幕間 崩壊する日常
優太達がプチ贅沢を楽しんでいる同時刻、茶髪達3人組は馴染みのアミューズメント施設を出て夜の街を徘徊していた。
「あーあ。つまんねー。」
「何か面白い事ねえかな。」
彼らは口々に日常の不満を吐き出す。
「これもあれも全部アイツのせいだわ。」
「地味男のクセに調子のってるしねー。」
「アイツマジうぜえし、ゴールデンウィーク明けたら1回ボコってやろうぜ。」
「女子達の前でな。大恥かかせてやる。」
地味男とは優太の事で、茶髪達3人は彼の事を逆恨みしていた。
日常の鬱憤が溜まっている分、 優太への憎しみも比例し、日々大きくなっている。
茶髪達がアミューズメント施設へ通うのも、それらのストレス発散の為であった。
そして、近頃は他の方法でも発散している。
「ねーねー今日も行っちゃう?ホラスポ荒らし。」
「おっ、いいじゃん!さんせーい!」
「他にグループがいたら最高だよな。」
ホラスポ。つまり『ホラースポット荒らし』。
心霊スポットを巡るのは肝試しと同じだが、茶髪達は自分達が訪れた事を示す為にマーキング行為を行ったり、他の肝試しグループがいた場合、大きな音を出したり叫んだりして脅かしていた。
特に後者は他人の驚く反応が面白いらしく、彼らのお気に入りであった。
これが最近のマイブームであり、迷惑極まりない遊びである。
暇をもて余した彼らの中に異議を唱える者はおらず、ふざけ騒ぎながらホラースポットへと移動を開始した。
今回茶髪達が訪れたホラースポットは、盾上市の南に位置する白蹄町の郊外にある、とある緑地公園であった。
この公園周辺は大昔から幾度となく戦場になっており、命を散らせた兵達が未練と共にさ迷い続けているらしい。
緑が多いこの公園は、昼間は格好の森林浴スポットとなっているが、夜になるとその姿は一変し、街灯の少ない薄暗く不気味な場所となる。
その為、古くから伝わる有名なホラースポットとなっているが、同時に誰にも邪魔されたくない恋人達の逢瀬の場としても有名であった。
茶髪達が目的の緑地公園へ到着した時、月や星は厚い雲で陰っており、よりいっそう不気味な空間となっていた。
「良い雰囲気出てるじゃん。」
「そだねー。ワクワクするー。」
「誰かいねーかな。」
彼らも慣れたもので、陰鬱な雰囲気など気にした様子もなく我が物顔で闊歩し始める。
最初のうちこそふざけ合いながら楽しく歩いていたが、何か起こる訳でもなく他人の気配もしない。
そんな、ただの夜散歩と成り果てた彼らのテンションは、公園内を奥へと進むにつれて下がっていった。
「あー、期待はずれ過ぎだろ。」
「テンション爆下がりだわー。」
「もう少しで奥だしな。」
茶髪達は奥まで行ったらマーキングのみ行い、すぐに引き返す事で合意し、惰性で歩を進める。
数分も経たないうちに公園の奥へとたどり着き、彼らはマーキングを行った。
「これでよし、と。なあ、今からハンバーガー食べに行かね?」
「・・・」
「お前らどした?急に黙って?」
「・・・ちょっと待て。」
「今何か・・・聞こえた・・・?」
マーキングを完了した茶髪は予定通り引き返そうと仲間達に呼び掛けたが、灰色の長髪と金髪は返事もなく周囲の様子を探るようにしきりに見渡していた。
疑問に思った茶髪が声をかけると、どうやら近くで何かの音がするようであった。
「風の音じゃねえのか?」
「いや、確かに草がガサガサする音も聞こえたけど、それだけじゃーー」
ー ガサガサ ー
ー ズブ、グチュ ー
金髪が訝しむ茶髪に聞こえた音を説明しようとした時であった。
少し離れた草むらの方から何かが動く音、そして、柔らかいものに何かを突き刺すような音が聞こえた。
特に後者の音は生理的に受け付けない類いのものであり、聞いていて気持ちの良いものではなかった。
