第21話
俺は自宅の地下室で、タルにエサをやっていた。
「タル。今日は、ダイバーギルド本部ダンジョンの最深部に行く……話によると、カナデたちも行くみたいだ」
『わう?』
「……死なせたくない。恐らく、あのダンジョンの最深部にいる魔獣は……」
バオファオがいたということは、そいつを生み出したのは間違いない。
『十二獄迷宮……そして、そこに潜む『十二獄迷宮主』」
十二獄迷宮。
デッラルテが滅びた原因である、十二のダンジョン。
その最深部に潜む、十二の魔獣。それらがデッラルテから生命力を吸い取り続けたせいで、滅んだ。
それを知るのに、俺は八年かかった。そして、二年で十二のダンジョンを踏破したが……間に合わなかった。
最後の魔獣を討伐した時、すでにデッラルテは死を迎えていた。
それに連なる生命全てが滅び、デッラルテ全てが滅んだ。
「…………」
『くぅん……』
「大丈夫。この世界は、手遅れじゃない。大丈夫……今の俺なら」
また、十二のダンジョンを攻略する。
そのうちの一つ……『ダイバーギルド本部ダンジョン』に潜むのは。
「第二相、『邪賊』スカルミリオーネ。『ハンドレッド・ランカー』がどれだけ強いのか知らないけど……勝てるかどうか」
『わう!!』
「ああ。行かなきゃな……死なせたくない」
カナデ、刹那、堂島に三上……轟もか。それに、刹那のチームメイト。
他にも、ダンジョンに潜るダイバーもいるだろう。鉢合わせする可能性は高いが、死なせたくない。
俺はタルを撫でる。
そして、タルを異空間に入れ、ポケットから『テレポストーン』を取り出した。
「百八十階層から、三百八十階層へ、そして四百七十階層に転移して、五百階層に行く……よし、『偽装』」
俺は『アトラトル』へと変身し、テレポストーンを握り砕く。
そして、一瞬の浮遊感……からの、ダイバーギルド本部ダンジョン、百八十階層に到着した。
昨日、清掃をしたついでに転移装置を百八十階層まで置きに行った。
転移したあと、転移装置を回収……これで、次にテレポストーンを砕いた時、転移するのは自宅の地下室になる。
「よし……行くか」
ダイバーギルド本部ダンジョン、今日、必ず踏破する。
◇◇◇◇◇
ダイバー連合部隊
◇◇◇◇◇
ダイバーギルド本部ダンジョン、百八十階層。
ポータルから出た広い空間に、二十名ほどのダイバーが集まっていた。
全員がフル装備。そして高位ダイバー。中でも特に強いのは二人。
「よーし、ではこれより三百八十階層を経由して、四百七十階層へ、そして最深部である五百階層へ向かい魔獣を討伐……ダンジョンを踏破する!!」
『アトミック・タンカー』クラッシュ・キングコング、そして『竜巻の女帝』アウローラ・ディルン。
カナデと刹那、そしてチーム『ライトメイツ』のリーダー、白井ヒカル。『バリオンズ』のリーダー、黒田誠一は前に出た。
「チーム『ドレッドノート』了解」
「チーム『ワルキューレ』了解しました」
「チーム『ライトメイツ』了解です」
「チーム『バリオンズ』了解だ」
リーダーが返事をする。クラッシュはニカッと笑う。
「気を抜いてリラックス……とはいかんが、オレもアウローラもいる。固くならずいこうぜ!!」
「「「「……」」」」
四人のリーダーは頷く。やはり、緊張しているようだ。
それもそのはず……長き歴史のあるダイバーギルド本部ダンジョン、その最難関ダンジョンを今日、踏破するというのだ。
選ばれた国内最強チームたちは、緊張している。
「……言っておくけど、あなたたちは雑魚専門。大物はワタシがやるから。クラッシュ、いいわよね」
「オウ。わかってるよ」
「……え、どういう」
カナデが首を傾げると、アウローラがジロリと見る。
「そのままの意味。最深部近くなると、雑魚も多くなる。クラッシュが雑魚散らしするけど、手が足りない場合の補佐役として、アナタたちがいるの」
「おいおい、言い方。あ~……オレの補佐ってのはマジだが、お前たちにも期待してるぜ。ウシ、行くか!!」
アウローラがスタスタ歩き出す。日傘を差し、ここが百八十階層ということも気にしていないようだ。
それぞれのチームも、武器を構えて歩き出す。
轟は、軽く舌打ちして言う。
「チッ……生意気だぜ。なあ」
