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現代ダンジョン最底辺の清掃員は今日も静かに世界を救う ~異世界から帰還した元勇者の二周目無双攻略記~  作者: さとう
第一章

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第17話

 ◇◇◇◇◇

『ドレッドノート』

 ◇◇◇◇◇


 チーム『ドレッドノート』は、二百三十階層にいた。

 

「おおおおおおお!!」


 カナデは大斧を振り回し、自分より遥かに巨大な大斧を振るう階層守護者(ガーディアン)である『キングミノタウルス』と斧を合わせていた。

 そこに、巨大な水球を放つ三上かれんが混ざり、大剣でミノタウロスの足を切りつける堂島鉄之助が、そして跳躍し紫電を纏った矢を連続で放ち、ミノタウロスの目に矢が何本も命中。

 崩れ落ちたミノタウロスの頭に、灼熱に染まった斧が振り下ろされ、両断。

 ミノタウロスは討伐。カナデたちは二百三十階層へ到達した。


「はぁ、はぁ、はぁ……解体、急がないと」


 喜びよりも、目の前の素材。

 カナデたちは専用のナイフで、ミノタウロスのツノ、牙、骨を取り出す。

 解体しながら、カナデは轟に言う。


「正太郎。アンタ……配信しないの?」

「あ?」


 正太郎はここ最近、配信を休みがちだった。

 もちろん、守護者との戦いはドローンカメラが撮影している。帰ったら編集し、自分のチャンネルで公開するのだが……最近は、雑談配信ばかり。

 轟はフンと鼻を鳴らす。


「別に、忙しいからな。しばらく雑談だけってリスナーにも言ってるし問題ねぇよ」

「……そ」


 カナデは、轟に見えないよう微笑んだ。

 カナデだけじゃない。三上も、堂島も同じ。

 

「…………二百三十、か」


 現在の、カナデたちの最高到達地点だ。

 三百八十階層の魔獣に手も足も出ず、アトラトルに「まだ早い」と言われて一か月が経過。

 その間、カナデたちは強くなった。


「む……このミノタウロスのツノ、鍛えればいい剣になりそうだ。オレの装備にしていいか?」


 堂島は、百キロ以上ありそうなミノタウロスのツノを片手でお手玉する。

 エレメントの力が全身に駆け巡っているのがカナデにもわかる。

 三上は、ミノタウロスの牙を集めて袋に入れながら言う。


「わたしたち……強くなったね」

「だな。へへへ、階層重ねるごとにエレメント能力は強くなるって言うけど、スゲー実感してるぜ」


 轟の手に紫電が集まり、バチッと放電する。

 エレメント所持者は、エレメントの力を使えば使うほど強化される。威力、魔力の保有量、力の規模などが成長していくのだ。

 それらは、ダイバーギルドが開発した『レベルチェッカー』によって見ることができる。レベルは決して誤魔化すことができない、ダイバーとしての経験値。

 一応、プライバシーでもあるのでレベルを隠す者もいる。配信者の中にはレベルを公言する者も多い……例えば。


「そういやオレ、レベル47に上がってたぜ。へへへ、十代でレベル50超えとか、前人未到かもな!!」


 轟である。

 三上は苦笑する。


「そ、そうだね……」


 ちなみに。三上かれんのレベルは53であった。

 そして、レベル55の堂島はカナデに言う。


「レベルか……そういえば、ダイバーの最高値とされるレベルは100だが、ダンジョンが発見され調査が始まり、ダイバーという存在が生まれてから確認されたのは、たったの三人と聞いた。アトラトル……奴ももしかしたら、『超越者』なのかもしれんな」

