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現代ダンジョン最底辺の清掃員は今日も静かに世界を救う ~異世界から帰還した元勇者の二周目無双攻略記~  作者: さとう
第一章

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9/11

第8話

 大学入学の翌日なのに、いきなり休むことになった。

家でダイバーギルド本部に行く準備をし、手には『餌皿』がある……なぜ餌皿か?


『わうわう、わうわう!!』

「はいはい。餌だぞ……その前に、『待て』」

『わう』


 現在、俺は実家の地下で『犬』を飼っていた。

 子犬。灰銀の体毛、犬種は秋田犬っぽい。まだ小さく可愛らしい。

 餌皿を置いて『待て』をすると、子犬は尻尾をブンブン振りつつも待っていた。


「よし、いいぞ」

『わう!!』


 子犬は餌皿に喰らい付く。

 ドッグフードをむしゃむしゃ食べ、水皿の水をガブガブ飲む。

 あっという間に食べ終え、満足したように俺の周りをグルグルする。


『わるるる』

「はいはい、遊べってか。悪いな……これからお出かけするんだ。どうする? 家で留守番、亜空間でお留守番、どっちでもいいぞ」

『わうう』


 子犬は、俺をジッと見て尻尾を振っていた……ああ、亜空間な。


「『解放(リリース)』……言っておくけど、あんまり亜空間で暴れるなよ?」

『わううううん』


 子犬は亜空間に飛び込んだ……まあ、こいつにとってはこの亜空間が家みたいなものだ。

 俺は魔法陣を消し、餌皿と水皿を手に立ち上がる。


「……まさか、犬か。いや犬じゃないけど」


 俺の亜空間にいた、聖獣の卵から孵った子犬。

 かつて契約していた『聖犬ルフィアーナ』に託された卵の一つだ。『いつか孵る日がくる』なんてルフィアーナは言っていたが、一向に孵る気配がなかったので亜空間にしまっていたのだ。

 デッラルテの崩壊消滅と共に、契約していた聖獣、魔獣などのパスは全て切れ、召喚獣たちも消滅したが……卵だけは消えなかった。

 それが、この世界に戻ったことで動き出し、先日生まれたのだ。

 灰銀の毛を持つ子犬。ルフィアーナは『タルタリヤ』と名付けたので、俺もそう呼んでいる。


「タル……デッラルテの忘れ形見。俺が立派に育ててやるからな」


 餌皿をシンクに起き、俺は荷物を持って家を出た。

 ダイバーギルドに行って、危険区域の清掃作業が待っている。


 ◇◇◇◇◇


 清掃ギルドのドアを開ける。


「おはようございまーす」

「おはよう。早速だけど準備して、ダイバーギルド本部に行くわよ」


 朱美さんだ。

 今日は清掃人としての恰好だけじゃない。手には大きなロッドみたいなのを持っており、ツナギの上にプロテクターみたいな装備も付けていた。

 見ていると、視線に気づいた朱美さんが言う。


「ああ、これは私の装備。危険区域に行くからね、『ドレッドノート』の護衛があっても身を守る装備はしていくわ。もちろん、逢魔くんのもあるからね」

「逢魔くーん」


 と、ハイジが更衣室から出て来た。

 雨合羽装備ではなく、ツナギにプロテクターみたいな装備に、掃除道具が入ったリュック。そして腰には警棒みたいな武器があった。


「すごいな、ダイバーみたいだぞ」

「そ、そうかな? あ、逢魔くんも同じ装備だよ」


 ちなみに、腰の警棒は『スタンバトン』という、ダイバー装備を作る大手企業が開発した武器の一つだ。

 『サンダーヴェノム』とかいう電気を発する蛇の『核』をベースに作ったバトンで、スイッチを入れると電気が流れる仕組み。殺傷力はないが、弱い魔獣をひるませるには十分とか。


「すごいよね。『ワルキューレ・コーポレーション』のダイバー装備。清掃人の着るツナギですら、こんな立派な物なんだからさ」

「……ワルキューレ、なに?」

「……冗談だよね?」


 世間知らずで悪かったな。ていうかワルキューレ……最近どこかで聞いたような。

 とりあえず「あとで説明するよ」と言われたので、俺も更衣室で着替え、清掃道具を手にする。

 ロビーに戻ると、ガンモさん、サブさん、佐藤さんも来た。

 朱美さんは言う。


「では課長、行ってきます」

「うむ。気を付けてくれたまえ。アルバイトの2人も頼むぞ!! はっはっはっはっは!!」

「「は、はい」」


 課長……なんというか、危機感の感じられない笑いっぷりだ。

 そしてサブさんが俺とハイジの肩を叩いて「頼むぞ!!」と激励。佐藤さんは「どうか無事に。ああ、今回の給金は期待してくださいね」と言ってくれた。

 三人でダイバーギルド本部へ。朱美さんが受付と話していると。


「おい、清掃人だぜ」

「ほんとだ。全く、素人がダンジョンに入りやがって」

「まあまあ、あいつらにしかできない仕事もあるんだしな」

「でも、ダンジョンの汚染なんて放っておいても問題ないだろ?」

「だよね。汚染とか言われても、これまで何かあった?」


 ヒソヒソと聞こえて来た。

 俺はともかく、ハイジは居心地が悪そうだ。なので、質問して空気を変える。


「さっきの、ワルキューレ・コーポレーションって?」

「え、ああ。霧氷刹那さんのご実家だよ。以前は医療機器メーカーだったんだけど、ダイバー装備事業に参加し始めて一気に大企業に成長したんだ。すごいよね、世界ランカーのダイバーたちもみんな、ワルキューレの装備を使ってるよ。それに、チーム『ワルキューレ』の活躍もあるし」

