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異世界姫滞在記  作者: いぬがさき
第5章 影は忍び寄る

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朝霧と夜街

「ーーじゃ。ーー太!」


「・・・んぁ?」


「起きるのじゃ!優太!」


「・・・え?あ、お、おう。」


ゴールデンウィーク初日だからといって優太は怠けず、いつもの時間に起き、いつものように朝の鍛練を行うつもりであった。


だが、それよりも先に優太を叩き起こす者がいた。


アリスである。


時間をみればまだ午前4時30分過ぎ。


本来であれば彼女に小言を言いもうしばらくの睡眠を貪るところであったが、優太は大人しく従い起きた。


何故ならアリスの表情が真剣だったからである。


眠気が残る表情と思考を引き締める為に洗顔を行い、彼女に言われるまま外出用の服装に着替えた優太がリビングへ向かうと、パンと牛乳、サラダやヨーグルトというシンプルだが栄養を考えた朝食が出来上がっていた。


「おお、朝食ができてる。」


「在り合わせのもので申し訳ありません。」


「いや、良いよ。というかリリが作ってくれたんだな。ありがとう。」


「いえ、ユータ様にはいつも御世話になっておりますので。」


はにかみながら応えたのは人型になったリリであった。


キッチンの高さが人間基準である為、人型の方が調理しやすいらしい。


リリの作った朝食を食べつつ、アリスから事情を大まかに聞いた。


なんでも本国から早朝に緊急の連絡が届いたらしい。


ただ、詳しい内容は記されておらず、時間と場所の指定と、そこに集まった者のみに内容を説明するとの事であった。


「このタイミングじゃ。十中八九、魔王崇拝教の信者の件じゃろう。内容を直接記さなかったのは、盗文や内通者によって洩れるリスクを抑える為かもしれぬ。」


とアリスは推測する。


優太も彼女と概ね同じ考えであった。


「それにしても・・・俺も指名されているとはな・・・」


「まだ正式な叙勲はしておらぬが、そなたはわらわの騎士じゃからな。

まあ、概ねシュードイラ殿との一件でそなたの情報が出回ったのであろう。

なに、別にやましい事などしておらぬし、堂々としておけば良いのじゃ。」


前回とは違い、今回は優太にもお呼びがかかっていた。


それが単純に王女アリスの騎士としての顔合わせなら問題ないが、優太のような素人の手を借りなければならない程、状況が切迫している可能性もある。


優太は人知れず気を引き締めた。



午前5時50分。指定された場所は街外れにある古びた教会であった。


周囲は異常なくらい霧が立ち込めており、アリス達がいなければたどり着く事はおろか、ひたすらさ迷い続けるしかないほどである。


彼女によればこの霧は結界の一種で、人避けと魔避けを兼ねており、効果は定かでないが魔に通ずる者、つまり魔王崇拝教側の侵入を防げるらしい。


教会の入り口の地面には魔方陣が描かれており、魔方陣の上を通らなければ中に入れなかった。


優太達は後で知る事となるが、その魔方陣は信者との内通者を炙り出すものであった。



教会の中は薄暗く、はっきりとは分からないが優太達を含め10名程がおり、お互いに距離をあけて好きな場所に座っていた。


優太達もそれにならい、入口近くの椅子に腰掛ける。


いくつかの視線を感じたが、近付いてくる様子はなく単に誰が入ってきたかを確認しただけのようであった。


(・・・時間となりましたので、話を始めさせていただきます。)


時刻が6時を回った直後、脳内に厳格な老人の声が響き渡った。


驚いた優太が辺りを見回すと、教会の祭壇に、いつの間にか人の身の丈ほどある巨大なフクロウらしき鳥が止まっている事に気が付いた。


全体的に黒茶色であり、頭部には王冠らしき銀色の飾りをつけていた。


(この地区の説明を担当致します。使い魔の『アースラ』と申します。以後お見知りおきを。

さっそく本題に入らせていただきますが、単刀直入に申し上げますと、未だ魔王信者を発見できてはいません。)


「はっ、調査団ってのは無能集団かよ。」


「朝早くから呼びつけてお詫びの報告か?」


アースラの念話に前の席の方から、いくつかの野次があがった。


(返す言葉もありません。しかし、謝罪の報告ではありません。)


