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2話 初陣

 私が配属されたのは、第666特別大隊という部隊だった。


 10代の女子学徒兵を主として構成された年少兵部隊。


 指揮官は、なんと王子様だった。


 少佐の階級章をつけた第9王子。白い髪に青い瞳の、見目麗しい美丈夫。軍隊に放り込まれたはずなのに、まるで夜会にでも出てきそうな美しい男だった。


 配属当初の私は、ずいぶん「当たり」の上官を引いたものだとのんきに思っていた。


 そして、のんきに構えていられたのは、初めのうちだけだった。


 私は今、地獄の中にいる。


「クソッタレ! エデンがやられた!」


 私の指導役であった先輩の悔し気な声が響く。レベッカ・シューティングスターと言った彼女は貧民街の生まれで、歳は私と同い年。


 だというのに、56式突撃銃を震えたまま抱き寄せ、恐怖で動けなくなっている私とは正反対に、躊躇いなく敵陣に引き金を引く。


 5月25日。ラバート山


 最低限銃の撃ち方と分解整備のやり方だけ教えられた後、放り込まれたここが、私の初陣だった。


 甘かった。


 どこかで私は学徒兵部隊なんだから後方配置。なんなら敵軍も多少は手加減してくれるかもしれない。などと甘ったれた事を考えていた。


 とんでもない。


 私達が投入されたのはまごうことなき最前線。銃弾や砲弾が容赦なく降り注ぎ、運悪く弾丸に当たった敵も味方もバタバタと倒れていく。


「ジェイド! アビー! 泣いてる暇あったら撃って!」


 戦友を失ったのか、意気消沈している味方の少女兵をレベッカ先輩は蹴っ飛ばし。無理やり戦闘に参加させた。無論、私も例外ではない。物陰で震えていた私の元に駆け寄った先輩は、私の頬を軽くはたいた。


「ナナも撃て! ここ抜かれたら皆死ぬ!」


「私……初陣で……」


「新兵だろうが年少兵だろうが敵は容赦しないよ! 死にたくなかったらトリガーを引け! その銃は飾りか!!」


「はい!」


 条件反射で返事をして、震える手で銃を構える。一連射、二連射、三連射したあたりでマガジン内の弾丸が弾切れを起こした。


 今度は、レベッカ先輩に肩を掴まれ、無理やり遮蔽物に隠れさせられる。


「馬鹿! フルオートはすぐ弾切れ起こすから、セミオートで撃てって教えたでしょうが! それに一か所でぼさっと突っ立てるんじゃない! 敵の狙撃兵からしたら良い的だよ!」


「は、はいぃぃぃ……」


 自分でも情けない声が出た。こんな修羅場だというのに、滑稽で笑ってしまいそうになる。いや、おそらくこの状況で笑えるのは逆に正気じゃない。


「良い? 今日は味方が珍しく粘ってる。この戦い、勝てるよ」


「勝てる……?」


「今回の作戦目標、覚えてる?」


 レベッカ先輩の言葉に、私は震える声で返答した。


「反政府軍のレーダー基地を奪う事……」


「上出来。もう敵の最終防衛ラインまで来てる。次のうちの迫撃砲隊の斉射が終わったら一気に敵の塹壕に突入する。……大丈夫。666大隊の迫撃砲隊の精度は信用していいから」


 無言で二、三度うなずいた。


「うちの隊長、戦闘開始前になんて言ってた?」


 そう言われて思い出す。少佐が言っていた事……あの白髪蒼眼の空の様な印象を持たせる美男子にしては過激な事を言っていた様な……?


「死ぬ前に50人殺せって! 頑張んな!」


「……イエス、サー」


 口調的には冗談交じりだ。だが、私の頭の中では「殺せ」という単語が何度もリピートされる。


「殺す、殺す、殺す、殺す……」


「だんちゃーく、今!」


 声の主は砲兵隊の観測手。名前はヴァネッサとかいってたか。確か、私と違って半ば無理やり動員された没落した男爵家の娘。彼女がそう宣言する。


 それと同時に敵陣に迫撃砲弾が降り注いだ。敵の頭上でさく裂した榴弾が、鉄の破片の雨を降らせる。


「凄い……」


 先輩の言った通り、迫撃砲隊の射撃は正確で、敵の火点を重点的に黙らせた。


「GO! GO! GO!」


 各隊の中隊長の叫び声に続いて、少女兵達は一斉に駆け出した。私もそれに混じり、敵の塹壕に飛び込む。鬨の声は少女というより、何かの化け物の叫び声の様に錯覚する。


 何発か敵の弾丸が頬をかすめる。だが、足を止めたら死ぬというのは本能的に分かった。


「死ね! 死ね! 死ね!」


 まるで呪文のように叫びながら、私は手近にいた敵兵に銃弾を浴びせた。今度は言われた通りセミオート射撃。まだ、私より少し上くらいの若い兵士だった。


 彼は何発も銃弾を浴びて断末魔の叫びも上げられないまま倒れ伏した。何か言おうとしていた。


 「母さん」だったか、あるいは恋人の名前だったのか。だが、その声は鬨の声にかき消され、聞こえる事は無かった。


 他の味方の部隊も、うちの隊に呼応して突撃を開始したようだ。無線機からは次々と敵陣突破の報告があがった。どうやらここは押し切れたらしい。


 だが、我に返った私はというと、倒れ伏した敵兵の死体を見ながら呆然とするだけだった。

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