「……さあね」


 一般的なダイバーはレベル1から始まり、レベル20までは簡単に上がる。

 だが、そこから上げることはかなりの努力が必要だ。

 そして、必要なのは才能……ダイバーなり、引退するまでの平均レベルは30~40程度。十代でレベル50近い『ドレッドノート』は、まさに才能の塊と言える。 

 カナデは、ミノタウロスの骨を掴み、強く握る。


「もっともっと、強くならないと……」


 アトラトルに、認めてもらえる。

 カナデはいつの間にか、自分を救ってくれたアトラトルに憧れ、その背中を追っていた。

 炎堂カナデ。ダイバーレベルは63……まだまだ成長中である。


 ◇◇◇◇◇

 霧氷 刹那

 ◇◇◇◇◇


 刹那たちは、二百三十五階層で魔獣と戦っていた。


「右、左、背後」

「「「ヤー!!」」」


 刹那の命令。一つの単語を適当に喋っているだけのようだが、チームには伝わる。

 レンゲの風の矢、マイの闇を帯びた拳、ランジュの炎の盾。

 それぞれの攻撃が、向かって来る魔獣たちを迎撃する。

 チームメイトが魔獣を押さえている隙に、通路の奥にいる司令塔である『オーダーゴブリン』に向かって、カナデは地面を滑るように移動する。

 実際に、滑っている。地面を凍らせ、『ワルキューレ・コーポレーション』が刹那専用に開発した特別なブーツにより摩擦を調整し、さらに小型スラスターで加速を補助。

 カナデがパワーなら、刹那はスピード。

 圧倒的速度で、刺突に特化した剣を抜き、切っ先を凍らせ、連続で突きを繰り出す。

 オーダーゴブリンは、断末魔さえ上げることができず、身体中穴だらけになり死を迎えた。


「終了」

「「「ヤー!!」」」


 敵を倒し、刹那たちは魔獣の解体を始める。

 全員が十代の女子だが、誰も魔獣の内臓や血肉を見ても悲鳴も、顔色も変わらない。

 牙や骨は武器に、皮は防具に、血や内臓は薬に……だが、まだどういう薬効があるかわからない魔獣の血肉は持ち帰らない。

 一般的に、製薬会社などからの依頼でもない限り、血肉は回収を避ける……が。


「お嬢様。こちら、血肉の回収は」

「いつも通りお願い。うちの製薬会社で分析に回すから」


 刹那は、血肉の回収も怠らない。

 そもそも、刹那の会社は医療機器メーカーであることに変わりない。そして製薬会社でもある。

 血肉は回収。それは刹那にとって当たり前、基本だった。

 すると、マイが言う。


「薬ねぇ……そういや、水のエレメント保持者って傷の治療とかできるんだよな。ウチにも回復系欲しいぜ。なあ、レンゲ」

「確かにな。闇、火、風、氷……攻守に優れたエレメントではあるが、私以外は皆前に出るタイプ。上層階に挑むなら治療役は必要だ。持てる薬品にも限りはある」


 レンゲが言うと、ランジュが「だね……」と頷いた。


「アトラトル。あのひと、すごいよね……剣で刺すだけで、傷なおしちゃうし」

「あ、馬鹿」


 と、マイがランジュの口を抑えるが、遅かった。


「アトラトル。はあ……今、どこで何をしているのかしら」


 刹那は、アトラトルの名前が出ると、ぼんやりしてしまうようになった。

 二度も助けられた。遥かに強く、その背中は強者の頂。

 追いかけたい。そう思うようになり、ひたすらアトラトルの背中を追い続け、今はとにかくダンジョンを進んでいる。

 マイはため息を吐いて言う。


「お嬢様。やはり、あと一名……水のエレメント保持者を仲間に加えて進んだ方がよいかと」

「ダメ。チーム最後の枠は、アトラトル様の物よ」

「「「…………」」」


 凛々しく、美しく、気高く、強い。

 そんな霧氷刹那は、ちょっとだけ変わってしまった。それがいい方向なのか悪い方向なのか、まだ誰にもわからない。


 ◇◇◇◇◇

 久世 逢魔

 ◇◇◇◇◇

 

