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現代ダンジョン最底辺の清掃員は今日も静かに世界を救う ~異世界から帰還した元勇者の二周目無双攻略記~  作者: さとう
第一章

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第5話

 スーツを着て、大学の入学式へ。

 電車を使えば十五分の距離で行けるので、今日は電車を使って行く。

 駅まで行くと、偶然も偶然……ハイジがいた。


「あ、逢魔くん」

「よ、ハイジ」


 スーツ姿のハイジ。名前がハイジだからか灰色のスーツだ。

 ハイジ……身長が低く、華奢で女っぽい顔立ちのせいか、正直スーツが似合っていない。

 そんなことは言わず、二人で電車に乗って大学へ。

 俺たちの通う大学は、都内でもかなり大きな大学だ。入学式なだけあり、スーツ姿が目立つ。

 俺たちは受付を済ませ、『入学式』と書かれた看板のある大講堂へ、。


「……やっぱ人多いな」

「入学式だからね。席は自由みたいだし、適当に座ろっか」

 

 ハイジと並んで、真ん中あたりに座る。

 すると、講堂が一気に騒がしくなった。


「あ……見て逢魔くん。あれ、炎堂カナデさんだよ」

「……だな」


 カナデが入って来た。

 いつものツインテールで、今日はスーツを着ている。何人か引き連れているけど。


「あれ、『ドレッドノート』だよ。すごい……この大学に入力するって話、本当だったんだ」

「ドレッドノート、ってカナデのチームだよな? 知ってるのか?」

「知ってるもなにも……有名じゃないか。チーム『ドレッドノート』は、高校一年生の同級生で結成されたチームだよ。炎堂カナデさんを中心とした、国内最高レベルのダイバーチームじゃないか」

「へー、そうなのか。カナデがねぇ……」


 一応、俺も同級生で、同じ学校だったはずだが……ダンジョン出現による影響で、俺がいた頃とは記憶が違う。同級だが、俺は一緒に活動していなかったことになるな。

 カナデとそのチームは談笑しながら座る。俺の近くの席だが、カナデは気付いていなかった。

 そして、もう一度歓声が上がる。


「わ、見て逢魔くん」

「ん……今度は誰だ?」


 青っぽいロングヘア、濃紺のスーツを着た女の子だった。

 目元がキリッとしており、どこか厳しそうに見える。一緒にいるのは全員が女の子だ。


「あれ、『ワルキューレ』の霧氷刹那さんだよ。すごい、同じ大学だったんだ……」

「誰?」

「……お、逢魔くん。少しはダイバー雑誌を読んだ方がいいよ」


 呆れられてしまった……まあ、情報収集のために雑誌は読むとしよう。


「霧氷刹那さん。炎堂カナデさんと同じ、最年少のS級ダイバーだよ。女性のみで構成されたS級チーム『ワルキューレ』のリーダーで、国内最強の『氷』エレメントの使い手らしいよ」

「へえ……」

 

 確かに、ただ歩いているだけなのに隙がない。

 デッラルテで言うなら、フェリアナの護衛騎士レベルか……かなりの強さだ。

 すると、霧氷刹那はカナデに気付く。カナデも気付いた。


「刹那じゃん。ひさしぶり」

「ええ、ごきげんよう。同じ大学とは聞いていたけど、ギルド以外であなたと顔を合わせるなんて、妙な感じがするわね」

「そーね。ま、よろしく」

「……ええ」


 互いに握手。

 周囲の視線を独占している二人。霧氷刹那はカナデから離れ……なんと、俺の方に来た。


「失礼。ここ、空いてるかしら」

「ああ、どうぞ」


 俺の隣は空いている。霧氷刹那が座ると、取り巻きの女子たちも座る。

 俺は特に気にせず、受付の時にもらったパンフレットを読んでいた。ハイジは緊張しているのか、前を凝視したまま動かない。


「……質問しても?」

「ん、俺?」

「あなた以外にいる?」

「まあ確かに。で、なに?」


 霧氷刹那を見ず、パンフレットを見ながら言う。

 この大学、学食がかなり広い。値段も手ごろだし……うん、いいね。

 

「そのパンフレット、どこでもらえるの?」

「受付」

「……見せてくださらない?」

「……別にいいけど」


 なんだ、こいつ。

 まあ、パンフレットくらいで文句を言う俺じゃない。読み終わったし、霧氷刹那にパンフレットを渡す。

 すると、霧氷刹那はブツブツ言いながらパンフレットを読んでいた……変なヤツ。


「お、逢魔くん、逢魔くん」

「なんだよ」

「その、き、緊張してきたね」

「いや、別に」


 俺は欠伸をし、椅子にもたれかかる。

 入学式のあとは、清掃人としてのアルバイトに行くか。


「ハイジ。入学式終わったらバイト行くか?」

「うん、初日だしね。一緒に行こう」

「ああ」

「アルバイト……」


 と、霧氷刹那が俺とハイジを見てポツリと呟いた。

 無視しようかと思ったが、俺は何となく見る。

 すると、霧氷刹那は「えと」と呟き、パンフレットを俺に返してきた。


「アルバイト、やってるのね」

「ああ、清掃人だよ。ダンジョンの清掃人」

「……そうなの?」

「ああ」


 会話はそれで終わった。

 そして、入学式が始まる。

 学長の話、お偉いさんの話、そしてカナデの挨拶……俺はぼんやりしながら聞く。


「…………くぁ」


 欠伸が出た。

 デッラルテでも、歴史の授業とかあったな……司祭のボーマンが、デッラルテの歴史とかを旅しながらしてくれたっけ。あんまり覚えてないけど……あいつは、いつも楽しそうに、やや興奮しながら俺に教えてくれた。

