第23話
『頑張った方かな?』
周囲に、血が飛び散っていた。
倒れているのは『バリオンズ』の面々、そして『ライトメイツ』の面々だ。
武器がへし折られ、手足に巻き付いた包帯は腕や足を棒きれのようにへし折った。
まず最初に、アウローラの傘に包帯が巻き付いて破壊され、アウローラの手足に包帯が巻き付き、あっさりとへし折られ、壁に叩き付けられた。
クラッシュは、包帯が全身に巻き付いたが、自前の筋力で引きちぎる。そして、力比べと言わんばかりに包帯を掴んだが……強度が増した包帯を破ることができなかった。
そのまま、刃のような鋭さの包帯に前進を貫かれ倒れた。
カナデたちは、一瞬で敗北したアウローラたちを見て呆然とし……気付いたら、『ライトメイツ』と『バリオンズ』が包帯で薙ぎ払われた。
轟、三上、堂島に包帯が巻き付き、全身を砕かれた。
呆然とするカナデ、そして『ワルキューレ』の三人が包帯で薙ぎ払われ、壁に叩きつけられた。
残されたのは、カナデと刹那。
真っ青になり、動くこともできなかった。
『怖がってる? フフ』
スカルミリオーネは、玉座から動いていない。
全身から伸びた包帯が、全てを終わらせた。
武器を持つ手が震えていた。
カナデの頬を、包帯が撫でつける。
『アハハ。怖いねぇ。怖いねえ? アハハ、あはははははは!!』
笑っていた。
スカルミリオーネは、楽しんでいた。
そして……笑いがピタリと止まり、包帯が集まり……まるで『杭』のような形となった。
『じゃ、ばいば~い』
二本の杭が、カナデと刹那の顔面を貫こうと放たれた。
カナデも刹那も、目を閉じず……自分の命を奪う攻撃を見続けていた。
だからこそ、見逃さなかった。
「『召喚』」
背後から飛んで来た二本の剣が、杭を弾き飛ばしたのを。
『おや……誰かなぁ?』
カナデと刹那がゆっくり振り返る。
そこにいたのは、異形の仮面、黒衣、白髪に深紅の瞳、そして傍らに大きな犬を従えた青年。
「……スカルミリオーネ」
アトラトル。
その剥き出しで輝く深紅の瞳は、怒りに染まっていた。
◇◇◇◇◇
久世 逢魔
◇◇◇◇◇「
周囲の状況を見て、俺は一瞬で理解……やっぱり、この連中じゃ相手にならなかったか。
『ハンドレッド・ランカー』……世界最強のダイバーらしいが、スカルミリオーネ相手では悪すぎる。
「タル、全員回収。カナデたちと下がってろ」
『グルルルル……!!』
タルは、牙を剥き出しにして毛を逆立て、尾を剣にして威嚇していた。
怒る理由はわかる。なぜなら、タルの親である聖犬ルフィアーナを殺したのは……この『邪賊』スカルミリオーネだから。
「武装召喚──『治癒剣パメヤ』」
俺は『鑑定眼』で倒れている全員をロックオン、全員の真上に魔法陣を展開し、治癒剣を刺す。
そして、タルが走り出し、倒れているダイバーたちを咥え、一か所に集めようとした。
『おおお? その子……聖獣? こっちの世界にもいたんだ』
「……お前、こっちの世界だと?」
『ああ、そうだよ。ボクら、別の世界から来たんだ。フフ、前の世界の記憶はないけどねぇ、こうしてこっちにいるってことは、前の世界は滅んだのかなあ?』
胸の奥から、マグマのような怒りがわき出す。
冷静になれと、かつての仲間である『教授』が言う。
俺はキレると視野が狭くなるタイプだから、キレるなら静かにキレろとよく言われた。
『アハハ。キミ……あんまり驚かないねぇ。それに今の、こっちの世界の法則じゃない、キミ自身の能力かい? なんだっけ……エレメントだったかな? それとは違うねぇ』
「ペラペラやかましいやつだ……」
すると、大きな筋肉男を咥えて移動しようとしたタルに、包帯が放たれた。
