第19話
「……よし」
俺は、自宅の地下室で異空間に収納してある道具の整理をしていた。
十年以上、入れっぱなしの魔道具、デッラルテで作った薬品、いろいろな武器防具など、無造作に突っ込んであるものを整理するのはかなり大変だった。
だが……使える道具がいくつかあった。それを、異空間に収納し、取り出しやすい位置に置いておく。
「……恐らく、もうすぐだ」
俺は、清掃人としてのバイトを続けながら、ダイバーギルド本部ダンジョンの調査も進めていた。
現在、四百七十階層まで行けるようになった。
三百八十階層から、四百七十階層まで行けるポータルを見つけたおかげで、調査もかなり捗っている。
ちなみにカナデや霧氷刹那たちのチームはもうすぐ三百階層に行くみたいだ。
「あいつらの配信を見る限り、地道に進めてるようだけど……」
『わうわう』
タルを撫でつつ、俺はフェリアナに協力して作った魔道具、『簡易転移装置』を手に取る。
気になるのか、タルがクンクンと装置の匂いを嗅ぐ。
「気になるか? こいつは転移魔法が込められた魔道具でな、この『テレポストーン』を砕くと魔法が発動して、この転移装置のあるところに転移されるんだ。つまり……」
俺は転移装置を地下室の床に置く。
そして二階に移動し、ビー玉ほどの『テレポストーン』を握り砕く。
すると、魔法が発動し、俺は一瞬で地下室へ。
『わうわう、わうわう!!』
「はは、驚かせたな。つまり……このテレポストーンを使えば、いつでも家に帰れるってわけだ。なかなか便利だろ?」
というか、存在を忘れていた。
フェリアナが考案し、ドワーフのダンバンとエルフのシャンティアが協力して作った魔道具だ。危険なダンジョンでいつでも帰れるように……と、デッラルテに転移して二年目くらいの時に作ったんだよな。
でも、力を付け、ダンジョンで危険に会うことが少なくなり、この魔道具の出番もなくなった。ダンジョンは最深部のボスを倒すと、地上に通じる魔法陣が展開されるからな。
だが……これは使える。
「タル……恐らく、ダイバーギルド本部ダンジョンの最深部は地下五百階だ。そこに、『核』の一つがある……それを潰しに行く」
『……くぅん』
「大丈夫。俺とお前ならやれる。恐らくだけど……こっちの魔獣は、デッラルテほどの強さじゃない」
これは、ずっと思っていた。
デッラルテにいる魔獣と、地球の魔獣は同じだ。だが……地球の魔獣は、デッラルテに比べると弱い。もちろん侮れない魔獣もいるが。
「大丈夫。いける……俺なら、いける」
一人、いや……俺とタルで、地球を救うんだ。
◇◇◇◇◇
大学で講義を受け、ハイジと一緒に学生食堂に行くと、カナデと刹那、轟に三上に堂島、そして……えーと、刹那のチームメイト三人がいた。
全員で大きなテーブルを一つ使い、何やら真面目そうな顔で話をしている。
「うわぁ~……壮観だねぇ」
「お、ハイジ。今日の日替わりランチ、スタミナ丼だって。よし、大盛で生卵付きを……」
「もう!! 逢魔くん、あっち見なよ。国内の十代最強のチームが二つ、一緒のテーブルにいるんだよ?」
「まあ、めちゃくちゃ目立ってるな」
そりゃもう、とんでもなく。
大学生でダイバーは珍しくない。この百人以上入る学生食堂の三分の一以上はダイバーだろう。
俺とハイジは日替わりを頼み、空いている席を探す……すると。
「あら、逢魔さんにハイジくん。よろしければ相席いかが?」
「あれ、刹那……アンタ、逢魔と仲良かったっけ」
「ええ、少しね」
ハイジは「ど、どうしよう」と俺を見るが、俺は首を振る。
「いやいや、どう考えてもキャパオーバーだろ。そのテーブルに八人、俺とハイジ入れたら十人。狭いのは嫌だから遠慮しておく」
「あら、そう?」
「別に狭くないわよ。ほら、座っていいって」
「遠慮する。察しろ……目立ってるんだよ、お前ら」
「そう?」
カナデは無自覚なのか、周囲を気にしていない。
すると轟が言う。
「悪いな逢魔。マジな話してるから、部外者は遠慮してくれ」
「わかってるって」
轟は、シッシと虫を払うような手ぶりをする。
堂島、三上は「すまん」とばかりに手を軽く振った。刹那のチームとは面識がほとんどないので視線も合わせない。
俺とハイジは窓際の席へ。
スタミナ丼を食べながら、俺はこそっとカナデたちの話を聞く。
「で、四百七十階層へのポータルが見つかったって話、上層部は何て?」
スタミナ丼を吹きそうになった。
思わずむせると、ハイジが「だ、大丈夫?」と水を差しだしてくる。
水を飲み、俺は考える。
(……俺の見つけたポータルだよな。おかしい、三百八十階層にあるポータルだぞ。カナデたちが見つけたのか?)
