友の為に
作戦指揮本部へ本隊の救援へ向かうと一方的に通信を入れた後、アリスと優太はそれぞれリリとミーシャに騎乗し、護角町がある東へと向かった。
ミーシャは不可視の魔法を解き、翼を折りたたんだ状態で地上を駆ける。
空中移動だと目立ってしまい、敵から集中攻撃を受けるおそれがあるからだ。
地上を疾走するミーシャは、塀や川を飛び越え、時には民家の屋根伝いに移動し、翼が使えないハンデをものともせず、力強い走りをみせる。
リリとミーシャは、途中で遭遇したゴブリンやコボルトを轢き殺しながら、まるで矢のように、ほぼ一直線に街中を駆け抜けた。
2頭の驚異的な脚力により、ものの十数分で優太達は護角町へと突入する。
優太達は事前の打ち合わせで、本隊と交戦している魔王軍の側面から奇襲を掛ける事を決めていた。
本来なら敵軍の真後ろから、挟み撃ちとなる形で攻撃を仕掛けた方が効果的かもしれないが、万が一、更に後方から増援が来て逆に挟み撃ちにされた場合、生き残る可能性が0である事や、本隊の援護より灯音の存在、安否の確認を優先した為である。
護角町へ入った優太達は直線ではなく迂回する形で、本隊が待機していた場所である、かつて魔物と武士が戦ったとされる地、火守古戦場を目指した。
ー ドォオン! ー
ー キンキィイン!ガキィイイン! ー
戦場に近付くにつれ、爆発音や戦闘音が大きくなる。
「あと少しだ。」
大規模な戦闘を経験した事のない優太は緊張した声で呟く。
「大丈夫じゃ。きっと上手くいく。」
アリスも大規模戦闘を経験した事はないが、幼い頃からの鍛練において、立ち回り方等を叩き込まれていた為、優太よりは幾分落ち着いていた。
それに、今回の目的は奇襲からの灯音の救援である。
救援後は本隊に合流すれば良いし、味方も大勢いるので、窮地に陥る危険も低いはずだ。
そして何より、不安がっていたり弱気だと行動が消極的になり、失敗しやすくなってしまう。
その為、攻める時は自信を持って強気で積極的に行動する事が鉄則なのだ。
アリスの力強い言葉に安心した優太は、不安を振り払い、これからやるべき事に集中する。
「ゴォアアアアアア!」
その時、疾走する彼らの前に1匹のオークが姿を現し、行く手を阻むように立ちはだかった。
大猪の毛皮を被っているところは以前見たオークと同じであったが、目の前の個体は簡素なボロ布ではなく、粗悪ながらも鈍い輝きを放つ鎖鎧を身に付けていた。
胴体と腰を守る鎧の上から刃を通す事は容易ではなさそうだ。
オークは雄叫びを上げながら、丸太のように太い腕に持った巨大な破城槌を横にフルスイングする。
アリス達より先駆けていたミーシャと優太を狙った一撃であり、減速や停止、左右への回避も間に合わないタイミングであった。
「跳べ!」
(跳ぶよ!つかまって!)
迫りくるメイスの恐怖と圧力に負けじと優太はミーシャへ叫んで指示を出す。
彼女も同じ考えだったのか、優太の指示と重なりあうように念話を発して跳んだ。
ー ブォオオオオオン! ー
ミーシャが大地を蹴って跳んだ直後、メイスが彼女の後ろ足の下スレスレを、豪快な風切り音を伴って通過していった。
必殺の横薙ぎを避けたミーシャは、オークの頭部を前足で蹴り付け、更に跳ぶ。
「ゴォアア・・・」
頭部への強烈な一撃に、さすがのオークも苦痛で顔を歪め、うめき声を上げながらその場に片膝をついた。
「そのまま翔ぶのじゃ!目的地間近じゃから今更目立とうが関係あるまい!わらわ達もすぐ追い付く!」
「分かった!」
優太達より少し後方を駆けていたアリスからの指示で、ミーシャは翼を広げ空を駆けていく。
その間にもリリとアリスはオークとの距離を詰め、抜刀していた聖約武器を口内に捩じ込んだ。
「リリ!頼む!」
(はい!)
