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異世界姫滞在記  作者: いぬがさき
第7章 開戦

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光差す方へ

「アリス?」


優太が声がした方を見やると、そこには涙で瞳を濡らしたアリスの姿があった。


「すまぬ、優太。すまぬ、皆の者・・・」


まるでこの世の終わりがきたとばかりに、彼女の顔には絶望の色が浮かび、溢れた涙が頬を伝って落ちていく。

リリは主人アリスの気持ちを慮ってか、何も言わずに寄り添うのみであった。

ただ、どこか誰かの声を期待しているように見えるのは気のせいだろうか。



「どうしたんだ?落ち着いてーー」


「落ち着いてなどいられぬ・・・!わらわのせいで!わらわのせいで皆が使い捨ての駒にされるのじゃ!わらわが・・・わらわがそなたらを殺したに等しい!謝っても謝りきれぬし、悔やんでも悔やみきれぬ・・・!」


自責の念に駆られるアリスは次々と流れ出る涙を手で繰り返しぬぐい、何度もしゃくりあげる。

彼女の様子をみていた周囲から徐々に静まり始め、やがて室内全体が静まりかえって、アリスの嗚咽だけが響くようになった。


その場全員が注目している中、優太は彼女を落ち着かせる為に少し間を置いて、言い聞かせるように努めてゆっくりとなだめる。


「あのな?あの王子の命令なんだし、お前のせいじゃないだろう?少なくても俺はそう思ってるよ。それに、まだ死ぬと決まった訳じゃないだろ」


「・・・そうじゃが、こんな作戦など命を捨ててこいと言われておるようなもの・・・わらわが下した判断が招いた結果ゆえ、わらわが責任をとるのは当然だと思っておる・・・じゃが、そなたらは?何故、何の責任もないそなたらも死地に向かわなければならぬ?命を散らさねばならぬ?それなのに・・・わらわのせいなのに・・・わらわではどうしようもできぬ・・・」


「・・・」


アリスは涙しながら嘆く。

元より持ち場を離れた時から、命令違反により自身が処罰される事は覚悟の上であったし、友である灯音を救う為だから後悔もしていない。

それに、この姿勢こそが自分が目指す立派な王女の姿なのだと胸を張って言える。


しかし一方で、優太をはじめ、この場にいる全員を巻き込んでしまった。


彼らを戦場の最前線、死地へ送る事になってしまった。


大切な人を救う為に行動した事で、多くの者を犠牲にしてしまう。


立派な王女を貫く。

そんな我儘のせいで。


思考が闇に囚われ、アリスは自分を責め立てる。



わらわに権力があれば、誰もが認める王女であったらこうはならなかったのかもしれない。


わらわが王女もどきでなかったら・・・



「アリス、それは違う」


アリスの心が更に闇の奥へと沈み込もうとした時、力強い否定の声が彼女の心を無理やり引っ張り上げた。

弾かれたようにアリスが顔を上げると、そこには声の主である優太が優しい笑顔を向けていた。


「・・・優太?」



これから死ぬというのになぜそのような顔をしていられる?

なぜ元凶であるわらわにそのような顔を向ける?


そんな負の言葉が口からこぼれそうになるが、それより先に発した優太の言葉が栓をする。


「確かにこの作戦はとても危険で死ぬ可能性が高いし、正直に言うと死ぬのは怖い。でも、それは今回だけじゃない。シュードイラ達やゴブリン、オーク、魔王崇拝教幹部オルガと戦った時もだった。死ぬのが、戦うのが怖かった・・・でもな、その度に死ぬ恐怖に、戦う恐怖に、そして、敵に打ち勝ってきた。いや、打ち勝ってこれたんだ。それはな、アリスのおかげなんだ」


「わらわのおかげ・・・?」


「そうだ。アリスと出会えたから、俺を友達に、そして、騎士にしてくれたから、強くなる理由、戦う理由、そして、戦う力を手に入れられたんだ」


「そのようなこと・・・そもそも、わらわと出会わなければこのような危険な目に・・・」


「俺が正義のヒーローを目指している事は知ってるだろ?だから言っておくが、アリスと出会えてなくてもきっといろんな事件に首を突っ込んでたぞ。そして・・・無駄死にしていただろう」


「優太・・・」


冗談めかして言ったが、それは優太の本心でもあった。

そして、アリスもそれが彼の本心だと察し、何も言えなくなる。


「だからな、アリス。感謝こそすれ、俺がアリスを恨むなんて事は絶対にない。俺はアリスと出会えて、友達に、騎士になれて良かった。それらの事に後悔なんてない。今までもこれからもだ」


「優太、優太ぁ・・・」


優太の力強くも優しい表情が、声が、闇に囚われたアリスの心を光指す方へと導く。


「っ!そ、それにだな!過去の事なんて今更どうする事もできないし、俺達のこれからやる事も決まってるんだ。だったら、アリスの、立派な王女の今やる事は悲観する事じゃないだろ?」


アリスから向けられる表情に、照れ臭くなった優太は、少し無愛想に、だが優しく助言する。


「作戦を成功させる為にも、俺達の士気が上がるよう鼓舞してくれ。俺の自慢のお姫様」


「優太・・・うん!」


優太の言葉を噛み締めたアリスは、絶望を拭い去り、光溢れる未来を得るため力強く頷いた。


アリスを覆っていた冷たく暗い雰囲気は消え、優しく暖かい雰囲気が2人を包む。


「んんっ、あ、あのー・・・イチャイチャするのは良いっスけど、もう少しで作戦開始だそうっス・・・」


「「っ!?」」


だが、それもつかの間。


咳払いと共に気まず気に2人の間へ割って入ったニナの報告によって霧散した。

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