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異世界姫滞在記  作者: いぬがさき
第7章 開戦

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出陣

休みが延長になる?なぜ?



そんな疑問を優太が口にする前に、リリはおもむろに今まで消えていたテレビの電源を点けた。


映し出された番組は、どうやら緊急のライブ中継をおこなっているようで、道路上にバリケードが張られ封鎖されている映像や、大勢の人が集団で避難する様子、また、規制テープを越えようとする報道陣と警察との小競り合いの映像が流れている。



「これは・・・!」



始めは映像をポカンと眺めていた優太であったが、画面上の字幕に地域名などが表示されると、一転して驚愕の表情となった。



『盾上市で無差別テロ発生!』


画面端にはそう表示されており



「昨夜の無差別テロ攻撃から一夜経ちましたが、今のところ新たなテロ攻撃が起きたという情報は入っていません。しかし、いつ再びテロ攻撃が起こるか分からない状況の為、警察と自衛隊が協力して、現在も市民の方の避難誘導やテロへの警戒にあたっております」



リポーターが緊迫した表情で、カメラに向けて言葉を発していた。


また、避難してきた市民へのインタビューの中で、昨夜、遠くの方で光の柱が見えて何事かと驚いたが、更に早朝から警察やら自衛隊やらが来て、有無を言わさず避難しろと言われて困惑していると答えた者もいた。



「日本政府はテロ攻撃が起きたと発表していますが、知っての通り、この騒動の要因は魔王崇拝教との戦いによるものです」



テロ組織による攻撃という意味では、あながち間違いではないですけどね。


リリは真剣な表情で呟き、優太達が寝ている間に入手した情報を説明した。


情報源はウェストンの使い魔であるアースラであり、信者達との戦闘準備で忙しい主人に代わり、また、休息をとっているアリス達を考慮して、同じく使い魔であるリリへ情報提供、そして今後の指示を出したそうだ。



調査団が掴んでいる情報によると、昨夜出現した紫色の光柱は、魔界の門を開くための大規模な儀式魔法であり、術式範囲内の生命を奪って開門のエネルギーへと変換するたちの悪いものである事が分かった。


魔法は信者達の拠点とされてた場所を中心に、時限式で設置されており、幹部オルガの捕縛に向かった者達のうち、少なくない数の犠牲者が出たらしい。


更に、運悪く術式の範囲内に住んでいた周辺住民も巻き添えをくらい、一瞬にして数十単位の命が消えたとの事であった。



ただ、魔王崇拝教側が期待していたより犠牲者いけにえの数が少なかったらしく、魔界の門が全開になる事はなかった。


それでも、門の4分の1程が開き、魔界側から斥候よりも強力な魔王軍の先遣隊の越界を許してしまった。



なお、魔王崇拝教が関与する事件において、今までも一般人に被害が出る事はあったが、その度に日本政府は隠蔽してきたらしい。


しかし、今回のような大人数の犠牲者が出た事件は初めてであり、また、目撃者も多数いる事から、隠蔽する事が極めて難しいと判断し、テロリストによる無差別攻撃という半偽ハーフフェイク情報で公表するに至った。



(一般人の犠牲者が数十人、いや、それよりも前から・・・)



優太の顔が悔しさで歪む。


正義の味方を志してきた彼にとって、許しがたい事実であり、また、己の無力さをはっきりと見せつけられる事となった。



(何が正義の味方になりたいだ。何が多くの人を助けたいだ。その場にもいなかったくせに。あの時、ユーリをすぐに倒して現場に向かっていれば、魔王信者の拠点へ行ってれば・・・)



優太の思考は沈み、己を責め立てる。


感情も底深くまで沈みゆく。



しかしーー



「驕るな優太」



奈落へと落ちていく優太の感情は、アリスの厳しい言葉に抱き抱えられ、再び光が指す方へと浮上する事となった。



「わらわから言わせれば、そなたも少しばかり力を持ったただの一般人じゃ。正義の味方に憧れるのは自由じゃが、己の力を弁えよ。幹部第9位のユーリに歯が立たなかったそなたが、光柱の場所へと向かっていたとしても、他の幹部に敗北していただけじゃ。そんなそなたが自身を責め立てるなどおこがましいわ」



彼女が優太へかけた言葉は辛辣極まりない。



しかし、それは彼をけなそうとしている訳でなく、むしろ優しさが添えられていた。



「責められるべきは、わらわ達セラフィリアス王国の者や日本政府じゃ。わらわ達には力がある。しかし、止められなかった」



アリスは静かに、しかし、悔しさを滲ませて言葉を続ける。


立派な王女を目指す彼女もまた、無力な自分を許せなかった。



だが、彼女は沈まない。



「じゃから、責任はわらわ達が負う。責任を持って、これ以上の犠牲を出さぬ為に魔界の門を潰す。魔王崇拝教を潰す」



自分を責め立てるのは全てを終わらせからじゃ。


はっきりと宣言したアリスの表情は凛としており、とても美しかった。



優太は彼女を眩しげに見やると、自分自身に喝を入れる。



確かに自分は力を手に入れてから、少しばかり思い上がっていたのかもしれない。


そして、失敗して、投げ出しかけた。


心が折れかけた。


それこそ正義の味方としてあるまじきこと。


正義の味方に必要なのは何か?