『ガウウウ!!』
タルは尻尾の剣で包帯を薙ぎ払う。
俺は、カナデたちに近づいた。
「怪我は」
「……だ、だいじょぶ」
「わ、私も」
『鑑定』するが、怪我らしい怪我はない。
そして、タルが轟たち全員を回収。最後に、サイクロン、なんだっけ……を回収して地面に落とす。
「う、ぐ……なに、あんた」
「……下がってろ」
「あ、あんた!! あんたがアトラトルね……なに、あんた何者? てか」
「うるさい」
俺はサイクロン女を押しのけ、前に出た。
『アハハ。キミ、面白そうだね……ボクも本気で遊べそうだ』
「遊ぶ? はっ……馬鹿かお前。お前は、ここで、俺に、始末されるんだよ」
右手を上げると、スカルミリオーネの真上に巨大な魔法陣が展開され、そこから雨のようにメギストスが降り注いだ。
剣はスカルミリオーネを直撃、玉座が破壊され、包帯人間のようなスカルミリオーネが立っている。
『酷いなあ。挨拶もなしかい?』
「いらねーだろ」
俺は周囲に魔法陣を展開し、スカルミリオーネに言う。
「召喚』出そう、世界を守るための剣を。誓おう……同じ滅びは繰り返させないと」
◇◇◇◇◇
アウローラ
◇◇◇◇◇
アウローラは、目を見開いていた。
『アハハ!! すごいねキミ!!』
アトラトル。
日本の動画サイトで話題になった、謎のA級ダイバー。
そもそもA級ダイバーではないとか、エレメントでは説明のできない力だとか、海外の有名ダイバーが日本に潜入しているとか、いろいろな考察があった。
正直、興味はなかった。だが……アウローラは、目の前で戦うアトラトルを見て、目が離せなかった。
『突き刺せ、斬り殺せ、巻き付け、へし折れ!!』
包帯が杭となり飛び、刃のような鋭い包帯が幾重も振り下ろされ、拘束しようと無数の包帯が飛ぶ。
だが、アトラトルは。
「………」
無言。
仮面の右目にあるレンズが光っている。
身体を捻って包帯を躱し、飛んで来る杭は魔法陣から発射される剣と相殺され、刃の包帯はアトラトルが持つ剣によって斬り払われる。
そして、アトラトルは臆することなくスカルミリオーネに接近し、その身体を剣で斬る。
斬られた身体から、泥のようなモノが飛び散った。
「武装召喚──『巨神剣ダイノレックス』」
巨大な魔法陣がスカルミリオーネの左右に展開され、そこから出てきた直系一メートルはある『刃』が、スカルミリオーネの身体を貫通した。
『無駄だよ!! ボクの身体は──』
「泥の化身。本体は別にあるんだろ。遠隔操作……この部屋のどこかに、核がある」
『……え』
「お前は、泥に取り込んだものを複製、強化することができる。だが、取り込むことができるのは、本体が包めるほどの大きさ。お前の本体はそう大きくない。包帯を取り込んで、分身体の武器として使ってるんだろ」
『な……っ、おま、なんでそれを』
「余裕、消えたぞ」
エレメント能力ではない、それは確実だ。
クラッシュが立ち上がり、傷のない身体を見て驚き、戦うアトラトルを見てアウローラの隣へ。
「どうなってんだ?」
「見ればわかるでしょ……アトラトルよ。あいつが傷を治して、戦ってる」
「……アトラトル」
カナデは、自分たちを守るように立つ大きな犬を見る。
その優しそうな目を見て、何かを思いだしたように言う。
「……どこかで」
「カナデさん、どうしたの?」
「あ、いや……」
刹那が言うと、カナデは首を振る。
今は、アトラトルの戦いを見なければならないと、自分に言い聞かせた。
スカルミリオーネの攻撃は、苛烈さを増していた。
部屋中を覆うような杭、千本以上ある包帯の剣、拘束、それらを全てアトラトルが防御していた。