 現在、俺とハイジはバイク屋にいた。


「「おおおおお……!!」」


 店の前には、本日納車のバイクが二台。

 俺のは、白を基調としたスポーツタイプ。ハイジは……ピンクのスクーターだ。

 いや個人の自由だし全然いいんだけど……マジでピンクにしたんだな。

 ハイジはニコニコしながら、なぜかウサミミの付いたヘルメットを抱きしめて言う。


「いやぁ、ついに納車だね!! この一か月、大変だったよ~」

「だな。講義にバイトに教習所……でもまあ、試験も一発合格だし、納車に合わせて免許も手に入れたし……これで念願のバイク通学だな!!」


 ハイジとハイタッチ。

 俺は白に黒いラインの入ったヘルメットを被り、内臓されているインカムのスイッチを入れる。

 ハイジも、ウサミミヘルメットをかぶりスイッチを入れた。するとペアリングが始まり、インカムを通して会話できるようになる。


『聞こえますか、逢魔くん、どうぞ』

『チェックメイト・キングツー、乾度良好、聞こえまーす』


 もう一度ハイタッチ。

 俺たちはバイクに乗り、さっそく公道に出た。

 せっかくなので、このまま軽くツーリングをすることにした。そして、ハイジの提案。


『あ、そうだ。昨日雑誌で見たんだけど、新しいダンジョンが都心から少し離れたところにできたらしいよ。せっかくだし、見に行かない?』

『……だな。行ってみるか。あと気になってたんだが……なんでヘルメットにウサギの耳?』

『え、可愛いじゃないか。ぼく、ウサギ好きなんだ』

『そ、そうか……』


 それから、バイクで走ること三十分。

 到着したのは、三階建てのビルだった。

 駐車場にバイクを止め、ビルを見上げる。


「……え、これ?」

「そうだよ」


 どう見てもビル。

 ダンジョン……なんかこう、もっと遺跡チックというか、洞窟とか塔みたいなのを想像していた。

 ハイジはスマホを見ながら言う。


「ここ、発見されて調査済みの新規ダンジョンだね。ダンジョンレートはBで、中級者向け。修復機能がないエリアはないから、清掃人の出番はないみたい」

「へえ……」


 ハイジ曰く、ビルはダイバーギルドのようだ。

 売店や軽食、装備関連のメンテショップなど、ダイバー関連の施設が一通りあるらしい。


「あっちには宿泊施設とかもあるらしいよ。地域によっては、温泉付きだったりもあるとか」

「至れり尽くせりだな……温泉」


 デッラルテにも温泉あったっけ。懐かしいな。

 ハイジはスマホをチェックしながら解説してくれる。


「ここ、二十階層しかないダンジョンだけど、そのぶん階層がとても広いらしいよ。いろんな魔獣が出て、どれもそこそこ強いらしい……中堅ダイバーが経験を積むのにピッタリらしいよ」

「ま、俺らには無縁……ん?」


 と、ビルの前で喋っていると、ダイバーらしき人たちが飛び出してきた。

 

「なんだ?」

「……お、逢魔くん、あれ見て!!」


 ハイジは、ビルの上を指差した。

 なんと、ビルから煙が出ている。そして、ビルから大勢出てくる。ダイバーだけじゃない、職員も一斉に飛び出してきた。

 驚いていると、職員が叫ぶ。


「スタンピード発生、スタンピード発生!! ビルを封鎖します、全員退避!! 退避後、ビルを封鎖します!!」


 スタンピード。聞きなれない言葉だ。

 ハイジは顔を青くしている。


「スタンピードって?」

「ま、魔獣の大量発生だよ!! えと、何らかの原因でダンジョンで魔獣が大量発生して、ダンジョンから溢れる現象なんだ!!」

「……まずいよな?」

「当り前だよ!! 昔、ダンジョンから溢れた魔獣が一つの町を飲み込んだこともあるくらいなんだ。だから、ダンジョンに転移するポータルには必ず、封鎖のためのフィールド発生装置が組み込まれて、って……わわわわ!?」