アースラは野次を特に気にした様子もなく、また、律儀に返答する。


(今回の緊急招集につきましては、皆様方にも魔王崇拝教の信者捜索に参加するようにと国王から追加命令が出された事の報告です。)


「お前ら調査団の尻拭いもしろって事かよ。」


(またしても返す言葉もありません。なお、国王は魔王信者を発見・捕縛した者については莫大な報償を与えるとしています。)


ー ざわざわ ー


教会内にざわめきが起きる。


しばらくして、ざわめく者達を代表して先程野次を飛ばした者の1人が質問した。


「報償は1人だけにか?」


(いえ、複数が協力したのならその全員に与えるとの事です。)


「贅沢な話だな。ギレ家から圧力が入ったのか?」


下賎な質問をする声は野次の時と違って上擦り気味であり、報償の言葉に目が眩んでいるようであった。


(ギレ家の御子息の件は関係ありません。)


返答したアースラは言葉を続ける。


(調査団の実力不足もありますが、現在追っている魔王信者は我らの追跡に勘づいており、毎回ほぼ完璧に足取りを消しています。

間違いなく幹部級の人物でしょう。

また、ギレ家の御子息の件や他の事件の形跡から、その者はゴブリンやオークといった魔物を使役している事が判明しております。)


ー ざわざわ、ざわ ー


先程よりも更に大きなざわめきが起こった。


優太達は既にゴブリンやオークと遭遇し戦闘まで経験していたので驚きは少ないが、他の者達からすれば物語の上でしか知らない伝説の魔物の名があがったのだ。


その驚きは計り知れない。


また、魔物の名が出てきた事により、より重要なもう1つの問題が浮上した。


(皆様が懸念されている魔界の門については、まだ完全には開いていないのでご安心下さい。)


彼らの心配を察してかアースラはフォローする。


「・・・何故そう言い切れる?」


(未だに信者達が逃げ隠れしており、魔物達の軍勢、魔王軍が大々的に押し寄せて来ていないのが何よりの証拠です。

目撃されているゴブリン達も僅かに開いた門の隙間から溢れ出ただけでしょう。

門が完全に開ききるまでには、まだ幾ばくかの猶予はあります。

皆様にはそれまでに何としてでも魔王信者を見つけ出し捕縛していただきたいのです。)


アースラはフォローの根拠を示し、改めて調査団への協力を依頼する。


(なお、日本国側ですが大規模な混乱を招くおそれがあるので、魔界の門や魔王信者について国民への公表は行わないとの事です。

また、警察や自衛隊にも協力要請を行ってますが、こちらもおおやけには動かない上、セラフィリアス側の国王軍の介入も認めないそうです。

その為、日本にいる私達とわずかな増援のみで対応しなければなりません。)


魔界に対し知識や馴染みのない日本が日和見ひよりみるのも無理のない話である。


「・・・この件に対応できる奴は合計で何人くらいいる?あと、今後は対応する全員で連携をとるのか?」


(正確な数は情報漏洩を防ぐ為にお答えできませんが、そう多くない数です。

見知らぬ者同士が無理に全員で連携をとろうとすると、かえって行動が制限される可能性が高い為、連携は情報共有のみとし、各自自由に行動するようよろしくお願い致します。)


その後もいくつかの質問と応答が繰り返され、参加者全員の意見が擦り合わさった所でお開きとなった。


出入り口近くに陣取っていた優太達が真っ先に教会の外へと出る。


外は相変わらず深い霧が立ち込めており、2メートル先でさえ霞んで見える。


一向は来た時と同じようにアリスの誘導の下、深い霧の森を脱した。



自宅へと戻った優太達は今後の作戦会議を行い、ゴブリン達魔物が活発になる夜に哨戒する事で合意し、その為の仮眠を行う事に決めた。


ただ、今のままでは寝付けないので、時間は遅いがいつもの日課を行う事にした。


もちろんアリスとリリも参加し、全員で汗を流した後はシャワーと昼食を取り、時刻午後2頃、ようやく訪れた睡魔に身体を預け2人と1頭は束の間の休息を取る。


そして、午後23時。


休息と夕食を十分に取った優太達は夜の街へと踏み出した。

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