それはーー



「ありがとう、アリス。目が覚めた」


「ふふん、よーく効いたじゃろ?」


「ああ」



優太の表情から影は消え、代わりにやる気に満ちた顔になる。



「俺も戦う。これ以上の犠牲者を出さない為に」


「良いのか?これまで以上に死に近付くぞ?」


「もう覚悟は決まっているし、死の危険は魔王崇拝教と魔王軍がいる限りどこにいようと変わりないだろ。それにーー」



彼はそこで区切り、表情を崩して優しく微笑んだ。



「俺はアリスの騎士だ。自分の大切なお姫様が戦いに行くのに、主人を放って逃げ出す騎士がどこにいるんだ」


「た、大切なお姫さままま!?」



お姫様と呼ばれたアリスは照れに照れて狼狽する。


優太はそんな彼女の様子を見て、まだその呼ばれ方に馴れてないのか?だとか、そんなに照れられたら言う方も恥ずかしいじゃないか。など、言いたい事はあったが、傍にいたリリとミーシャが



「ミーシャちゃん、驚きですがユータ様のあの言葉と表情は無自覚らしいですよ」


「へえええ、なるほどー。パパってタラシなんだ」



とヒソヒソ話している内容の一部が聞こえ、閉口せざるを得なかった。



しばらくして落ち着いたアリスは、真剣な表情に切り替えてリリに訊ねる。



「それでは参戦するにあたり、これから何をするのかじゃ。リリ、ウェストン殿からの指示は?」



腹が減っては戦は出来ぬというアリスの号令の下、全員で朝食を食べながらの作戦会議が行われた。


その際、アリスにミーシャを紹介したところ、『ミーシャ』という名前に彼女も引っ掛かりを見せたが、会議を優先させてか結局核心的な疑問を口にする事はなく、そのまま会議は進められた。



「はい、指示された内容と作戦は単純です。今までの指令は魔王崇拝教幹部の捕縛でしたが、これからは、魔王崇拝教および魔王軍の討伐、魔界の門の破壊もしくは封印となっております」



実質、小規模な戦争ですね。


その言葉に優太はごくりと喉を鳴らす。



「それで、作戦はどうなっておる?」


「本隊と包囲隊に分かれ、本隊は正面から魔王軍を相手取りつつ門へと進み、破壊を試みます。包囲隊は名前の如く、封鎖されている市内を包囲して、潜んでいる斥候および先遣隊を探して討つ役目です。また、包囲網を徐々に狭めていき、魔王軍に圧をかけ、本隊の正面突破の援護をする役割もあります」


「なるほど。確かに単純じゃ。ちなみにわらわ達はどちらの隊に所属する事になっておる?」


「包囲隊です。足並みを揃えなくてはならない本隊は、調査団と急遽派遣された王国軍が担い、それ以外の者は包囲隊へと所属する形になっています」


「なんと!王国軍が来ておるのか!?」


「先遣隊といえど魔王軍ですし、下手をすると魔界の門が更に開いて、向こうの本隊が越界する可能性もあるので、時間との戦いでもあるのでしょう」


「そうじゃな。それに魔王軍との戦闘経験を積む機会にもなるしの」


「クリシュナの地にも封印された魔界の門があるという噂ですしね。ちなみに作戦開始時刻は8時30分です。その頃には、全市民の避難が完了している予定です」


「集合場所は?」


「包囲隊は個別行動となるので、全体集合はなく担当場所からの開始となります」


「状況はどうやって確認するのじゃ?」


「戦況分析班が随時状況と指示を伝達されます」


「ふむ。一般人を避難させた後は1分1秒でも時間が惜しいのじゃな。相分かった。わらわ達も朝食の後、素早く準備を済ませて指定された場所へ向かおう」



昼食を済ませた後、優太が準備を行っていると、スマートフォンに海外にいる家族から心配している旨のメッセージが届いた。


海外でも今回の事件がニュースに取り上げられているそうだ。


彼は手を止めて少し考えた後、大丈夫。とだけ返信し、再び準備に戻った。



家族の心配を無下に、安全とは正反対の戦地へと向かう事には後ろめたさがあるが、それ以上に魔界の門を放っておけなかったのだ。


それに、優太はユーリ達との戦い後に感じた殺気まみれの視線と声が気になっていた。


今思えば門の向こうにある魔界から放たれたものかもしれない。


だとすれば、アレを放った者を越界させたら盾上市は終わりだと、優太の本能が警鐘を鳴らしていた。



「ごめん、みんな。放っておけない奴がいるから・・・俺は行くよ」



誰かに聞かせる訳でもなく呟くように謝り、部屋を後にする。


玄関を出ると既にアリス、雪華狼姿のリリ、そして天馬姿のミーシャが揃っていた。



リリの背中にアリスが、ミーシャの背中に優太が騎乗する。



「良いか皆の者。わらわ達はこれから魔王崇拝教および魔王軍との戦争に包囲隊として参戦する。本隊より危険は少ないが決して油断はするでないぞ。わらわ達が討ち洩らしてしまえば、戦禍が広がり被害が増えてしまう事を努々《ゆめゆめ》忘れるでない。

特に魔物達には慈悲の心がないゆえ、敗ければ地獄じゃ。じゃから、こちらも一切の慈悲を持つな、躊躇うな」



アリスの戦いの前の言葉を、優太は御守シンシアりを握りしめながら聞いた。



「それでは征こう。この世界の未来の為に」


「((おお!))」



こうして、彼女の号令で士気を上げた一向は、担当の戦場へと出陣した。

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