 言い切る前に、俺とハイジは人の波に飲まれ離れ離れに。

 言っちゃ悪いが……チャンス。

 俺は人込みをかき分けてビルの裏手に回り、リストリングを装備。


「『偽装』」

 

 そのまま『アトラトル』に変身し、ビルの裏口から中へ侵入した。

 裏口からビルのロビーへ行くと、すでに魔獣が何匹かいた。すでにロビーには誰もいない。入口の自動ドアが封鎖され、半透明のフィールドで覆われている……俺が裏口に入ったタイミングで、ハイジの言った封鎖フィールドが発動したようだ。

 

「……面白い。タル、出て来い」

『わう?』


 異空間にいたタルは子犬のままだったが、俺が召喚すると察したのか巨大化する。

 

「タル、一掃する。んで、ダンジョンに入るぞ。スタンピード……魔獣の大量発生か」


 ちょうどいい。

 久しぶりに、全力で運動させてもらおうか。


 ◇◇◇◇◇


 まず、ロビーに溢れている魔獣を一掃することにした。


「『召喚(コール)』」


 魔法陣を展開、メギストスを装填。

 そして、視界に入る魔獣の頭部、心臓などの急所めがけてひたすら放つ。

 タルも、大喜びで魔獣を食い殺していた……っていうかこいつ、魔獣をオヤツとでも思っているのか、ガツガツとオークの肉を喰らっている。

 ロビーの魔獣を一掃すると、タルがクンクンと鼻を鳴らる。


『ガウガウ、ガウ』

「どうした? と……」


 受付のデスクの下に、誰かがいた。

 女性。たぶん二十代、恐怖から震え、粗相している……あまり見るべきではないが、そうも言ってられない。

 俺はタルに周囲の警戒を任せ、女性に近づいてしゃがむ。


「ここの魔獣は一掃した。もう大丈夫」

「え、ぇ」

「俺は……A級ダイバー、アトラトル。今の状況についていくつか質問したい。答えてくれるか?」

「ぁ、ぁの」


 俺は、女性の両肩に手を置き頷く。


「大丈夫。もう安全だ。だから、質問に答えてくれ」

「…………」


 女性は、ウンウン頷いた。

 落ち着きを取り戻せば、安心から泣き出してしまうかもしれない。だから、今のうちに質問する。


「今の状況、スタンピードと聞いたが……簡潔に説明してくれ」

「は、はぃ……あの、魔獣が、ダンジョンから、大量にあふれて……たぶん、修復機能がないエリアが、あったのかと」

「何? 修復機能がないエリア……このダンジョンには、修復機能がないエリアはないって聞いたぞ」

「た、たぶん……調査ミスかと。そこで死んだ魔獣が、ダンジョンを汚染して、そのせいで、魔獣が増えて、解放されたのかも」

「なるほど……ここに、他のダイバーは?」

「い、今、常駐のダイバーが、ダンジョンに向かって、原因を」

「原因は、修復機能がないエリアか。そこをどうするんだ?」

「えと、あの……恐らく、そのエリアに、汚染の大元である、魔獣が……それを討伐して、エリアの洗浄をすれば、スタンピードは止まると」

「わかった。清掃道具はあるか? それと、ここの地図を」

「あ、は、はい。二階に……地図は、これを」

「……よし」


 女性は、地図の入ったスマホを起動し俺に渡す。

 俺は女性に「ここから動かないように」と言い、ビルの二階へ。

 倉庫に、清掃ギルドで使っている清掃道具があったので異空間に収納。タルに「ここを守ってろ」と命じてダンジョンに通じるポータルへ。

 そして、ポータルを起動し、ダンジョンの一階層へ。

 スマホを確認。ダンジョンの詳細な地図があり、『汚染エリア』と表示された場所に赤い光点が灯っていた。しかもご丁寧に現在位置まで表示されている。

