4話 銃殺刑
7月7日 ナラミ高原
初陣から約一ヶ月半。まだ私は生きている。
今日の任務はナラミ高原に展開した、反政府軍機甲師団を攻撃する味方機甲師団の支援。政府軍では珍しい精鋭で、今回は楽に勝つことが出来た。
今は戦闘終了後の撤退準備中。警戒は解かないが、勝ち戦ということもあり、達成感を味わっている所だ。
少し離れた所では捕まえた捕虜の対応が行われている。武装解除させて、手錠をかけてトラックに詰め込んで、収容所まで連行するだけの簡単な任務。私がそれをぼんやり眺めていると、背後から声をかけられた。
「だいぶ命のやりとりにも慣れてきたって顔だね」
「師匠……」
声をかけてきたのはレベッカ先輩だった。
「その師匠ってのやめてよ。照れる」
「いえ、先輩には随分色んな事を教わりましたから。貴女が厳しく指導してくれなければ、私、多分甘ったれたまま、途中で死んでましたよ。師匠呼びさせてください」
「こそばゆいなあ……」
そういいつつ、先輩は満更でもなさそうだった。
「ま、大分筋は良くなってきたけど、まだ甘さがあるね。敵を撃つときは目をつぶっちゃダメだよ。当たるものも当たらなくなる」
そう指摘され、少し私は視線をそらした。罪悪感は感じなくなってきたが、自分の放った弾で人が死ぬのは、やはり気持ちのいいものではない。
「……怖いですよ。やっぱり」
「怖いのなんて皆一緒だよ。目をつぶってたって敵弾は避けてくれない。勇気ってのは恐怖を乗り越えた瞬間に生まれるんだ」
……どうも微妙に噛み合ってない気がする。私が言っているのは人殺しへの恐怖なんだが……。
そんな時、捕虜対応中の隊員が騒がしくなった。
「なんでしょうか?」
「誰か諦めが悪いのが抵抗したかな? 行ってみよう」
私と先輩は顔を見合わせると、そちらに近寄った。
そこでは2人の捕虜が手錠をかけられてひざまづかされていた。隊員達は彼らに次々と罵倒を浴びせている。
「何があったの?」
先輩が手近にいた隊員に聞く。
「……ちょっとした「戦争犯罪」よ。この内戦じゃありがちな話」
答えたのはグレース・トーネード。公爵家の人間で、珍しく志願してこんな所まできた「やる気のある」高位貴族令嬢。
アッパークラスの人間らしい優雅な声色で言う。だが、話自体はエグいものだった。
「戦場から逃げる反政府軍のトラックをうちが捕獲してさ。あいつらはそのドライバー。そこまでなら良かったんだけど、積み荷がね……」
「積み荷が何か?」
「若い女が十数人」
「……え」
「近隣の村落から拉致されて、毎晩無理矢理部隊の男達の欲望のはけ口にされてたそうよ……おおかた、戦利品のつもりだったんでしょうね」
「……」
絶句。
いや、話には聞いていた。統制が効かない民兵の中には略奪を働くものもいると。
だが、実際にその現実に遭遇するとは。
666大隊の隊員達は自身が若い女学生という事もあり、口々に捕虜を罵倒する。だが、そこに現れた1人の男の一喝で、場は静まった。
「……静まれ!」
少佐だった。
彼は隊員達の波を越えて2人の捕虜の前に立った。
「……下衆め」
少佐は一言だけ呟くと、すぐに脇にいた参謀に指示をだした。
「攫われた女性達に証言を取れ。そしてこの件に関わった捕虜を全員連れてこい」
それを見つつ、レベッカ先輩は軽くため息をついた。
「あー……ありゃ怒ってるね」
「そんなに?」
「うちの隊長が望まぬ妊娠の末に産まれたってのは前に話したよね? あれ、本人にとっては相当コンプレックスになってるみたいでさ……。「この手の無責任な行為」、嫌いなんだよ。お母さんの事思い出すから」
そっけなく言って、先輩は少佐を見た。
「……こりゃ多分血が流れるなあ」
それから諦めた様に空を見る。夕日が血のように赤い。少佐は間違いなく怒っていた。静かだが、激しく。
果たしてしばらくたって、乱暴された女性達から断罪された捕虜達が連れてこられた。数は20人ほど。それらは一列に並ばせられた。
「お前達、こいつらへの罰は何が相応しいと思う?」
少佐の声に666大隊の隊員達は一斉に返答した。
死刑!!
死刑!!
死刑!!
彼女達はさながら、闘技場で無様に負けた剣闘士の死を求める観客達の様に、親指を下に向ける。
「だがせっかくだ。有効に活用しようじゃないか。今から呼び出した者は前に」
少佐はそう言うと、何人かの隊員の名前を呼んだ。その中には私の名前もあった。
急に呼び出されて嫌な予感しかしない。が、行かないわけにもいかない。
他の隊員達と共に前に立った。私と同じくらいか、少し後に部隊に来た新兵が中心だ。
「まだ人殺しに慣れていないお前達に、練習台を与える。こいつらの銃殺刑を執行しろ」
「?!」
突然の指示に思わず面食らった。他の子も同じで、困惑気味にお互いに顔を見合わせるだけだ。
捕虜達は自分が殺されると分かって、途端にしおらしくなった。先ほどまで粋がっていた若い兵さえ、命乞いをはじめる。やれ反省してるだの、やれ自分には家族がいるだの。
だが、そのか細い助命嘆願は他の隊員達の声にかき消された。
殺せ!!
殺せ!!
殺せ!!
「……早く撃て。これは命令だ」
少佐はじっとこちらを見ている。出来ない、なんて言える空気ではない。
私は意を決して、腰のホルダーに下げたM1911拳銃を手に取り、構えた。私の動きを見て、他の子も銃を手に取る。
「貴重な機会だ。よく見て、よく考えて撃て。どこに当たれば致命傷かを。目を逸らしちゃいかん」
私は目の前の泣き叫ぶ中年の男の眉間に狙いを定めた。
「構え! 狙え! 撃て!」
自分でもあっさり引き金をひけた。
乾いた発砲音と共に、男達の命が消えた。頭から流れる血は夕焼け空より真っ赤だった。
不愉快な命乞いの声は消え、代わりにすぐに拍手喝采が起こった。
ざまあみろ!!
よくやった!!
地獄に堕ちろ外道ども!!
人を殺した直後だというのに、不思議と罪悪感は無かった。歓声を浴びて代わりに湧いてきたのは、むくむくと湧き上がる承認欲。
「私、正しい事をしたんだよね……?」
そう呟いた独り言に、少佐は応えてくれた。
「そうだ。この人殺しは正しい事だ」
少佐はそう言って、いつもの優美な笑みを浮かべた。