しかし 、元々刺激を求めてやってきた茶髪達に見過ごすという選択肢はなかった。
「なあ、覗いてみようぜ。」
「ああ、引き返してもやる事ねえしな。」
不自然な音への恐怖は少なからずあったが、若さゆえの好奇心が勝った彼らは、音の正体を探る事に決めた。
しかし、ここで金髪がある事に気付く。
「あれ?『蒼』は?」
「え?・・・マジか?」
蒼こと『蒼人』とは灰色の長髪の少年である。
彼は確かに最初の音が聞こえた時まではいた。
しかし、その後、いつの間にか気配もなく消え去っていたのだ。
「トイレにでも行ったんじゃねえのか?」
「俺らに何も伝えずにか?」
「んじゃ、どこ行ったんだよ?」
「知るかーー」
ー ガサ ー
蒼人が突然消えた事への混乱と焦りで、茶髪と金髪が口論しかけた時、何かが動く音が再び響いた。
今度は先程よりも近い。
瞬間的に音の方を向いた茶髪は、音の確認の為に金髪の方へと向き直る。
「なあーー」
しかし、そこに金髪の姿はなかった。
「あ、え?・・・りょ、『凌』?」
茶髪は情けない声で金髪の名を呼ぶ。
しかし、返事は返ってこない。
「お、おい。ふざけんのもいい加減にしろよ。どうせ、お前らグルで隠れてんだろ。マジだりぃって。」
茶髪は悪態をつきながら消えた2人を探し始める。
「蒼ー?凌ー?」
先程の音がした草むらも掻き分けてみたが、2人の姿はなかった。
それからしばらく辺りを探すものの、一向に彼らを見つける事ができず、茶髪の心は不安や心細さから次第に不満や怒りへと移り変わり、イライラが募っていった。
そしてついに我慢の限界に達し、茶髪が大声で2人を罵倒しようと息を深く吸い込んだ時である。
「おっと、大声はマズいな。」
「?」
ー ザシュッ ー
背後から蒼人でも凌でもない知らない男の声が聞こえ、驚きと同時に喉元に鋭い痛みが走った。
「っ!」
ー ゴォポォ ー
何だこれ?と口に出そうとしたが、出たのは声でなく、空気の漏れる音と、鉄の匂いのする液体であった。
喉の鋭い痛みは治まるどころか熱を伴い激化する。
また、喉元からも鉄臭い液体が大量に滴り落ち、反射的に手をやるとヌルリとした触覚が手にまとわりついた。
そこで茶髪はようやく気付く。
これは血だと。
喉を切られたのだと。
ー ゴポリ・・・ゼヒュー・・・ ー
助けを呼ぼうとするが、口から出るのは空気と血のみ。
息も次第に出来なくなり、苦しさに耐えきれず茶髪はその場に倒れこんだ。
「兄ちゃん達、運が悪かったな。いや、まだアイツらに生きたまま食い散らかされるよりはマシか。
どうせ最終的に、この国の奴ら全員が死ぬんだ。先にさっさと死んだ方が楽だろ?」
返事のできない茶髪に、男の陽気な声が降り注ぐ。
「門が開ききるまで、まだしばらくかかるが、そろそろ動かねえとな。調査団の連中に見つかったら壊されちまうし。
ああ、早く見てえな。白騎士の野郎の故郷が魔王の軍勢に蹂躙される様をよお。」
男は白騎士の名を呼ぶ時のみ、陽気な声を一変させ、憎悪に満ちた声となった。
「まあ、まずは調査団を返り討ちにするか。おい、出てこいお前ら。3人目のご馳走だぞ。これ食って精力つけとけ。」
ー ガサガサ ー
ー ゲギャギャ、ギェギギ、グゲゲ ー
男の呼ぶ声に複数の声が反応し、草むらが揺れ何かが茶髪の周りに集まってきた。
彼はそれを確認する気力も既になく、消えゆく意識と命の中、ただただ深緑色をした足達を眺め続ける。
「悪いな兄ちゃん。結局生きたまま食わす事になったわ。
まあ、もうほぼ死んでるし変わりねえだろ。じゃあな。」
男は茶髪へと別れを告げる。
幸か不幸か、茶髪は聞き終わると同時に生の終わりを迎えた。
残ったのは亡骸。
深緑色の肌をしたもの達、ゴブリンは我先にと群がった。
こうして平和な日々が崩壊していく。




