茶番
お待たせしました。
授業が始まった。
受けないと大学受験に差し障るかどうかは分からない。
が、赤点回避はしなきゃいけない。補習になって白露に会えなくなるなんて言語道断。
適当に授業を受けときゃいいだろう。サボりがバレない程度にね。
──スパァァァァァァァァァン!!!──
「自分が何したのか分かってるの!?」
「……」
「うん……うん……“今謝ったら命までは取らないでいてやる、謝れ!”」
なんだろう?この寸劇。なんか最近平手打ちよく喰らうなぁ。もう慣れたかも。
……ん?この感じ、もしかしてこの寸劇俺に向けられてる?
「あ、俺に聞いてた?ごめーんお腹減ってなにも聞こえませんでしたァ」
拳が机を打ち鳴らしている。おー、怖い怖い。はぁ……机が痛むからやめて欲しい。
「こ、こいつぅ……!お前のせいで誠也は!!」
「……誠也?」
「自分が傷付けた相手の名前も知らないの!?信じられないっ!!」
「あぁ……」
そういえばあの性根の腐ったカスの名前がそんなんだったな。
性根に似合わない名前だ。湯婆婆なら間違いなく贅沢な名前だねと言うことだろう。
俺の弁当を食べたあのカスが泡吹いて倒れた。自業自得以外の何物でもない。
何を謝れというのだろうか?ま、人を虐めるしか脳のないやつには分からんか。
「俺の弁当を食った奴が泡を吹いて倒れた。その事実を直視したらどうだ」
「誠也達は昨日まで意識不明だった!!なんでそんなに平気そうなんだ!」
「申し訳ないとは思わないの!?」
「俺の弁当を何故かあいつが食べていたからこんな目に遭ったわけで」
「なんで他人の弁当を食べてるのか俺にはさっ──ごふっ!」
務めて冷静に事実だけを並べたのにこんな簡単に暴力に訴えやがってっ!
会話を放棄してただ自分達の望む言葉を言わせたいだけの動物を人間とは呼ばない。
人語で人間をおびき寄せて食べる得体のしれない化物と変わらない。
もっと本質を見るべきだったんだ。白露と俺の間には言葉があった。分かり合えた。
こいつらと俺の間には言葉なんてない。そして、決して分かり合えない。
「謝れよっ!誠也にっ!!」
「ごほっごほっ……!ぐおっ!!」
「なんだよ!その目は!!反省が足りてねぇなぁっ!!」
「かはぁっ……!コヒューコヒュー……」
ご丁寧に服で隠れて見えないところばかり殴って。怒りを通り越して呆れる。
こんなのに将来日本経済を背負って立たせようとは……そろそろ日本も潮時か?
「……っ!」
「おっと……反省がたりないなぁ!」
「ごぽぉ!!」
「おいおい、こいつ結構持ってるぞ!」
「今日はこれくらいで勘弁してやるよ」
金と共に奴らは去っていった。朱に交われば赤くなるとは、まさにこの事。
もう予鈴が……トイレに……いや違う。授業を……これも違う。なんだっけ……?
「気を付け、礼!」
「「「さようなら〜」」」
「あ、独孤さん、ちょっと……」
「なんですか……」
最後の力を振り絞ってダッシュしようとした瞬間、教師に呼び止められた。
俺は今から白露の所に行ってイチャイチャしなきゃいけないんだ。邪魔すんなジジイ。
「後で校長室に来てください」
「……分かりました」
校長室……なんでそんなところに?呼ばれる理由なんて一つしかないか。
やれやれ。校長室に入ると、メンヘラと知らないおばさんが居た。
片方はブランド物か何か知らないがとにかく質感の良いもので身を包んでいる。
あのカスの母親だということはすぐに分かった。性根の腐った匂いがする。
どうやら、金があっても人間性が買えないところとか特によく似ている。
やっぱり性根の腐ったカスは性根の腐ったカスしか生み出さないみたいだな。
「揃いましたか。それで──」
「私の息子がその子の弁当を食べて倒れてるんですよ!!」
「いえ、ですから今からその話し合いをですね──」
「因果関係はっきりしてるんですから!!無駄ですよ!」
もし俺が毒を仕込んでいたのを認めたら自分達の首を絞めるのが分からないのか?