カナデたちは、まだ二百階の中盤くらいを探索しているはずだ。
「まさか、海外から視察に来た『ハンドレッド・ランカー』が見つけるなんてね……」
(……ハンドレッド、ランカー?)
聞きなれない言葉だった。
俺はハイジに聞く。
「な、ハイジ。『ハンドレッド・ランカー』ってなんだ?」
「ダイバーのランキングだよ。チームランクとは別に、個人のランキングのことだね」
「へえ……そういや、カナデのチームも世界ランクに入ったんだよな」
「うん。でも……チームのランキングと、個人のランキングは全く別物だよ。個人のランキングで日本人は五人しか登録されていない。海外のエレメント能力者は、それくらい桁違いに強いんだ」
「へー」
ハンドレッド・ランカーは、世界最強の百人らしい。
どれくらい強いのかはわからんけど……うーん。
「ちなみに、ハンドレッド・ランカーのトップテンはみんな、レベル百を超えたダイバーらしいよ」
「ダイバーのレベルって、百が上限じゃないのか?」
「噂だけど……レベルの上限を超える方法があるとかないとか。まあ、ネットの噂だけどね」
レベルね……ゲームじみてるな。
まあ、俺には関係ないか。
カナデの話に再び耳を傾ける。
「『ハンドレッド・ランカー』序列第二十五位と、十三位だっけか? クソが……海外のランカーだか知らねぇが、日本のダンジョンで好き勝手やりやがって」
轟が言う。なるほど……そいつらが三百八十階層で、四百七十階層に繋がるポータルを見つけたのか。
堂島が言う。
「……ハンドレッド・ランカーのチームが、オレたち、そして霧氷のチーム、そして他のチーム。同行を依頼してきたか。どうやら、ダイバーギルド本部ダンジョンを踏破するつもりのようだな」
飲んでいた水を吹き出しそうになった。
またむせてしまい、ハイジが「ど、どうしたの?」と水を差しだす。
カナデは言う。
「ハンドレッド・ランカーのお誘い、断るわけにはいかないでしょ。ね、刹那」
「そうね……世界レベルのダイバーがどれだけ強いか見るチャンス。でも……」
「アトラトル、ね。アタシたちにはまだ早いって忠告だけど」
カナデは迷っているように見えた。
すると轟が言う。
「おいおい、あんな胡散臭い仮面野郎の言うこと、いつまでも律儀に聞く必要ねぇだろ。オレらだって強くなってるし、ハンドレッド・ランカーの同行なんてダイバーにとって最高の名誉だ。それに、配信の許可も出てるしな」
「アンタ、真面目になったと思ったのに……」
「ま、まあまあカナデ。配信はともかく……わたしは、世界レベルを見てみたいな」
三上が言うと、刹那のチームメイトもウンウン頷く。
そして、ポニーテール女が言う。
「お嬢様。そちらの……轟でしたか。彼の言う通り、アトラトルにいつまでも縛られる理由はありません。同行すべきです」
「……そうね」
「アタシたちも、そうするべきかしらね。よし……正太郎、かれん、鉄之助。同行するわよ。準備しておくように」
ここまで聞き、俺はため息を吐きたくなった。
世界レベルがどれほどなのかわからないけど……五百階層にいる『アイツ』を倒せるかわからない。
余計なことをされる前に、俺が行くしかない。
「逢魔くん、どうしたの?」
「いや……今日もバイトだな」
「うん。エリアが増えて大変だけど、やりがいあるよね」
