第五話:廃棄物の底で、神を剥く
上空を裂くのは、連邦の熱線砲と異星のプラズマが交差する、地獄のイルミネーションだ。 「ダイア、もうダメだ! 四方八方、逃げ場なんてねえ!」 テツの絶叫を、ダイアは耳元で鳴る不快な耳鳴り程度に聞き流した。 「テツ、逃げ場がねえなら、座標を書き換えるまでだ」 ダイアはユラの胸元に手を突っ込み、彼女の「心臓」と直結したバイパスを引き抜いた。 「ユラ、お前の『慣性制御』を、このポンコツの脚部油圧に叩き込め! オリフィスが吹き飛んでも構わない、全エネルギーを跳躍に回せ!」 「……思考……同期……、過負荷で、個体が、霧散する……」 「霧散する前に、俺がこの鉄屑に閉じ込めてやる!」 ダイアは足元の工具箱からナノ接着剤のボトルを掴み取り、コンソールの基板に直接ぶちまけた。バチバチと火花が散り、強引な「物理的短絡」が回路を一時的に繋ぎ止める。
ドォォォォン!! 『ダイア・スペシャル』が地面を蹴り飛ばした。いや、周囲の空間を爆縮させ、反動で跳ねたのだ。 音速の壁を突破する衝撃波。 「……ッ、が、あぁっ!」 加速Gがダイアの肋骨をミシミシと圧迫し、肺から空気を搾り出す。視界が赤く染まる中、彼はユラの脳を経由して流れ込む「軍の哨戒網」を凝視した。 見える。奴らのレーダーの走査周期、そのわずかな「瞬き」の隙間が。 急制動。 重力のベクトルが真逆へと転換され、固定ワイヤーが悲鳴を上げて弾け飛んだ。 彼らは巨大な廃棄物処理ピットの闇へと、石塊のように墜落した。 ドロリとした重油と金属の腐敗臭が、コックピットにまで立ち込める。 上空をサーチライトが虚しくなでていく中、ダイアは激しく咳き込み、口から溢れた血を袖で拭った。 機体は沈黙している。隣では、ユラが青白い光を失い、人形のように首を垂らしていた。 「……ダイア、おい……こいつ、脈がねえぞ。死んでる……」 テツの声が震える。 「死なせない。……まだ、何も盗んでないんだ」 ダイアは震える手で、衝撃でひび割れたノートPCの蓋をこじ開けた。 画面に映し出されるのは、地球の文字ではない。意味を持たない幾何学模様の羅列――異星のOS。 「なんだよこれ、文字化けか?」 「違う。……思考の波形だ」 ダイアは鼻血をキーボードに滴らせながら、狂ったようにタイピングを開始した。 「言語を理解する必要なんてない。俺はただ、この『波』を俺の機械が扱える電圧に変換するだけだ……。来い、神様の設計図。俺に見せてみろ、お前の『中身』を!」 爆音の響く夜空の下、ゴミの底で。 少年は、死にゆく少女と兵器から「神の火」を奪うための、冒涜的な解体を始めた。




