ニナ・フランデル
『一角獣の進撃作戦』
魔王軍の強襲により下がった兵達の士気を再び上げる為、勝利をもたらす聖獣として名高いユニコーンの名を入れた本作戦は、ユステス将軍達が本隊周辺の敵を殲滅した今を好機とし、有志の兵30名による小隊が突撃して切り開いた敵陣および門への道を通り、本隊が進撃する電撃作戦である。
本隊が拠点にしている現在地から魔界の門まで20km程度の距離である事、魔物達を誘き寄せる為に利用した『火守の血』を封印した為、魔王軍の数が激減した事などが今回の作戦を実行可能にさせた。
なお、一般兵は火守の血の存在を知らない為、魔王軍の激減の要因はユステス将軍達のおかげだと認識しており、先行して突撃する有志の小隊内に将軍の近衛騎士が数名いる事から、自分達の勝利の兆しがみえ、士気も大いに盛り返していた。
ただ、彼らは知らない。
有志とは名ばかりで、近衛騎士を含んだそのほとんどが強制的に集められた者達であった事を。
レオフォード第一王子から、魔王軍、そして、魔界の門への一番槍を命じられた有志小隊は作戦開始までの僅かな時間を使って最終確認を行っていた。
作戦自体は非常にシンプルで、小隊が突撃してから30分後にレオフォード率いる本隊が突撃するというものである。
緻密さよりも速度が優先される為、聖獣に騎乗できるアリスおよび優太が先頭に立ち、近衛騎士、一般兵の順に隊列を組むよう決められており、また、それぞれの役割についても、アリス達は最深部である門までの突入、近衛騎士はその露払いと強敵の排除、一般兵は周囲の雑魚の掃討と宛てがわれた。
最終確認を終えた後、彼らの反応は様々であった。
何故自分がと嘆く者や悪態をつく者、諦めて自身の装備を確認する者、一泡吹かせようと意気揚々とする者。
ただ、敵前逃亡や上官に逆らい、この小隊に入る事を強いられた者達が多い為、全体的に悲観的な雰囲気であった。
そんな中、明るく優太に話し掛ける者がいた。
「初めまして!ニナ・フランデルっス!わー、アリスティア王女殿下の騎士ってお聞きしたから、熟練の騎士様を想像してたんスけど、同い年っぽいっスねえ!」
「あ 、はい・・・あ、私は雪城優太です。騎士には最近なったばかりで・・・なんかすみませ・・・ん?」
「いやいやいや!こちらこそ騎士様に大変失礼な発言をしてしまい申し訳ないです!あ、あと、騎士様は上官に当たるので敬語は使わないで欲しいっス!・・・けど、どうしました?私の顔に何か付いてるっスか?」
あまりの勢いに気圧された優太は何故か謝罪し、謝罪を受けた側も慌てて謝罪返しするという謎時間が発生する。
元気良く優太に話しかけたニナは軍服に身を包んだ少女であり、勝ち気な瞳とポニーテールで活発な印象を与える。
ただ、優太はそれとは別に、初対面であるはずの彼女の顔と人懐っこさに何故か懐かしさを覚えた。
そのせいかニナを凝視してしまい、彼女に問われて慌てて我に返る。
「い、いや、初対面なのに初めましてじゃない感じがして・・・」
彼女と初対面である事は間違いない。
懐かしさを感じたのは彼女の顔や雰囲気、喋り方が誰かに似ていたからだ。
しかし、似ている誰かは今まで実際に会った人ではない気がする。
それより朧気な、例えばテレビや映画、または夢の中で見たようなーー
「よく言われるっスよ!顔が似てるらしいっスから!」
そんな優太の発言や様子を気にした様子もなく、ニナは溌剌と少し誇らしげに答えた。
「嘘か本当かは分からないっスけど、実は私の家のご先祖様が白騎士と一緒に戦った七英雄の一人だったらしいんスよ!」
「っ!」
言われて優太は気付く。
先日見た夢の中でその人物と出会った事を。
少女の顔や雰囲気、喋り方に彼の面影がある事を。
「ダン・オーリス・・・」
「そうっス!まあ、私の家系の顔が彼の肖像画に似ているから、昔から勝手にそう言ってるだけかもしれないっスけど」
家名も違いますし確固たる証拠もないっスけどね。
少し恥ずかしそうにニナは言う。
だが、優太は少女がダン・オーリスの子孫だと確信した。
「確かに証拠はないかもしれませんけど、彼が先祖だと代々伝え続けているなら、それが真実なのでしょう」
白騎士の記憶の夢の事を言えず、曖昧な肯定しかできなかったが、ニナは少し瞳を揺るがした後、照れ笑いを浮かべて礼を言った。
「ありがとうございますっス!」
「それでニナさんはどうして俺に声をかけに?あ、それに俺も新米の騎士ですし、今は作戦中でないので畏まらなくて大丈夫です」
優太の方も落ち着いたので、素朴な疑問を口にする。
ついでに、ニナに対して言動を改めないように促す。
彼女が持つ懐かしい雰囲気や話し方で、作戦前の緊張を和らげたかった。
「分かりましたっス!あ、でも、騎士様は本当に敬語止めてくださいね。軍規的に怒られてしまうっスから。いやー、私もこう見えて緊張してまして。もうじき作戦が始まるので、白騎士様の姿を見て安心しようと思ったっスよ」
「あ、ぐ・・・分かりま、分かった。俺の鎧姿を見たのか?それは・・・すまん。鎧の中身が頼りない姿で安心させる事ができなくて・・・」
彼女の期待に応えられなかったと優太は申し訳ない気持ちになる。
だが、ニナはガッカリとは程遠い、明るい笑顔で優太の言葉を否定した。
「いえ!逆に安心したっス!広場で白騎士様の姿を見た時、ご先祖様の事もあって運命を感じて、この作戦に参加したっスけど、熟練の怖い騎士様だったらどうしようと不安だったっスよ。ご先祖様は本当に七英雄だったか分からないですし、思い上がりで参加した上に足でまといにならないかと。でも、騎士様は同い年で物腰柔らかく、私のご先祖様も肯定してくれた。不安を吹き飛ばすには十分っス!後はこれまで訓練でつけた力を発揮して、騎士様達と一緒に新しい伝説を作るだけっス!」
その晴れ晴れとした笑顔と言葉は優太の申し訳なさを払拭させ、やる気を溢れさせるに十分であった。
だが、本来であれば白騎士の、その手の話にすぐ乗ってくるはずの者にはまだ届いていない。
「わらわのせいで・・・優太、皆の者・・・すまぬ」
鎮痛な面持ちでその者、アリスが謝ったのはその時であった。