普通自分が食べる弁当に毒なんて仕込んだら自分が死ぬ。何もなければ。
毒を仕込んだという事実からは、日常的に弁当が奪われていた真実が類推される。
つまり、“勝ったな風呂入ってくる”ということだ。
さぁて、ドヤ顔キモキモムーブで鬱憤を晴らさせてもらうとしよう。
「いいですか?」
「あぁ、お願いします」
「そもそも、私がどうして弁当に毒を仕込む必要があるのか?それについて考えると私が件の彼等と揉めている、ということに行き着きますね。ではなぜ自分の弁当に毒を仕込む必要があるでしょうか。毒物を手に入れられるのであれば、もっと別の場所に仕掛けるのではありませんか?その場合でも弁当に入れる場合でも毒物は無味無臭無色が望ましいですね。まぁ彼等の机に毒物を塗りたくり毒物の付着した手で目を掻くのを待つなり、もっとスマートな方法があります。それをしないということは私が弁当を彼らに食べられるという確信を持っていること必用があります。そうした事を踏まえると今回弁当を食べて彼等が倒れたという事実を見たときに面白い可能性が浮かび上がってきます。そう、彼等が私の弁当を奪っていたという事実が。まぁ、何にせよスマートではありませんよね。毒物を自由に手に入れられるなら何か他の方法を取りますよ。それに、私が毒物を仕掛けたとも限りません。弁当なんて誰でも触れますから……警察の方からそういった指摘があったのでこういった場を設けたんですよね?」
「ええ……概ね間違いありませんよ」
ん気持ぢいぃぃぃいぃぃぃぃいぃぃぃい!!
鬱憤晴らすならやっぱドヤ顔で理屈こねくり回すのが1番だ。
「独孤さんのお母様も毒物に心当たりはありませんよね」
校長のパスが光る。んほぉおぉお!タイミング良すぎっ、ジジイなんて言ってごめん!
「明確な証拠がないんですよね?なら私が毒物を入れた事にはならないでしょう」
どうして即座に否定しない。やっぱりこいつが俺の弁当に何か入れたんだ。
ずっと機嫌を取ってなかったからだ。やっぱり自分の思い通りに育たなかった息子を処分しようとしたんだ。
やっぱりこいつのいるあの場所は、俺が帰るべき“家”なんかじゃなかったんだ。
「いいえ!違います!!息子の話では彼は息子達の根も葉もない噂を流し」
「悪評を流布していた!そんな彼の言い分など信用出来るものではありませんよ!!」
「そうですよ!息子達は彼とは仲良くしていたそうじゃないですか!被害妄想です!!」
「はい、ですので……問題を公にしない代わりに謝罪と賠償という形で……」
なんだと?おいおいおい、事実があるんだぞ!警察も太鼓判押してるんだぞ?
それを謝罪と賠償だと!?!馬鹿にするなよ!筋が滅茶苦茶だ!!ふざけるなよ!
いくらあのカスの実家が太いからか!?だからこんな事がまかり通るっていうのか!!
チッ!こうなればあのメンヘラを焚き──
「分かりました」
は?……は?そんな馬鹿な!こんな滅茶苦茶、数万出すだけで全部論破できるんだぞ!
裁判すれば確実に勝てる!警察も俺がやったなんて言えないんだ!あの警察が!!
「っ……」
平手で打たれた。信じられない……いや俺を処分したかったんだ。こうもなろう。
その後の事はよく覚えていない。
とりあえず謝ったが、あのカス共が何か喚いていた気がする。気が付いたら家に居た。
これで確信した。あのメンヘラは俺を処分しようとしている。
昨日、今日と不穏なムーブをかましてた理由がわかった。
「何か言いなさいよ」
「……」
「言いなさいっていってるでしょ!!」
取り敢えず落ち着いたメンヘラが出した飯を食ったが……駄目だった。
吐き気が抑えられない。吐き気を抑えてなんとかトイレまで行き──
──吐く。
そのまま自分の部屋に籠る。自分のスマホと手持ちのもの以外は持ち込めなかった。
が、手持ちのものさえあれば明日まで篭もれる。
「はぁ……はぁ……」
吐き気が収まらない。便意ッ!凄まじい下り龍がッ!尿意も止まらないっ!
喉が渇いた。地面が沈んでいく。
『好き♡好き♡会えない時間はずっと君の事考えてる。何してるのかな?とか、今寂しくないかな?とか、辛い思いしてないかな?とか、会いたいなとか……君はどうかな?私のこと考えてるかな?好き……大好き。だいすき!だーいすきっ!!大好きだよ』
顔を布で覆って白露の動画を見ていたら落ち着いてきた。
白露のおかげで今日も生きていられる。も──う何──も怖──
次は1週間後です。