 職員専用アプリなのかな……かなり便利だ。


「さて……」


 俺は魔法陣を展開、さらに両手に剣を持ち、首をコキコキ鳴らす。


「乱戦は久しぶりだ。さあ……行くぞ!!」


 俺は、目的地に向かって走り出した。


 ◇◇◇◇◇

 ダイバーたち

 ◇◇◇◇◇


 スタンピードの発生。それは、常駐のダイバーたちにも予測できないことだった。

 新規ダンジョンとして開放されたばかりであり、未調査の個所がまだいくつかあったが、一般公開しても問題はないと、ダイバーギルド本部は判断したのだが……まさか、未調査個所が修復機能がないエリアで、さらに魔獣汚染が進んでいたとは、思いもしなかった。

 現在、ダイバーたちは魔獣の対処に追われている。


「魔獣を速やかに討伐!! 素材は全て無視、いいかこれ以上外に魔獣を出すな!!」


 常駐のA級ダイバー、チーム『スキンヘッド』のリーダー、丸尾は仲間と、この状況に対処しているダイバーたちに、怒声ともいえる指示を出していた。

 魔獣は、ダンジョンの奥から大量に現れる。それに比べて、この状況に対応しているダイバーは十人もいない。


「隊長、このままじゃ……」

「わかっている!! クソ、本部から何か連絡は!?」

「な、何もありません!! スタンピード発生は間違いなく伝えましたが……」

「クソ!!」


 丸尾は、剣の柄を強く握りしめる。


「どうする……」


 スタンピードの規模は、まだそれほどではない。

 だが、たった十人では、ひっきりなしに現れる魔獣に対処することはできない。

 一度撤退すれば、汚染進行が進み、現れる魔獣も強力になり、十人どころか百人、それこそ軍隊規模のダイバーが必要になる。

 かつて、町一つを飲み込んだスタンピードも、元々は小さな初心者向けダンジョンの汚染から発生したもので、『小規模だから慌てず対処』などと余裕を見せていたのが原因だった。

 当時、まだ十代後半だった丸尾は、そのスタンピードを経験している。決して、スタンピードは侮れないことも、身をもって理解している。

 撤退はできない。少なくとも……丸尾は、増援が来るまで命を賭けるつもりだった。


「ええい、いいかお前たち!! かつてのスタンピードは、慢心から始まった人災だ!! 今回も同じ……だからこそ、逃げることは許されん!! 命を賭けて戦うぞ!!」


 そう言い、丸尾は飛び掛かって来たウルフを両断する。

 丸尾の仲間たちも同じだった。だが……気合いを入れたところで、変わらない現実もある。


「隊長!! 『エルヒガンテ』です!!」

「何ぃ!?」


 討伐レートSに認定される、三メートル以上ある巨人だった。

 薄ピンクの素肌、棍棒を両手に持ち、乱雑な髪が炎のように逆立っている。


『グオオオオオオオオオオ!!』


 まずい。と、丸尾は前に出た。

 基本的に、討伐レートS以上は、A級ダイバー五人分の強さとされている。

 S級ですら、正面対決は避ける。

 だからこそ、リーダーである丸尾が前に出た。その一撃を受けるために。


「来い!! スタンピードなどに、人類が負けるかああああああ!!」

「そうだな」


 次の瞬間、背後から大量の『剣』が飛んできた。

 それらは、空間内にいたほとんどの魔獣に突き刺さる。そして、丸尾の横を通り過ぎたのは。


「立派だな、あんた」


 白髪、赤眼、欠けた仮面、黒衣。

 丸尾は知っている。ここ最近、動画配信サイトでその姿を見ない日はない。

 

「あ、アトラトル……!?」


 アトラトルは、両手に剣を持っていた。

 右手には刀、左手には歪な形状をした蛇腹剣。

 