「へえ」


 ダイバー装備か。俺には縁がないな。

 俺には、デッラルテ最高の職人が作った装備がある。それに、武器もだ。

 すると、朱美さんが戻って来た。


「ポータルの使用申請が通りました。百七十階層直通ポータルに行きましょう。そこで『ドレッドノート』と合流し、清掃作業に向かいます」

「は、はい!!」

「はい、わかりました」


 ポータル……『転移魔法』みたいなものか。こっちでは装置として実用化されているらしい。

 ハイジによると、ポータルはダンジョンの各地にあり、地上に繋がるモノもあれば、未登録でどこに繋がるかわからないポータルもあるとか。一度だけ使用できる簡易ポータルとか、緊急脱出用とかもあるとか……ほんと、いろいろあるな。

 ダイバーギルド本部の奥に進み、『ポータルルーム』と呼ばれる広い部屋へ。

 そこに、カナデたちがいた。


「あ、逢魔……と、清掃人の方々ですね。道中、我々が護衛を致しますので、作業の方よろしくお願いします」

「ありがとうございます。『ドレッドノート』の方々に護衛していただけるのは安心です」


 カナデ、朱美さんが握手

 ハイジは興奮していた。


「轟正太郎さん、堂島鉄之助さん、三上かれんさん、炎堂カナデさん……すごい、日本トップのダイバーが、フル装備でぼくの目の前に……!!」

「なに興奮してんだ?」

「だ、だって逢魔くん、日本トップのダイバーだよ? 同い年とは思えない貫禄だよ!!」


 貫禄ねえ。

 轟正太郎は、紫色っぽい鎧にゴテゴテした弓を背負い、堂島はゴツい拳に大剣、腰には二本のハンドアックス、三上は杖、カナデは大斧だ。

 なるほどな。確かに、バランスは取れている気がする。

 カナデ達は打ち合わせをし、俺は少し離れた場所でポータルを眺めていた。すると、轟が近づいて来る。


「よう、逢魔。なんだ、清掃人のカッコ似合ってんじゃねぇか」

「どうも。それより、ちゃんと守れよ」

「フン。とりあえずちゃんと言っておくぜ」


 轟は、俺に指を突きつける。


「いいか。オレは無属性がダンジョンに入ることに嫌気が差してる。ダンジョンってのは、選ばれしモンの聖域だ。それを、力のねぇ奴が荒らすのは許せねぇ」

「…………」

「余計なことはすんじゃねぇぞ。わかったな」

「……なあ、轟」

「あん?」

「お前、ダンジョンが聖域って考えてんのか?」


 俺がそう言うと、轟は両手を広げて笑顔を浮かべた。


「そりゃそうさ。物語の世界みたいな魔獣退治!! 有り余る金銀財宝!! そして選ばれし者が使えるエレメント能力!! ははっ、最高のステージ、最高の聖域じゃねぇか!!」

「…………そっか」


 幸せな奴だ。

 ダンジョンが、どんな地獄かも知らない馬鹿野郎だ。

 

「なあ、逢魔……いいこと教えてやる」


 轟は、俺に腕を回して耳元で言う。


「チーム『ドレッドノート』は四人しかいないだろ。チームは五人制だから空きがある。これまで優秀なダイバーが何人も志願してきたが……全部リーダーのカナデがお断りした。理由、わかるか?」

「…………」

「お前だよ、逢魔。カナデはな、お前を入れたかったんだよ。へへ……お前が無属性でよかったぜ。ああ、カナデは任せろよ。幼馴染のお前じゃなく、オレがしっかり守ってやるからよ」

「…………」

「あん? お前、なんだその目」


 少し、考え直す必要があるかもしれない。

 俺は……この世界を救いたいけど、こんな救いようのない馬鹿まで救う必要があるのだろうか。

 ダンジョンは聖域? 金銀財宝? 選ばれた者?

 ふざけるな。

 俺は、十年間で何人もダンジョンで仲間を失った。

 確かに、こいつの言うことも一理ある。金銀財宝、おとぎ話みたいな魔獣、選ばれた者……若かった俺は、調子に乗ったこともある。

 でも、仲間が死んで変わった。ここは聖域なんかじゃない。生と死が隣り合わせの地獄なのだ。


「なんだお前、無属性のくせにオレと……っ」


 俺は、自分がどんな目をしていたのかわからない。

 でも、轟が息をのんで硬直したのだけは理解できた。

 轟の腕をそっと外し、俺は言う。


「お前が何考えようが自由だけど、仕事の邪魔だけはするなよ……行くぞ」

「……っ」


 カナデたちは、すでにポータルの元へ向かっていた。

 俺と轟は、二人で仲良くポータルに向かうのだった。

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