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異世界姫滞在記  作者: いぬがさき
第5章 影は忍び寄る

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闇は訪れる

多くの地域は条例により18歳未満の少年少女が午後23時以降に出歩く事を良しとせず、見つかった場合は補導の対象となっている。


優太達が住む盾上市も例に洩れず、午後23時以降に出歩く未成年者は補導の対象である。


もちろん優太達も年齢的には補導の対象なのだが、今回彼らは例外として警察達から見逃されていた。


魔王崇拝教信者捜索と、魔界の門の開門阻止の為にセラフィリアス王国が通達したからだ。


警察や自衛隊は公には協力できない分、陰ながらバックアップをしている。


優太達が訪れたのは、先日オークやゴブリンと戦った場所であった。


爆撃地さながらの惨状となったこの場所も、日本とセラフィリアス両政府が協力して情報隠蔽や現場修復を迅速に行い、真相が明るみに出る事なく道路陥没による修復工事という名目で片付けられた。


今では新しい街灯が設置され以前よりも周囲が明るくなり、また、修復された道路は少しだけ道幅が広がった。


しかし、深夜になると人通りがなくなるところは以前と変わらなかった。


「ここは俺達とシュードイラの2つの現場になった所だし、念入りに調査されているはずだろ?もう新たな手掛かりはないと思うけど。」


「それはトーシロの考えじゃ。大事な証拠が見落とされておる可能性もあるし、調査時には存在しなかった新たな手掛かりが増えておるかもしれぬ。何故ならーー」


(犯人は犯行現場に戻る習性がある。からですね。)


「むう、決め台詞を横取りするでないっ。」


「昨日見たドラマに影響されてるな。」


2人と1頭は緊張感のない会話をしながら道路を横断する。


だが、それは森の闇に飲み込まれないように努めてした事であった。


道路側は街灯も増えて明るくなったのに対し、森は相変わらず木々が生い茂り見通しが悪く、夜になると漆黒に塗りたくられる。


森は私有地と銘打たれているが本当は国有地であり、奥深くにはセラフィリアス王国人専用の迎賓館があるらしい。


魔王信者と魔物によるシュードイラ襲撃はその目と鼻の先で起こったはずだが、国レベルの管理地内で事件が起きるはずがないという油断からか、あるいは内通者による工作か、両政府が事件を把握したのは犠牲者シュードイラが出た後であった。


その場所へ優太達は懐中電灯を手に、油断なく警戒しながら踏み入る。



森の中は静寂につつまれており、その静けさがいっそう不気味さを引き立たせていた。


ガサガサと優太達が草木を掻き分けて移動する音のみが響く。


「・・・おかしい。」


しばらく探索したところで突然優太がぽつりと呟いた。


「何か見つけたのかの?」


「いや・・・それよりもこの森はあまりにも静か過ぎないか?」


アリスの問い掛けに答えつつ、優太は周りを見回す。


「・・・言われてみればそうじゃな。」


(生物の気配もしないですね。)


アリスとリリもこの森の異常に気付き、警戒の色を強めた。


国有地の森とはいえここには多くの野性動物が生息している。


動物達の大半は夜行性であり現在行動しているはずである。


直接遭遇しないにしろ、優太達が移動する音や声、懐中電灯の光に反応してもおかしくないのだが、リリ曰く気配さえないという。


では、動物達はどこに行ったのだろうか。


気配と息を殺して潜んでいるのか、優太達もしくは他のものから逸早いちはやく逃げたのか、もしくは・・・魔物に狩り尽くされたのか。


緊張感をはらんだ足取りで歩を進めていくうちに、やがて月の光が届くひらけた場所へたどり着いた。


「ここは・・・!」


一向は全員息を呑む。


地面は抉れ、いくつものクレーターができ、周囲の木々はへし折れ、あるいは斬り倒されており、戦場さながらの光景が目の前に広がっていた。


「そうか、ここでシュードイラ殿達が・・・」


アリスはその場で片膝を付き、右手を胸に当て目を瞑る。


それがセラフィリアスの黙祷である事を察した優太も彼女にならい黙祷した。


(アリス様、ユータ様。)