「静かにしろ」
堂島に言われ、轟は「へいへい」と黙り込む。
三上は、カナデに言う。
「世界ランカーの上位は、チームを組まない、組んでも一人か二人って聞いたけど……あの二人はチームを組まないみたいね」
「そうね。なんでかしら?」
首をかしげると、『ライトメイツ』の白井が近づいてきた。
カナデたちより年上。二十代半ばのヒカルは、カナデたちに講義をするように言う。
「『ハンドレッド・ランカー』の上位はみんな、エレメント能力者としても覚醒し、レベル百を超えた超越者。チームを組むより、ソロで動いた方が効率的って話よ」
「そ、そうなんですか?」
「ええ。噂では、海外企業の技術と、SSレートを超える魔獣素材で作った専用装備で、単独でSSSレートを狩ることもできるとか」
「と、トリプル……」
カナデは、自分と同い年くらいのアウローラの背中を見る。
クラッシュもだが、二人は武器らしい武器を持っていない。アウローラに至っては日傘しか持っていない。
「……アトラトルみたいに、剣でも隠してるのかな」
アトラトル。カナデは、その悲し気な目を思いだす。
そして、刹那が言う。
「カナデ。気を引き締めて……来る」
「!!」
すると、通路からゴブリンが飛び出してきた。
カナデは斧を構えようとするが……。
『──ッカ』
『……ゥゲ』
アウローラに近づいた瞬間、崩れ落ちた。
何もしていない。アウローラは視線を向けもせず、スタスタ歩く。
他にも、何匹も魔獣が飛び出してはアウローラに襲い掛かるが、近づくだけで魔獣は倒れ、ダンジョンに吸収される……吸収されるということは、死んだということ。
近付いただけで、死んだ。
「な、なに……今の」
「……死んだ? どういう」
「そこ、詮索しないで前に出なさい。雑魚はアナタたちの仕事。日本のダイバーがどれだけ強いか、見せてもらえる?」
アウローラに言われ、カナデたちは前に出る。
「『ドレッドノート』、いつも通りに」
戦いはもう、始まっている。
◇◇◇◇◇
ダイバーギルド本部ダンジョン、地下三百八十階層。
チーム『バリオンズ』リーダー、黒田誠一はスマホの地図を確認していた。
「……くそっ」
黒田誠一。年齢三十二歳。S級ダイバーであるが、ここ最近は地下二百階層付近で素材収集だけを行い稼いでいる。中堅と言えば中堅で実力もあるが、目立った活躍のないダイバーだった。
これでいい、とも思っていたが……若手がメキメキ力を付け、もてはやされるのを見て焦りを感じ始めている。それはチームメイトも同じなのか、今回の探索に自ら志願し、ここにいる。
黒田は、いいところを見せようと、クラッシュの隣に並ぶ。
「案内はオレたちがします!!」
「オウ。アリガトよ、でも前に出過ぎるなよ?」
クラッシュが黒田の前に手を伸ばす……すると、天井から黒田を狙った『蛇』が落ちて来た。それをクラッシュが掴み、頭を潰す。
「敵だな。こいつは……毒蛇だな」
「なっ……」
上を見上げると、天井に大量の蛇が這っていた。
すでにカナデたちは武器を構え、落ちてくる蛇めがけて攻撃をしている。
黒田も、慌ててナイフを出すが……遅かった。
「くあっ!?」
落ちてきた蛇に、首筋を噛まれてしまった。
噛まれた箇所が黒くなり、黒田の全身を寒気が襲う。
「リーダー!!」
黒田のチームで回復役の女性が、水属性エレメントの力で毒を浄化する。だが……毒の威力が凄まじく、治癒しきれない。
すると、クラッシュが黒田の首筋に触れる。
「解毒終わり。どうだ?」
「え……」
毒が、消えていた。
驚く黒田。クラッシュは言う。
「ハハハハハ。見た目がこんなだから勘違いされるが、こう見えて水属性、回復はお手の物さ」
「…………」
「まあ、回復だけじゃないがね」
クラッシュは、通路の奥から這ってきた巨大な蛇……『マザーバイオスネーク』に向かって行く。
指をコキコキ鳴らし、大口を開けてクラッシュを丸呑みしようとする蛇の顎を掴むと、なんとそのままねじ切ってしまった。。
「フィジカルには自信があるんでね。ハハハハハ」
「は、ははは」
黒田は、いいところを見せようと思ったが……何をしてもいいところは見せられない。今、できることだけをしようと決意するのだった。




