第24話
まず、一体。
第二相『邪賊』スカルミリオーネを討伐した。残り十一匹……さっきも言ったけど、デッラルテで会った時より弱くなっている。
口笛を吹くと、タルが近づいてきた。
部屋の最奥でポータルが発動……一階に通じるポータル。でも、あれで帰るわけにはいかない。
「待ちなさい!!」
と、なんだっけ……サイクロン? トルネードだっけ。
「……なんだ」
「アナタ、何者? 説明してくれるんでしょうね」
説明か。面倒くさいし、するつもりはない。
だから、簡潔に言う。
「今みたいな魔獣が十二体、そいつらは『十二獄迷宮主』って呼ばれている。今、討伐したから残り十一体が、この地球に存在する。そいつらを討伐しないと、地球が滅びる」
「はあ?」
「いいか、十二獄迷宮主がいるかもしれないダンジョンを探せ。そして、そこを危険個所に指定しろ。俺が乗り込んで、倒す。期限は十年だ」
「はああ?」
「俺の詮索はするな。アトラトル……その名前でいい」
「はあああ?」
「……できることなら、誰も死ぬな」
「え……」
俺はタルに乗る。すると、カナデが言う。
「待って!!」
「……なんだ」
「ねえ、あんた……もしかして」
カナデは、何を言おうとしているのか。
もしかして? なんだ、もしかしてって……まさか。俺に気付いたのか?
俺は何も言わず、タルに命じて来た道を引き返した。
そして、テレポストーンを破壊。ダンジョンから自宅の地下室へ転移した。
「……はあああああ」
偽装を解き、小さくなったタルを抱っこして、床に寝転がった。
「まずは、ひとつ」
残り十一体。
大丈夫。このレベルなら、俺一人でもなんとかなる。
そう呟き、俺はタルを抱っこしたまま目を閉じた。
◇◇◇◇◇
炎堂 カナデ
◇◇◇◇◇
最下層のポータルは、一階層に繋がっていた。
アウローラ、クラッシュはダンジョンの踏破を報告。カナデたちは、リーダーだけ報告会に出ろとのことで、ダイバーギルド本部のギルド長、円城寺八房の元へ。
アウローラは、面白くなさそうに言った。
「アトラトル。アイツが全てやったわ」
「……どういうことだ?」
「オレが説明する」
クラッシュが説明する。
自分たちでは最下層のボスに敵わなかったこと。アトラトルが現れ討伐、踏破したこと。そして、十二獄迷宮主と呼ばれる魔獣が残り十一体いて、それらが存在し続けると地球が滅ぶこと。
アウローラは、つまらなそうに言う。
「アトラトル。あれ、ダイバーだけど普通じゃない。エレメントでは説明のできないチカラを持ってる……シャクだけど、ワタシより強い」
「それと、今回はアトラトルのおかげで何とかなったが……『シングルナンバー』の力も必要になるだろうぜ。正直、力不足を実感した」
クラッシュが言うと、アウローラは「フン」とそっぽ向く。
八房は言う。
「……アトラトル、か。A級ダイバーではないことは確定したが……」
「…‥そういえば」
と、カナデがポツリと呟き、全員がカナデを見た。
「こっちの世界、とか言ってた……もしかして、別の世界から来たのかも」
「「「「「「……」」」」」」
肯定も否定もなく、この日は解散となった。
◇◇◇◇◇
カナデは、久しぶりに自宅へ帰ろうと歩いていた。
「…………」
思い返すのは、今日の経験。
何もできなかった。命の危機があった。だが……生きている。
不思議なことに、死ぬ気はなかった。自分の力で切り抜けるとうぬぼれていたわけではない。
「……アトラトル」
アトラトルが来ると、何となく思ってしまったのだ。
そして、来てくれた。
世界最強レベルのダイバーですら太刀打ちできなかった魔獣を一蹴した。
自宅近くになり、考えるのをやめる。沈んだ顔をすれば家族が心配する、そう思ったからだ。
そして、家に到着した時……隣の家のドアが開いた。
『わうわう!!』
「わかったわかった。近所迷惑だから鳴くなって、散歩……ん?」
逢魔だった。
子犬にリードを付けており、これから散歩に行くのは明白だった。
カナデは、逢魔をジッと見つめる。
「あのさ、今日……どこにいた?」
「いや、挨拶もなしになんだよ。今日はずっと家にいたぞ……」
「あ、ああごめん。逢魔、こんばんは」
「お、おう……」
妙な順番の会話になってしまい、カナデも逢魔も黙りこむ。
すると、タルがカナデの足元へ。
『くうん、くううん』
「ん……ふふ、よしよし」
タルを撫で、カナデは……その目が、どこか見おぼえのある眼だと気付いた。
「……この目。やっぱり」
「おい、なんだよ」
「ねえ逢魔。アトラトルって知ってるよね」
「ああ、ネットで見たよ。投槍器だっけ? 投げてるのは剣だけど」
「……アンタ、知ってる」
「だから、ネットで」
「……そうじゃない。ねえ、逢魔……何か隠してる?」
「いや、なんだよ隠してるって……そりゃ隠し事の一つや二つあるぞ」
「何?」
「いうわけないだろ。隠してるから、隠し事だし」
「…………ふーん」
「よくわかんねーけど、明日もバイトなんだ。お前も、ダイバー活動頑張れよ」
そう言い、逢魔は行ってしまった。
その背中を、カナデは見えなくなるまで見送る。
「…………逢魔、なのかな」
◇◇◇◇◇
久世 逢魔
◇◇◇◇◇
「……っぶねぇ」
俺は、カナデが探っていることに気付き、怪しまれないよう演技をした。
今日は家にずっといた……たぶん怪しまれていない。
隠し事はある。これは事実だが、大したことのない隠し事と認識させた。
「そういやタル……お前、カナデに気付かれそうになってたな」
『わう?』
「……まあ、デカくならない限りバレないとは思うけど」
これからはもっと気を付けないといけないな。
俺は、タルと散歩をしながら、夜の星空を見上げた。
「……デッラルテの星空。あっちは月が三つあったっけ」
見上げると、月は一つしかない。
でも……眩く輝く星は、地球もデッラルテも同じだ。
「守るよ、フェリアナ。俺はこの世界を、守ってみせる……」
空に向かって手を伸ばす。
星はつかめない。でも……この世界の命運を、この手に掴んだような気がした。