ハイジとの会話は落ち着く……ほんと、いいやつだよこいつは。
◇◇◇◇◇
講義を終え、ダイバーギルドに向かうと……そこには多くの人がいた。
「わあ……!! ね、ね、逢魔くん。これってアレだよね、ハンドレッド・ランカーの!!」
ハイジは、昼休みに『ハンドレッド・ランカー』が日本に来たことを知り、興奮していた。
ついさっきネットニュースで発表されたようだ。世界レベルのダイバーが、日本の最難関ダンジョンを攻略すると。
その同行者に、カナデたち、刹那たち、他にも有名なチームが同行するようだ。
ハイジは興奮しながら言う。
「ね、ね、すごいよ!! ハンドレッド・ランカー序列二十五位と、十三位が来てるんだって!! うあぁぁ、サインもらえないかなああああ!!」
「こ、興奮しすぎだっつーの……そんなにすごいのか?」
「当り前だよ!!」
「ひっ……す、すまん」
あまりの圧力に一歩下がってしまった。こっちの世界に戻って来て一番ビビったかもしれん。
ハイジは言う。
「序列二十五位、『アトミック・タンカー』クラッシュ・キングコング!! それと、十代にして世界最高レベルの風使い、序列十三位『竜巻の女帝』アウローラ・ディルン!! あああ、すごい、すごいよ逢魔くん!! 一目見たい!!」
こ、こんな興奮するハイジ、初めて見た。
「えと、アトミック……? サイクロン? 覚えきれん」
「ダイバーの常識でしょ!! 『ハンドレッド・ランカー』の名前、二つ名、エレメント、戦術はある程度公開されてるから、暗記しなきゃ!!」
「す、スミマセン……」
な、なんだよこの圧力……ずっと思ってたけど、ハイジはダンジョンオタクというか、ダイバーマニアというか、かなり知識すごいぞ。
すると、俺の背後から迫って来た大きな手が、俺の肩を叩く。
「ハハハハ!! 暗記とまではいかないが、名前は知ってもらえるとありがたいね」
「えと……はい」
「邪魔。どいて」
「はあ、すんません」
ガチムチに浅黒い肌、ドレッドヘアにサングラスをした男と、俺より身長の低いゴスロリドレスを着た女の子が俺を押しのけた。
悪意を感じなかったから手を無視したけど……こいつら。
「あがががががががが!! ああああ、アトミック、タンカー!! ささ、サイクロン、ビューティーぃぃぃ!!」
「お、おいハイジ、さっきからキャラ崩壊しまくりだぞ。どうしたんだよ」
「こ、ここ、この二人、せせ、世界レベル、ハンドレッド・ランカーだよおおおおおお!!」
「あー、そうなのか」
ハンドレッド・ランカー序列二十五位『アトミック・タンカー』ことクラッシュ・キングコング。
同じく序列十三位『竜巻の女帝』アウローラ・ディルン。
クラッシュは、俺を見てサングラスをずらした。
「へえ、キミ……なかなか面白いね。オレらを見て何とも思っていないのか?」
「え、いや、デカいなあと」
「ハハハハハ!! 確かに、デカいな」
「オッサン、行くわよ」
アウローラは、俺をチラッと見て歩き出す。日傘を差しているせいか、少し大きく見えた。
すると、ギルド入口にいたダイバーやテレビ局のカメラが一斉に向いた。
そして二人に殺到。何やらインタビューを始める。
「おー、有名なんだな。なあハイジ……ハイジ?」
「…………」
ハイジは気絶していた……こいつ、キャラ崩壊しすぎだろマジで。




