。


「最大の呪具とは何なのですか?」


 リアナの問いに、レイヴンは表情を歪め、憎しみすらこもった声で答える。


「初代聖女の遺体だよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