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星屑の残骸  作者: 沼口ちるの


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7/10

第七話:世界で一番静かな、スクラップ

ダイアの脳内で、古い順から記憶がノイズに溶け、消えていく。  母の焼いたパンの焦げた匂い。放課後の影。それらが「演算負荷」という名の高熱によって、ただの0と1の羅列へと焼却される。 「……ダイア、もういい! 降りろ!」  テツがダイアの肩を揺さぶる。だが、その指先が「テツ」という親友のデータに触れた瞬間、ダイアの脳はそれを「不要なキャッシュ」として迷わず削除デリートした。


「……テツ……? いや、知らない。……あいつを、書き換える……。ユラ、っていう……このデバイスを、……デフォルト設定から……解放、するんだ……」  ダイアの声は、もはや音声合成機のように平坦だった。  彼の意識は、円盤の最深部――「マスター・ブート・レコード」を侵食していた。    ダイアはコマンドなんて打たなかった。  ただ、自分の中に残った最後の一滴の、名前さえ忘れた「感情」――【定義不能なエラー】を、円盤の完璧な論理回路の真っ只中に放り込んだ。    ドォォォォォォォォォン!!  円盤が、断末魔のような高周波を上げた。  完璧な宇宙の統治プログラムは、ダイアという「泥臭く、不完全で、非論理的な人間の残滓」を処理しきれず、論理破綻フリーズを起こした。  白光が濁り、七色のノイズとなって雲散霧消していく。  物理法則が戻り、重力が牙を剥く。  『ダイア・スペシャル』は、異星のコアを強制排出イジェクトしながら、空中でバラバラに分解し、ゴミ処理場の底へと墜落した。    静寂。  煙の立ち込めるコックピットの中で、ユラが目を覚ます。  彼女の肌からは白銀の冷たさが消え、その瞳には「恐怖」という、人間にしかない感情が宿っていた。 「……あ、あ……」  彼女は、自分を縛り付けていた「兵器としてのマニュアル」が、自分の中から綺麗に消去されていることに気づく。


「……ダイア?」  テツが、動かない操縦席の背中に声をかける。  ダイアは座ったまま、動かなかった。  指はキーボードに溶け落ちるように張り付いている。  鼻から垂れる血が、コンソールに「ERROR」の文字を描いていた。    ダイアは笑っていた。  だが、テツがどれだけ泣きながら呼びかけても、ダイアの瞳が反応することはなかった。  彼の中に残っているのは、もう「人間」としての記憶ではない。  それは、宇宙を書き換えた後の、静かな、空っぽの「実行環境ランタイム」だけだった。

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