第5話
スーツを着て、大学の入学式へ。
電車を使えば十五分の距離で行けるので、今日は電車を使って行く。
駅まで行くと、偶然も偶然……ハイジがいた。
「あ、逢魔くん」
「よ、ハイジ」
スーツ姿のハイジ。名前がハイジだからか灰色のスーツだ。
ハイジ……身長が低く、華奢で女っぽい顔立ちのせいか、正直スーツが似合っていない。
そんなことは言わず、二人で電車に乗って大学へ。
俺たちの通う大学は、都内でもかなり大きな大学だ。入学式なだけあり、スーツ姿が目立つ。
俺たちは受付を済ませ、『入学式』と書かれた看板のある大講堂へ、。
「……やっぱ人多いな」
「入学式だからね。席は自由みたいだし、適当に座ろっか」
ハイジと並んで、真ん中あたりに座る。
すると、講堂が一気に騒がしくなった。
「あ……見て逢魔くん。あれ、炎堂カナデさんだよ」
「……だな」
カナデが入って来た。
いつものツインテールで、今日はスーツを着ている。何人か引き連れているけど。
「あれ、『ドレッドノート』だよ。すごい……この大学に入力するって話、本当だったんだ」
「ドレッドノート、ってカナデのチームだよな? 知ってるのか?」
「知ってるもなにも……有名じゃないか。チーム『ドレッドノート』は、高校一年生の同級生で結成されたチームだよ。炎堂カナデさんを中心とした、国内最高レベルのダイバーチームじゃないか」
「へー、そうなのか。カナデがねぇ……」
一応、俺も同級生で、同じ学校だったはずだが……ダンジョン出現による影響で、俺がいた頃とは記憶が違う。同級だが、俺は一緒に活動していなかったことになるな。
カナデとそのチームは談笑しながら座る。俺の近くの席だが、カナデは気付いていなかった。
そして、もう一度歓声が上がる。
「わ、見て逢魔くん」
「ん……今度は誰だ?」
青っぽいロングヘア、濃紺のスーツを着た女の子だった。
目元がキリッとしており、どこか厳しそうに見える。一緒にいるのは全員が女の子だ。
「あれ、『ワルキューレ』の霧氷刹那さんだよ。すごい、同じ大学だったんだ……」
「誰?」
「……お、逢魔くん。少しはダイバー雑誌を読んだ方がいいよ」
呆れられてしまった……まあ、情報収集のために雑誌は読むとしよう。
「霧氷刹那さん。炎堂カナデさんと同じ、最年少のS級ダイバーだよ。女性のみで構成されたS級チーム『ワルキューレ』のリーダーで、国内最強の『氷』エレメントの使い手らしいよ」
「へえ……」
確かに、ただ歩いているだけなのに隙がない。
デッラルテで言うなら、フェリアナの護衛騎士レベルか……かなりの強さだ。
すると、霧氷刹那はカナデに気付く。カナデも気付いた。
「刹那じゃん。ひさしぶり」
「ええ、ごきげんよう。同じ大学とは聞いていたけど、ギルド以外であなたと顔を合わせるなんて、妙な感じがするわね」
「そーね。ま、よろしく」
「……ええ」
互いに握手。
周囲の視線を独占している二人。霧氷刹那はカナデから離れ……なんと、俺の方に来た。
「失礼。ここ、空いてるかしら」
「ああ、どうぞ」
俺の隣は空いている。霧氷刹那が座ると、取り巻きの女子たちも座る。
俺は特に気にせず、受付の時にもらったパンフレットを読んでいた。ハイジは緊張しているのか、前を凝視したまま動かない。
「……質問しても?」
「ん、俺?」
「あなた以外にいる?」
「まあ確かに。で、なに?」
霧氷刹那を見ず、パンフレットを見ながら言う。
この大学、学食がかなり広い。値段も手ごろだし……うん、いいね。
「そのパンフレット、どこでもらえるの?」
「受付」
「……見せてくださらない?」
「……別にいいけど」
なんだ、こいつ。
まあ、パンフレットくらいで文句を言う俺じゃない。読み終わったし、霧氷刹那にパンフレットを渡す。
すると、霧氷刹那はブツブツ言いながらパンフレットを読んでいた……変なヤツ。
「お、逢魔くん、逢魔くん」
「なんだよ」
「その、き、緊張してきたね」
「いや、別に」
俺は欠伸をし、椅子にもたれかかる。
入学式のあとは、清掃人としてのアルバイトに行くか。
「ハイジ。入学式終わったらバイト行くか?」
「うん、初日だしね。一緒に行こう」
「ああ」
「アルバイト……」
と、霧氷刹那が俺とハイジを見てポツリと呟いた。
無視しようかと思ったが、俺は何となく見る。
すると、霧氷刹那は「えと」と呟き、パンフレットを俺に返してきた。
「アルバイト、やってるのね」
「ああ、清掃人だよ。ダンジョンの清掃人」
「……そうなの?」
「ああ」
会話はそれで終わった。
そして、入学式が始まる。
学長の話、お偉いさんの話、そしてカナデの挨拶……俺はぼんやりしながら聞く。