しかし、魔の森は死者の鎮魂を祈る時間も十分に与えてくれなかった。


アリスの隣に鎮座していたリリが突如真剣な声音で念話を発した。


「ああ。・・・優太、悪意ある何者かが近づいてきておる。」


「っ!」


優太達が振り返った時であった。


「ギャガガガ!」


「ギキィイイ!」


耳障りな声と共に2匹の魔物が姿を現した。


ゴブリンである。


しかし、先日遭遇したゴブリン達と違い、身の丈は優太程あり、装備もボロ布ではなく、錆びついてはいるが頭部以外をプレートアーマーで覆っていた。


明らかにゴブリン達の中でも上位の存在である。


2匹はすぐに優太達に襲いかかろうとはせず、彼らから距離を置いて立ち止まり、錆び付いた片手剣を正眼に構えた。


優太とアリス、リリも戦闘態勢に移り、場は一触即発となる。


「おいおい、こんなガキ共も探ってやがるのか。」


だが、そこで新たな乱入者が現れた。


見下した口調と共に姿を現した人物はスーツ姿の男で、年齢は40半ばくらい、背は平均より少し高く、身体は引き締まっており、狂犬のように目がぎらついている。


「あと少しで達成だってのに面倒臭せえな。・・・あ?」


男は愚痴りながらゴブリン達の間を抜け、優太達に近付く。


姿を現してから接近するまで優太達に興味を持たなかった男だったが、優太の顔を認めた瞬間、何かに気付きそして、一触即発の場であるのに場違いな程大きく笑った。


「そうか!お前・・・ははっ!マジか!」


前髪をかきあげ、天を仰ぎ見て笑う男の髪で隠れていた頬が見え、刃物で切られたかのような、うっすらとした傷痕がみえた。


ひとしきり笑った後、顔を正面に戻した男の視線は優太にのみ注がれた。


「な、何だ?」


明確に敵意を向けられている優太は気圧されそうになりながらも男を睨む。


「覚えてねえのか。まあ、顔を見せてねえし仕方ねえな。皮肉なもんだよな、なあ?

こうしてまた顔を合わせる事になるなんてよ。

だが、今回は白騎士もいねえし、お前は終わりだ。」


「っ・・・まさか!?」


白騎士、頬に傷痕。


ある時見た夢の光景が蘇り、優太は男の正体に勘づき驚愕する。


「その顔、どうやら思い出したようだな。ああ、別に忘れていた事を咎める気はねえぞ。した側は忘れるって言うしな。

俺も同じだ。殺した奴らの事なんていちいち覚えてねえし。・・・だからよ、お前を殺してもすぐに忘れてやる。

あの世まで追い掛けたりしねえから安心して死ね。」


「っ!」


敵意が殺意に変わった途端、優太は息苦しいほどの圧を感じた。


息ができず、足が震える。


圧に押し潰されそうになる心と身体を必死で堪えていた時、優太の前に2つの背中が躍り出た。


「優太。目を閉じて、ゆっくり息を吸うのじゃ。」


躍り出てたうちの1人が背中越しに優太に優しく話かけた。


「一旦止めて。はい。ゆっくり吐いて。」


男からの視線が逸れた事により圧が若干薄まった事、そして何より、少女の指示通りに深呼吸する事で優太は心と身体を持ち直す事ができた。


「・・・ありがとうアリス。助かった。」


「どうじゃ、白騎士流深呼吸は落ち着くじゃろう?」


少女、アリスは朗らかに笑う。


彼女は既に銀の鎧を身に纏っており、隣には美しく気高い雪華狼リリが控えていた。


彼女達の威風堂々とした姿に優太は自然と安心と勇気を与えられる。


「さあ、わらわの騎士よ。今度はわらわ達が奴を圧倒する番じゃ。

共に戦っておくれ。」


「おう、もちろんだ。俺のお姫様。」


もう息苦しくない。足も震えない。


男の圧が分散された事もあるが、それ以上にアリスの言葉で優太は奮い起った。


「ああ?・・・お前、よく見たら第三王女じゃねえか。いや、出来損ないの王女もどきか!」


一方、男は優太を庇ったアリス達を興味無さげに一瞥したが、彼女が王女だと気付くと嗜虐的な笑みを浮かべた。


「そういうそなたは魔王崇拝教の幹部で間違いないな。」


アリスは男の挑発に乗らず、淡々と確認する。


「チッ。つまんねえ奴だな。」


男は舌打ちしたもののそれほど気にした様子もなく再び笑みを浮かべた。


「まあ、お前らが誰だろうと俺のやる事は変わらねえしな。

・・・それにしてもお前らが揃うとは皮肉な運命だな。こっちとしちゃ手間が省けるがな。」


男は腰に着けていたホルダーからおもむろに得物を取り出す。


それは禍々しい形をした黒いナイフであった。


柄は縦にねじれており、刀身は大昔に絶滅したサーベルタイガーの牙のように反り返っている。


また、その刃はノコギリ状であり刺すよりも引き裂く事を目的としている事が窺えた。


男はナイフを逆手に持ち、優太達に向けて構える。


アリスは聖約武器を呼び寄せて構え、優太も鎧を装着する為に御守りが入っている胸ポケットに手を伸ばした。


だが、ここで男は予想外の動きをする。


逆手に構えたナイフを自身の足元へと故意に落としたのだ。


ー ヌプリ ー


本来であればナイフを落とせば地面に刺さるはずである。


しかし、そのナイフは地面に落ちた後、刺さる事なくまるで沼に落ちたかのようにそのまま沈んでいった。


獄装アビスリンク。」


そして、男が発した言葉が合図となり、ナイフが沈みこんだ地面から突如、黒い泥が吹き出し、男の全身を包み込む。


数秒もしないうちに泥は流れ落ち、中から男が姿を現した。


「なっ!?」


泥の中から現れた男の姿を認めた優太達に一層の緊張が走る。


男は鎧を纏っていたのだ。


全身を覆うフルプレートアーマーは金属製でないのか、アリスが纏う鎧のように月光を反射して輝くような事はなく、逆に、光さえ呑み込んだように一切の光沢がない。


「俺がお前達の探しているやからかどうか知りたがってたよな。

冥土の土産にお前ら流に名乗ってやるよ。」


闇そのものを纏った男が、兜により不気味にくぐもった声で名乗りを上げる。


魔王崇拝教ヘルズピア幹部ナンバーズ第10位『オルガ』だ。地獄で俺の名を広めといてくれよな。」

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