第二話:潜伏の残響
「正気かよ、ダイア……!」 テツの悲鳴が、熱気の残るクレーターに響く。 「テツ、ウインチだ! お前のレッカ車のウインチをよこせ! こいつを『ガレージ』まで引きずっていく!」 「はあ!? 重機なんて動かしたら、音と振動で即バレだろ! 憲兵が来るって言ってんだぞ!」 「あと三分だ。奴らが第7区画のぬかるみに入ってくる前に、裏道を通せばいける」 「三分!? 無理に決まって……」 「やるんだよ! もうお前の指紋も付いてるんだ、今さら一般市民面できると思うな!」 ダイアの怒声に、テツが息を呑む。彼は顔を引きつらせ、半泣きになりがら運転席へ駆け戻った。
キュルルル、とウインチが唸りを上げる。 ダイアは少女――ユラの体を抱きかかえ、コックピットから引き剥がした。 青い肌は、火傷しそうなほど熱い。まるで冷却システムがダウンした炉心だ。 「……なお、して……」 ノイズ混じりの声が脳を揺らす。だがダイアの目は、少女の肢体ではなく、その背後の機体に釘付けになっていた。 (……なんだ、この駆動音は?) ウインチで無理やり引きずられているにも関わらず、機体はわずかに浮遊しているように軽かった。推進剤のタンクがない。インテークもない。この機体、まさか『質量』そのものを操作しているのか?
「ダイア! 早く乗れ! ライトが見えたぞ!」 テツの絶叫。 遠くの空、サーチライトの光柱が雨のように降り注いでくる。 ダイアは少女をレッカの荷台に放り込み、自らも飛び乗った。 「出せ! ライトを消して走れ!」
ガレージという名の廃工場へ滑り込んだのは、まさに連邦軍の低空パトロール機が、彼らの頭上を通過する同時刻だった。 キキィッ! 急ブレーキと共に、錆びたシャッターを荒々しく下ろす。 直後、シャッターの隙間から強烈な光が差し込み、屋内を白く焼き付けた。 ブォォォォ……。 腹に響くジェット音と共に、光が遠ざかっていく。 暗闇と静寂が戻ったガレージで、聞こえるのは二人の荒い呼吸と、未知の機体が発する不気味なハム音(駆動音)だけだった。
「……死ぬかと思った……」 テツが床に崩れ落ちる。「これでもう、俺たちは立派な重犯罪者だ。あーあ、人生終わった」 「これから始まるんだよ」 ダイアは懐中電灯を噛んで固定し、工具箱を蹴飛ばして開けた。 作業灯に照らされた少女は、銀の血を流しながら浅い呼吸を繰り返している。 ダイアはその傷口に、躊躇なく指を突っ込んだ。 「痛……っ」 少女が身をよじるが、彼は止まらない。 布で止血しながら、その目は傷の奥に見える『構造』を貪っていた。 「血管じゃない……チューブだ。ナノマシンの循環系か? すごい、この自己修復速度……俺たちの技術とは次元が違う」 彼は興奮に震える手で、スパナを握りしめる。 目の前にあるのは、助けるべき少女ではない。解き明かすべき、至高のパズルだ。 「さあ……見せてくれ。お前がどんな理屈で動いているのか」 少年は笑っていた。 星間戦争の片隅で、世界を滅ぼしかねない「修理」が始まろうとしていた。