「…………くぁ」
欠伸が出た。
デッラルテでも、歴史の授業とかあったな……司祭のボーマンが、デッラルテの歴史とかを旅しながらしてくれたっけ。あんまり覚えてないけど……あいつは、いつも楽しそうに、やや興奮しながら俺に教えてくれた。
ボーマン。歴史好き、酒好き、女好きと司祭っぽくなかったけど……俺に酒を教えてくれたんだよな。
今は十八歳の身体だし、飲酒はできない。はあ……デッラルテで飲んだ蜂蜜酒、異空間に入れたような気もしたな……帰ったら探してみるか。
「ねえ」
「……え、ああ。何?」
今は……ああ、元ダイバーの大学講師によるお話か。興味はあるが、どうも眠い。
霧氷刹那は俺を見て言う。
「あなた、ダイバー?」
「違うよ。俺、無属性。アルバイトで清掃人。今日からここの大学生」
「……そう? それにしては、その……」
なんだか凝視されている気がした。
ああ、探られているな……めんどくさいけど、あまり気にされるのも嫌だ。
「俺が何か?」
「……気のせいかしら。ごめんなさい」
俺は意図的に、心の紐を緩める……俺の警戒心を見抜いての興味だったようだ。あえて警戒心を緩め、隙を見せたことで『タダ者じゃない』から『一般市民』くらいに格落ちしたようだ。
それっきり、霧氷刹那は俺を見ることはなかった。
そして、入学式が終わる。霧氷刹那はさっさと立ち上がり、俺に「パンフレット、ありがとう」と言ってスタスタ行ってしまった。
そして、代わりにカナデが近づいて来る。
「逢魔……刹那と何話してたの?」
「ん、ああ。パンフレット見せてって言うから見せただけ」
「……そう」
すると、カナデを抱き寄せるように肩を組んで、一人の男が現れた。
「おいおい、懐かしい顔だな。逢魔じゃねぇか」
「えーと……ああ、轟、だよな」
「んだよ、元クラスメイトのこと忘れんなよ。なあ、カナデ」
「離して。てか、いつも言ってるでしょ、触んなって」
カナデは轟の腕を外し、一歩ずれる。
轟正太郎。俺とカナデの高校時代のクラスメイトだが……どうやら、『ドレッドノート』のメンバーらしい。
すると他にも二人、近づいてきた。
「逢魔くん、久しぶり……」
「えーと、三上……だよな」
「……おう、久世」
「ああ、堂島」
三上かれん、堂島鉄之助。みんなクラスメイトだ。
ああ、そうか。この四人がチーム『ドレッドノート』なのか。
すると、轟が俺の前に立って言う。
「お前、両親の件でいろいろあったみたいだけど、そろそろダイバーになるとか考えてんのか?」
「いや、エレメント適正が無属性だったからな。今日からハイジと清掃人だ」
「……っぶ、っぎゃはははは!! おま、マジ? 適正ねぇのも笑えるけど、清掃人って、んな底辺なバイトすんのかよ!? いやぁ、貧乏人は大変だなぁ!! ぎゃっはっは!!」
めちゃくちゃ馬鹿にされた。
三上も「ちょっと、悪いわよ」と苦笑し、堂島は「む……」と腕組みをして困ったような顔をする。そして、カナデは轟の頭をバシッと叩いた。
「いって、なんだよ」
「いつも言ってるわよね。その品のない笑いやめろって、あと清掃人を馬鹿にするなって。あたしらに憧れてるダイバーもいるの。品のない言動はするな」
「フン。清掃人が底辺なのはマジだろうが。オレらみたいにエレメントのない底辺、そんな連中がダンジョンに入るなんて、オレは嫌だね」
轟は俺を馬鹿にしたように言うと、そのまま「じゃーな、掃除頑張れよ」と行ってしまった。
三上、堂島もその後を追い、カナデは困ったようにため息を吐く。
「悪かったわね。あいつ、エレメント至上主義に染まり始めてるみたいでさ」
「別にどうでもいいよ。お前も大変だな」
「ええ。さて、悪いけど行くわ。今日、これからダイバーギルド本部で新人ダイバーたちに講義するから」
そう言い、カナデは行ってしまった。
いつの間にか、講堂には俺とハイジしかいない。
ハイジは大きなため息を吐いた。
「ぶはぁ……ああ、生きた心地しなかった」
「なんだよ、急に」
「だって、『ドレッドノート』だよ!? ていうか、逢魔くん……どういう関係?」
「カナデとは幼馴染だ」
「ええええええ!?」
そんなに驚かなくても。
ハイジは興奮したように言う。
「『ドレッドノート』って、四人チームでね、五人制チームだからあと一人の枠が空いてるんだ。いろんな高位ダイバーが加入を求めたらしいけど、みんなダメだったらしいんだよ。どうも、リーダーのカナデさんが許可しないみたいでね……もしかして、逢魔くんのために席を空けてるんじゃない?」
「そんなわけないだろ。よし、バイト行くか」
「あ、待ってよ」
俺はハイジと一緒に、清掃ギルドへ向かうのだった。