「嘘だろ……まさか」
「わ、ワタシたちを……守ってる?」
魔法陣から放たれる剣は、アウローラたちをも守っていた。
クラッシュは信じられないように言う。
「おいおい、アイツは何者だ? たった一人で、これだけの規模の攻撃を……『ハンドレッド・ランカー』の、シングルクラスの誰か……」
「違う。こんな大量の剣を使うヤツなんていない。でもこいつ……シングルクラスかも」
世界最強のダイバー、トップテン。アトラトルはその領域にいる。
『お前、消えろおおおおおおお!!』
「余裕が消えてるな」
アトラトルは、ステップを踏んで最小限の動きで包帯を躱す。
アウローラは、アトラトルの仮面に付属しているレンズに秘密があると気付いた。
「あの仮面のカメラ……あれで攻撃を分析してる。でも、分析してすぐ動けるもの? 元々のスペックが優れてる……?」
ブツブツ言い、アウローラは爪を噛む。
『ハンドレッド・ランカー』序列十三位。世界で十三番目に強いダイバーとして経験を積んできたつもりだが、アトラトルのことが理解できない。
アトラトルは言う。
「殺す前に答えろ。お前と同格なのは、残り十一匹で間違いないな?」
『おま……何者だよ、なんで』
「答えは一つだろ」
アトラトルが言うと、スカルミリオーネの動きが止まった。
『お前、まさか……』
「そうさ。俺は復讐者……お前たち、『十二獄迷宮主』は確実に始末する。そのために、デッラルテから戻って来たんだ!!」
それは、怒り。
灼熱の怒りが、アトラトルを燃やしていた。
「封印解除、八精霊王剣、神意召喚」
アトラトルの背後に、七つの魔法陣が展開される。
これまでの魔法陣とは違い、それぞれ形状が異なり、色も付いていた。
アトラトルは、深紅の魔法陣に手を伸ばす。そして、そこから現れたのは。
「……綺麗」
カナデの口から思わず声が漏れた。
現れたのは、深紅に輝く鳥。
フェニックス、鳳凰。巨大な翼を広げ、形が圧縮され……一本の『刀』となり、アトラトルの手に収まる。
真紅の刀身、柄、鍔……まるで炎が凝縮されたような刀。
火属性だからこそ、カナデには理解できた。
「……なに、あの馬鹿げたエレメント……違う、エレメントじゃない」
説明のできない炎。
エレメントでは説明のできない熱量が、一本の刀に凝縮され、アトラトルの手に合った。
「八神精霊剣、火の章……『神焔不滅鳳翼刀』」
『この、クソガキがあああああああああ!!』
恐るべき無数の攻撃が、アトラトルに襲い掛かる。
数千の刃、数千の杭、アトラトルに巻き付こうとする。
だが、アトラトルは無造作に剣を振る……それだけで、全ての包帯が蒸発した。
燃えたのではない、蒸発した。
『な、な……』
「確信した。今、この世界にいるお前たち十二匹は、デッラルテにいた頃より弱い」
『こ、この』
泥人形のような形だけとなったスカルミリオーネ。すると、アトラトルは再び剣を振り……砕け散ったスカルミリオーネの玉座を吹き飛ばした。
そこに、バケツ一杯程度の黒い塊が蠢いていた。
ただの塊ではない。泥の中に、銀色の球体がある。
「スライム。それがお前の本体だ」
『ひっ、ま、待った。じょ、情報、ボクらの情報あげる。残り十一匹、興味あるでしょ? こ、殺さないで』
アトラトルは、どこからかバケツを出し、スライムを掬う。
そして、どこまでも興味なさそうな声で言った。
「最後に教えてやる。俺はな……お前らのことで知らないこと、ないんだよ」
『待っ』
アトラトルはバケツに手を突っ込み、銀色の球体を掴み、握り潰した。
スライムは真っ黒になり、ジュワジュワと溶けるように蒸発……何も残らなかった。