ー パキ、パキパキィ ー
アリスの手元を中心に魔方陣が展開し、リリは聖約武器を媒介にしてオークの内側へ冷気を送り込む。
先の戦いで、頑丈な肉体により外部からの攻撃が効きづらいオークへは、内部への攻撃が有効である事が分かっている。
リリの魔法は真銘解放より威力が劣っているものの、口内からはガラスにヒビが入るような甲高い音が鳴り続いており、肉体が着実に凍っていく事が窺えた。
やがてオークが絶命した事を確認してから、リリは魔法を止めアリスは剣を引き抜く。
初めて交戦した時は苦戦したオークも、対処法を身に付け、また、それを実行できる程の実力を手に入れた今となっては、必要以上に恐れる魔物ではなくなった。
「さあ、わらわ達も急ごう!」
(はい!)
自身の成長の余韻に浸る事もなく、アリスとリリは再び目的地へと駆けて行く。
そこにいるかもしれない友達を救う為に。
一方、火守灯音は優太達が危惧した通り、火守古戦場で交戦している本隊の更に後方、作戦指揮本部付近にいた。
幼い頃から続けている朝稽古の最中に、セラフィリアス王国第一王子の部下を名乗る男に半ば強制的に連れられてきたのだ。
火守の家系は全員が特別な血を有するが、濃薄の差はあり、灯音以外の家族は全員が薄く、結果、彼女だけが選ばれた。
ウェストンの部下が灯音の護衛を務めていたが 、王子の命令により護衛の任を解かれ、今は王子の部下が彼女に付き添っている。
しかし、それは護衛というより監視の意味合いが強い。
ー ドォオン! ー
爆発が起こる度に、人間が、魔物が、またはそれらの肉片が宙に舞い、剣撃、銃撃、魔法、人間と魔物の怒号や悲鳴が響き渡る。
巫女姿の灯音は、せり上がってくる嘔吐感と恐怖に抗いながら、前方の本隊と魔物との戦いをじっと見据えていた。
彼女の右手には血の滲んだ包帯が巻かれている。
王子の命令により、星涙湖公園でギブネット兄弟がした行為を部下が再び実行したのだ。
本隊長であり、この戦いの総指揮官である第一王子は、実力は確かだが傲慢で自信家であった。
灯音の件も、自身の功績を上げて名声を得る為、必要以上に多くの魔物を引き寄せた上で本作戦を成功させようとする我欲からきている。
しかし、その目論見は外れ、魔王崇拝教幹部の強襲という想定外の攻撃を受け、更に彼が想定していた以上の数の魔物が押し寄せてきた。
結果、王子が率いる本隊は正面突破どころか、混乱から立て直しを図る為、防戦一方となってしまった。
「ユステス将軍は何してる!?」
「宝剣を探しに行くと言って出られてから、戻られておりません!」
「何だそれは!ええい!ならば救援数を増やせ!」
「再度要請していますが、反応数が少ないです!」
「ええい!包囲隊の奴らめ、怖じ気付いたか!」
作戦指揮本部の者達が慌ただしく動き回る中、灯音は自分の血がもたらした光景から目をそらさずにいた。
強引に連れてこられたとはいえ、心の中では昨日後輩達が命がけで自分の為に戦っている光景を見た時から、何かサポートしたいと望んでいたのだ。
あの時の自分は何も出来ず、ただ逃げるしかなかった。
だから、本部で作戦の説明を受けた時は嬉しかった。
魔物達を引き寄せる事で一網打尽にでき、また、周囲に散開する魔物の数も減り、包囲隊の危険も下がる。
目の前にいる本隊の、包囲隊の、何より友達の力になれる。
・・・はずであった。
「こんなはずじゃなかったのに。」
灯音は目先に映る光景を見て、唇を噛み締める。
本隊は徐々に立て直りつつあるが、苦戦を強いられているようで、怒号や悲鳴が収まる気配はない。
(私のせいだ。)
灯音は自責の念で壊れそうになる心を必死で繋ぎ止め、溢れ出てくる嗚咽と涙を堪えようと上を向いた。
「・・・あっ!あれはっ!」
その時である。
暗雲を切り裂くように敵陣へと落ちていく白く眩い流星を見つけたのは。