「『蛇腹剣スネークバイト』」


 蛇腹剣を振るうと、まるで本物の蛇のように地面を這い、エルヒガンテの足、身体、腕に絡みつく……どういうわけなのか、剣の刀身があり得ないくらい伸びていた。

 そして、蛇腹剣を離し、柄を踏んで地面に固定。

 右手に持っていた刀を、連続で振る。


「アサギ流剣術──『明桜螺旋剣舞・三十六連』」


 美しい、桜の花びらが散るような幻覚が見え──エルヒガンテが細切れになった。

 アトラトルは刀を振って血を払い、欠けた仮面……赤い瞳が見える生身の目を丸尾に向ける。


「この先が、修復機能がないエリアだな」

「……」

「おい」

「え、あ、ああ。そうだ」

「原因を排除して、汚染を除去する。お前たちはここを守ってろ」

「え、ひ、一人で行くのか!?」

「問題ない。ああ……受付に、女性が一人いる。そいつの保護も頼む」


 それだけ言い、アトラトルはダンジョンの奥へ。

 丸尾は、思わず呼び止めた。


「ま、待って、待ってくれ!! お、お前は一体……何なんだ!?」


 アトラトルは歩みを止め、カメラのような仮面の一部である眼を丸尾に向けて言う。


「……俺は、ただのダイバーだ」

「た、ただの、って」

「お前はいいリーダーだ。死なせたくない」

「え……」


 アトラトルはそれ以上言わず、ダンジョンの奥へ向かうのだった。


 ◇◇◇◇◇

 久世 逢魔

 ◇◇◇◇◇


「あ、逢魔くん!! もう、心配したよ!!」

「悪い悪い」


 ビルの裏口から出た俺は、偽装を解いて何気なく人混みにまぎれ、ハイジと合流した。

 ハイジは、バイク駐車場で待っていた……というか、避難場所になっているのか人が結構いる。

 俺はスマホアプリを起動する。


「逢魔くん、どこに行ってたの?」

「ん、ああ。ちょっとな」


 まさか、『スタンピードの原因を仕留めて、清掃道具で綺麗にしてきた』なんて言えないな。

 スタンピードの原因。アプリで確認すると、討伐レートSの魔獣だった。

 

「…………」

「逢魔くん?」

「あ、いや」


 討伐レートは、Fから始まり、SSSまで存在する。

 正直……こっちのSは、デッラルテで言えばBといったところだ。慢心、油断するつもりは欠片もないが、俺の敵ではない。

 アプリに登録されている魔獣をざっと確認するが……やはり、デッラルテで見た魔獣と同じものがある。だが、強さはこちらの方が弱い。

 

「……今なら、俺だけでも」


 仲間がいなくても、俺だけの力でダンジョンを終わらせ、世界を救えるかもしれない。

 

「あ、見て逢魔くん。ダイバーギルド本部の車両だ」


 ハイジが言うと、大型車が何台もビルの前に横づけされ、そこから何人ものダイバーが降りて来た。

 全員、フル装備である。

 すると、ビルから一人のダイバーが出て来た。

 

「状況は!!」

「そ、それが……スタンピードは、もう、止まりました」

「な、何ぃ?」


 車から降りて来たダイバーが、ビルから出て来たダイバー……俺が助けたダイバーの胸倉をつかむ。


「馬鹿を言うな!! スタンピードってのは、原因を排除しない限り終わりがねぇ災害だぞ!!」

「ですから!! その原因は排除されました!! あの、『アトラトル』の手によって!!」

「な、なんだと? アトラトル……?」


 今更だが……これ、俺の、『アトラトル』の評判が上がってしまったのでは?


「逢魔くん、帰ろうよ……スタンピード、もう大丈夫みたい」

「だな。どっかでメシ食って帰るか」


 俺は、もう一度助けたダイバーを見た。


「自分は、アトラトルに救われました。彼は、スタンピードを止めた英雄です!!」


 大げさだな……と思いつつ、俺はバイクにまたがり、エンジンをかけるのだった。

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