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異世界姫滞在記  作者: いぬがさき
第7章 開戦

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作戦開始

その日、天気予報では全国的に快晴であった。


しかし、盾上市の空は厚い雲に覆われており、ほとんど日の光が入らず、朝であるはずなのに日没直前だと錯覚するほどに暗い。


「これも魔界の門が開いている影響なのか?」


「おそらくはな。魔界は闇の世界だといわれておる。魔王軍の先遣隊が越界した時に、魔界の魔力が洩れたのじゃろう。」


アリスはそう答えて、遠方にある更に濃い雲を睨む。


おそらくその真下に魔界の門があるのだろう。


(アリス様。ここら一帯に魔物どもの気配はありません。)


(右に同じ!)


その時、周囲を探索していたリリとミーシャの念話が届いた。


「了解じゃ。わらわ達の鎧も同じ結果じゃ。優太はどうじゃ?」


「俺もだ。」


「分かった。この場は大丈夫じゃな。それでは移動を開始するぞ。」


現在、優太達がいるのは馴染みの古い剣道場であった。


盾上市は4つの町から成り立っており、東に火守神社有する『護角ごかど町』、南に優太達が通う白蹄高校がある『白蹄はくてい町』、北に星涙湖を有しており市の中心でもある『盾上たてがみ町』、そして、西に優太の家がある『優尾ゆうび町』が位置している。


優太達は優尾町から、策敵を行いながら魔界の門があるとされる盾上町へと北上する手筈になっている。


ちなみに本隊は護角町に陣取っており、魔王軍の斥候や先遣隊を屠る包囲網がある程度狭まると、魔界の門へと突撃を開始する予定である。


その包囲網に抜けがないよう、各町に複数の包囲隊が配置されているらしいが、現在のところ他の者と顔を合わせる機会はない。


「ああ、了解。」


遭遇した魔物に対応できるよう、既に白い鎧に身を包んでいる優太は、鎧を通じて聞こえるアリスの指示に応えて北上を開始した。


(先輩からの連絡はないけど、きっと大丈夫だろう。)


優太は灯音からの連絡がない事に少し不安を感じていたが、両親や調査団の護衛がいるからきっと無事に避難しただろうと自身に言い聞かせて、策敵の方へと意識を向ける。


一匹の取りこぼしもないよう、優太とアリス、リリはお互いに距離を離して地上の策敵を行い、ミーシャが上空から全体を見守る形となっていた。


自衛隊や警察が陣取るバリケードから距離がある為、優太達の姿を目撃される可能性は低いが、ミーシャについては空を翔んでおり目立つおそれがあるので、光を屈折させて姿を消すよう指示してある。



張りつめた緊張で精神が少しずつ削られること数分。


ー 敵性生物感知。 ー


「来たか!」


突如、優太の鎧が人工音声で警告を発した。


(私も確認できたよ!相手はゴブリン1匹、こっちにはまだ気付いてないみたい。建物の向こう側にいるみたいだから気を付けてね!)


「了解。奇襲する。」


「優太。1人で大丈夫か?」


「ああ、正面からいかなければ大丈夫だ。それにミーシャの援護もある。アリス達はそれぞれの警戒を続けてくれ。」


(ユータ様、御気を付けて。)


シンシアの策敵結果をミーシャが裏付け、相手がまだ気付いていないとの情報から、優太は不意を突く事に決める。


民家を挟んだ反対側の通りにいるらしく、優太は民家の角からそっと顔を覗かせゴブリンの姿を確認した。


ー ぐちゃ、ぐちゃ、ゴリ。 ー


ゴブリンは優太の方に背を向けて路上にしゃがみ込んでおり、何かを咀嚼しているようであった。


その行動や姿に怒りが込み上げてきたが、努めて冷静になるよう怒りを抑え、聞こえてくる不快な咀嚼音に兜の中で顔をしかめながら、一歩、二歩と速度を早めながら近づき、そして、一気に駆け出す。


