魔界の門
「アリス!リリ!無事だったか!?」
優太とミーシャはアリス達の元へと降り立ち、すぐさま彼女達の状態を確認する。
(私は大丈夫ですが、アリス様が)
「・・・わらわも大丈夫、じゃ。ハアハア・・・、全く、もう少し、遅ければ、殴っていたところじゃ。ゼエ」
リリは所々に怪我を負っているが、まだまだ動けそうであるのに対し、アリスは疲労と魔力切れ間近で体力の消耗が激しく肩で息をしており、真銘解放されていた彼女の愛剣は再び眠りについていた。
「すまん。色々あってな」
「いや、そなたも無事、じゃったし、別に良い。そこの、ペガサスの件は、後で聞くとして・・・灯音は、ちゃんと守った、のじゃろうな?」
「もちろんだ。アリスの騎士の名にかけて、無事に安全圏まで送り届けたぞ」
「そうか・・・さすがは、わらわの騎士、じゃ」
気掛かりであった灯音の無事を聞き、アリスは心から安堵する。
「ああ。だから安心して休んでくれ。後は俺達が相手する」
「馬鹿を、言うでない。わらわも戦わねば、勝機はある、まい」
「俺のお姫様は頑固だな。良いから休んでてくれ。もう限界が近いんだろう?俺達なら大丈夫だから」
「なに、これしき・・・わらわ、だって、大丈夫じゃ」
息切れしながらでも、アリスは優太の申し出を拒否する。
たとえ限界が近くても自分も戦わなければ、ユーリ相手に勝ち目が薄いと判断したからだ。
しかし、続く優太の言葉に彼女の強がりは早くも崩れ去ってしまう。
「そんなに自分の騎士の言葉が信じられないのか?」
「っ!?・・・その、言い方は卑怯、じゃ」
「卑怯でも何でも良い。俺にとってお前は大切な存在なんだから」
「う、ぐっ!?」
もちろん、今の優太の言葉に他意はなかったが、アリスは戦いの最中である事も、息切れしている事も忘れて動揺してしまった。
「そ、そのような事、今言われても困るのじゃ。もっとこう、2人きりの時に見つめ合いながらじゃな・・・」
彼女は尚もゴニョゴニョと、しどろもどろになりながら愚痴る。
だが、優太の意識と視線は既にアリスから外れていた。
爆心地となった場所に舞い上がっていた砂塵が薄れ、2つの影が浮かび上がったのだ。
(ユータ様)
「おう。・・・あれをくらっても立つか。せめて魔獣だけでも倒せればと思っていたが・・・」
優太は悔しげに呟きながら、リリと共にアリスを守るように立ち、剣を構える。
盾は先程の戦いで失ったまま。
しかし、代わりに新たな仲間ができた。
そして、ユーリ達は少なからず消耗しているはず。
(大丈夫、勝機はある)
そう自分に言い聞かせて、優太はユーリ達が姿を現すのを待つ。
やがて砂塵が止み、ユーリとヴェガの姿が星空の下に晒された。
「ギィイイイイイ・・・」
ヴェガは片翼がもげており、怒りに満ちた声で唸っている。
「真打ちがいたとは・・・よくもやってくれたな」
鎧姿のユーリは五体満足であるが、アリスのように肩で息をしており、体力を消耗している事が窺えた。
(パパ・・・油断は駄目だよ)
「分かってる。奴らはまだまだ戦う気だしな」
ミーシャの念話に優太は同意し、臨戦態勢に入る。
ユーリから溢れる殺気は今なお健在であり、否が応でも、戦場が命のやり取りをする場所だと認識してしまう。
だが
戦場の空気が張り詰め、再び両者が激突せんとした、まさにその時、戦いは意外な形で終了した。
突如として夜空に厚い雲が渦巻き、今まで光瞬いていた星々が鳴りを潜め、周囲一帯が闇に包まれた。
「っ!・・・きた!」
「ギィイイイヤアアア!」
ユーリとヴェガが歓喜の声と雄叫びを上げ、戦意と戦闘態勢を解くと同時に、彼女達の足元から黒泥が吹き出して2人を呑み込み、地面へと沈んで姿を消した。
「なっ!?」
急展開に頭が追い付かず呆気に取られたのも一瞬で、直後、ユーリとは比較にならない強烈な視線と殺気が優太の全身を貫き、全身の毛が逆立つ程の悪寒が駆け巡った。
そしてーー
ー 見つけた ー
優太は確かにその言葉を耳にした。
その声は、まるで世界という部屋に付いている扉の向こう側から聞こえてきたようであり、実際、鎧の敵性探知機能にも反応がなかった。
「一体、何が・・・?」
(門が・・・)
優太が狼狽していると、リリが驚愕と緊張、そして恐怖が混じった声音でポツリと呟いた。
(アリス様)
(パパ)
そして、リリは元より視線を感じてから今まで沈黙していたミーシャも、焦燥に駆られた面持ちでそれぞれの主人に絶望を告げる。
((魔界の門が開きました(開いちゃった)!))
「っ!な、何、じゃと?」
その報告にいち早く反応したアリスの声は震えていた。
(感じる魔力量から半分未満だと思いますが、門が開いたのは間違いありません)
リリは感じ取っている負の魔力量から推測して主人に報告する。
「こうしちゃ、おれん。行か、ねば」
アリスは限界が近い身体にムチ打ち、リリが示す方角へ向かおうとする。
「アリス、そんな状態じゃ無理だ!」
(そうです、アリス様。急速を取らないといけません)
(無謀だよ!)
「じゃが・・・っ!」
優太達がアリスを押し止めようとするも、彼女は反発して歩き出す。
その時、第3の声が響く。
「アリスティア王女、落ち着いて下さい」
セラフィリアス王国特殊戦況調査団小隊長、ウェストン・ツヴァネス・ライネであった。