 ボーマン。歴史好き、酒好き、女好きと司祭っぽくなかったけど……俺に酒を教えてくれたんだよな。

 今は十八歳の身体だし、飲酒はできない。はあ……デッラルテで飲んだ蜂蜜酒、異空間に入れたような気もしたな……帰ったら探してみるか。


「ねえ」

「……え、ああ。何?」


 今は……ああ、元ダイバーの大学講師によるお話か。興味はあるが、どうも眠い。

 霧氷刹那は俺を見て言う。


「あなた、ダイバー?」

「違うよ。俺、無属性。アルバイトで清掃人。今日からここの大学生」

「……そう? それにしては、その……」


 なんだか凝視されている気がした。

 ああ、探られているな……めんどくさいけど、あまり気にされるのも嫌だ。


「俺が何か?」

「……気のせいかしら。ごめんなさい」


 俺は意図的に、心の紐を緩める……俺の警戒心を見抜いての興味だったようだ。あえて警戒心を緩め、隙を見せたことで『タダ者じゃない』から『一般市民』くらいに格落ちしたようだ。

 それっきり、霧氷刹那は俺を見ることはなかった。

 そして、入学式が終わる。霧氷刹那はさっさと立ち上がり、俺に「パンフレット、ありがとう」と言ってスタスタ行ってしまった。

 そして、代わりにカナデが近づいて来る。


「逢魔……刹那と何話してたの?」

「ん、ああ。パンフレット見せてって言うから見せただけ」

「……そう」


 すると、カナデを抱き寄せるように肩を組んで、一人の男が現れた。


「おいおい、懐かしい顔だな。逢魔じゃねぇか」

「えーと……ああ、轟、だよな」

「んだよ、元クラスメイトのこと忘れんなよ。なあ、カナデ」

「離して。てか、いつも言ってるでしょ、触んなって」


 カナデは轟の腕を外し、一歩ずれる。

 轟正太郎。俺とカナデの高校時代のクラスメイトだが……どうやら、『ドレッドノート』のメンバーらしい。

 すると他にも二人、近づいてきた。


「逢魔くん、久しぶり……」

「えーと、三上……だよな」

「……おう、久世」

「ああ、堂島」


 三上かれん、堂島鉄之助。みんなクラスメイトだ。

 ああ、そうか。この四人がチーム『ドレッドノート』なのか。

 すると、轟が俺の前に立って言う。


「お前、両親の件でいろいろあったみたいだけど、そろそろダイバーになるとか考えてんのか?」

「いや、エレメント適正が無属性だったからな。今日からハイジと清掃人だ」

「……っぶ、っぎゃはははは!! おま、マジ? 適正ねぇのも笑えるけど、清掃人って、んな底辺なバイトすんのかよ!? いやぁ、貧乏人は大変だなぁ!! ぎゃっはっは!!」


 めちゃくちゃ馬鹿にされた。

 三上も「ちょっと、悪いわよ」と苦笑し、堂島は「む……」と腕組みをして困ったような顔をする。そして、カナデは轟の頭をバシッと叩いた。


「いって、なんだよ」

「いつも言ってるわよね。その品のない笑いやめろって、あと清掃人を馬鹿にするなって。あたしらに憧れてるダイバーもいるの。品のない言動はするな」

「フン。清掃人が底辺なのはマジだろうが。オレらみたいにエレメントのない底辺、そんな連中がダンジョンに入るなんて、オレは嫌だね」


 轟は俺を馬鹿にしたように言うと、そのまま「じゃーな、掃除頑張れよ」と行ってしまった。

 三上、堂島もその後を追い、カナデは困ったようにため息を吐く。


「悪かったわね。あいつ、エレメント至上主義に染まり始めてるみたいでさ」

「別にどうでもいいよ。お前も大変だな」

「ええ。さて、悪いけど行くわ。今日、これからダイバーギルド本部で新人ダイバーたちに講義するから」


 そう言い、カナデは行ってしまった。

 いつの間にか、講堂には俺とハイジしかいない。

 ハイジは大きなため息を吐いた。


「ぶはぁ……ああ、生きた心地しなかった」

「なんだよ、急に」

「だって、『ドレッドノート』だよ!? ていうか、逢魔くん……どういう関係?」

「カナデとは幼馴染だ」

「ええええええ!?」


 そんなに驚かなくても。

 ハイジは興奮したように言う。


「『ドレッドノート』って、四人チームでね、五人制チームだからあと一人の枠が空いてるんだ。いろんな高位ダイバーが加入を求めたらしいけど、みんなダメだったらしいんだよ。どうも、リーダーのカナデさんが許可しないみたいでね……もしかして、逢魔くんのために席を空けてるんじゃない?」

「そんなわけないだろ。よし、バイト行くか」

「あ、待ってよ」


 俺はハイジと一緒に、清掃ギルドへ向かうのだった。

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