ー ヒュンッ! ー


ー ブシュゥ・・・ ー


走り込んだ勢いを乗せて放った一撃は、なお食事に夢中になっているゴブリンの頭と胴体を分断し、その生命を奪い取った。


跳ねたゴブリンの頭部を見やると、自分が絶命した事に気付いていないような表情を浮かべており、口には血にまみれた動物の足が咥えられていた。


「う・・・」


その光景に胃から朝食がせり上がってきたが、優太は何とかこらえて胃に戻す。


魔界の門まではまだまだ遠く、こんな所で立ち止まっていては永遠にたどり着けない。


こんなのはまだ序の口だ。人でなかっただけでも幸運だと思え。


自分自身にそう言い聞かせて、アリスやリリの気遣いと労いの声に応えながら、策敵を再開する。


その後も斥候とおぼしきゴブリンに複数回遭遇し、アリスやリリ、優太、ミーシャがそれぞれ撃破した。


魔物との戦闘に慣れていなかった優太も、数体討った頃には正面からや複数匹相手でなければ、余裕を持って立ち回れるようになっていた。


アリス達は順調に北上し、盾上町まであと少しという地点まで迫っていた。


「・・・おかしい。」


策敵を続けながら、アリスは疑問を呟く。


「わらわ達はまだゴブリンにしか遭遇しておらぬ。しかも想定より数が少ない。」


「それはたまたまじゃないのか?俺達の他にも包囲隊はいるんだろう?」


「そうなのじゃが何か違和感があってな。・・・リリ、広範囲の音を探っておくれ。」


(分かりました。)


アリスの指示を受け、リリは耳をはためかせて音を拾いながら報告する。


(各箇所から戦闘音は聞こえてきますが軽いですね。おそらく他の者達が戦っている相手もゴブリン達でしょう。ただーー)


ー ドゴォオオオオン! ー


その時、護角町の方角から凄まじい爆発音が鳴り響いた。


「何だ!?」


優太達のいる地点まで衝撃が伝わり地面が揺れる。


(報告。魔王崇拝教幹部が待機中の本隊へ強襲。被害多数。周囲の包囲隊は至急援護に向かうようお願い致します。繰り返し報告。ーー)


直後、アースラから緊急の念話が届く。


報告では、待機中の本隊が突如現れた魔王崇拝教幹部第9位の強襲を受け、混乱で足並みが乱れたところに、魔王軍の先遣隊が雪崩れ込むように攻めてきたとあった。


隊は崩壊はしていないものの、被害がそれなりに出ており、立て直しをはかる為、救援要請をしたらしい。


また、魔物の数が予測以上に多く、ゴブリンはもちろん、オークや犬頭の怪物コボルト、更には鋭い牙を持つサイのような大型の怪物グランデシアの姿が確認されていた。


「9位といえばユーリだな。どうする?俺達も行くか?」


「わらわ達の担当は優尾町じゃ。それに本隊を叩く事で助けを呼ばせ、包囲網に穴を空ける算段かもしれぬ。」


現在の状況に違和感を抱えながら、作戦続行を決めたアリスであったが、続く優太の言葉で考えを一変した。


「確かに陽動の可能性もあるが、1つ気になる事があってな。実は今朝から先輩と連絡が取れてないんだ。」


「灯音とか?それが・・・あ!もしや!?」


灯音と連絡が取れない事と現状との関係について、一瞬アリスの頭に疑問が浮かんだが、彼女の、火守の特別な血の事を思い出して驚愕する。


「まさか灯音が本隊近くに・・・!?」


「可能性がないとも言えない。」


本隊が待機しているのは護角町であり、そこには灯音の家がある。


火守の血は魔物達を惹き付ける。


もし、何かの理由で灯音が本隊近くにいた場合、血を求めた魔物がこぞって集中するのもおかしくない。


市内に散開している魔物の数が少ない理由も納得できる。


これが違和感の正体か。


迷いは一瞬で、すぐにアリスは決断する。


「陽動の可能性もある。そうであった場合、援護に回り包囲網に穴を空けた罪は重い。」


本隊の周囲とは言い難い位置にいるアリス達が担当エリアから離れる事は、たとえ援護の為とはいえ命令違反である。


更に、包囲網に穴を空けた事が原因で甚大な被害が出れば、軍法会議にかけられ厳罰に処される事は免れない。


それでもーー


「じゃが、友である灯音があの場にいる可能性が僅かでもあるならば、わらわは助けに行く。」


友達の危機を見過ごす訳にはいかない。


「念の為、広範囲の策敵を行い魔物がおらぬ事を確認してから救援に向かう。責任はわらわが負う。

皆のもの、本隊ではなく灯音を救うつもりで剣を取れ!」


「ああ!」


(仰せのままに。)


(りょーかい!)


アリスの決断に反対する者はおらず、包囲隊アリス班は本隊の救援へ向かう事となった。

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