第15話
三百八十階層へ到着し、俺はすぐにタルを召喚。
背中に乗り、タルに言う。
「お前、ルフィアーナの血を継いでるなら『匂い』にも敏感だよな? このまま調査をしながら下の階層を目指したい。お前の鼻で、地下に続く階段かポータル、見つけられるか?」
『ワウワウ!!』
聖犬ルフィアーナは、デッラルテで最も優れた嗅覚を持つ犬だった。
冗談で、巨大な湖に一滴のソースを垂らして「何の調味料を落としたかわかるか?」って聞いたら、ぴたりと当てたことがあった。何度試してもルフィアーナは外すことはなかった。
タルも、同じだろうと考えていると。
『……ワウウウ』
お、ゆっくり歩き出した。
幸いなことに、この階層の通路は縦横の幅がかなり広い。なので……魔獣が出ても問題ない。
「武装召喚、魔法陣展開。『増殖剣メギストス』」
俺は、周囲に無数の魔法陣を展開。メギストスの切っ先を覗かせ、いつでも射出できるようにした。
そして──タルが走り出す。
「よし、タル、お前が思うがまま進め!! 道中の魔獣は──」
『グオオオオオオオ!!』
「俺が倒す!! 照準!! 射出!!」
魔法陣から放たれたメギストスの切っ先が、通路から現れた一つ目の巨人、サイクロプスの瞳に突き刺さった。
そのままサイクロプスは倒れ、地面に吸収される……そして、追加のサイクロプス、さらにスライムのような粘液や、無数の蝙蝠が飛んで来た。
「全剣射出!!」
放たれる無数のメギストス。
無限に増殖する剣。一度使用すると役目を終え消滅するが……今なお、俺の異空間内で増殖を続けているので、剣がなくなることはない。
数百展開した魔法陣から、メギストスが連続で射出される。
「自動設定、設定変更……よし、どうだタル?」
『ワウウウ……』
メギストスが、現れる魔獣に突き刺さる。
自動設定なので、魔獣を感知すると魔法陣からメギストスが発射される。
俺は、タルがクンクン臭いを嗅ぎながら歩くのを背中で見て、魔獣をチェックする。
ダイバー専用アプリである『魔獣図鑑』で、死んだ魔獣を撮影し、写真を取り込んでデータを確認……詳しい生態などが表示されるのだが。
「三百八十階層の魔獣は名前だけか。オプシディアン、ゲルググオーガ、バッドバッド、チャンクスライム……討伐レートはA以上のばかり……」
そして、異空間から一冊の本を出す。
「ハルシオン教授の書いた『魔獣大全』……これに描かれている魔獣も、やっぱり同じか」
俺のデッラルテでの知識は、デッラルテで最も優秀な教授であったハルシオンから得た知識だ。ハルシオンは魔獣オタクであり、戦闘力皆無のくせに危険なダンジョンに入っては知らない魔獣を見て興奮したり、寝ているドラゴンの鱗を引っぺがして怒らせては戦うのを俺に任せたり……。
「……くくっ」
思い出しても、ムカつくし……面白かった。
ハルシオンがやらかした時は大抵、みんなにボコボコにされてたっけ。でも……憎めないヤツなんだよな。
「魔獣だけじゃない。ダンジョンの構造も、恐らく組織も同じだな……」
ハルシオンの魔獣大全を収納し、『ダンジョン大全』を取り出してページをめくる……ちなみに、『料理大全』や『素材大全』と、『ハルシオン・シリーズ』はニ十冊以上ある。
すると、タルが止まる。
『ワウワウ』
「どうした……って、これは」
タルが止まったところに、むき出しのポータルがあった。
台座の上にある水晶のような宝石。これに触れることで、ダンジョンのどこかの階層に飛ばされる。
ハイジが言ってたっけ、『ポータルは調整して、一階にある「メインポータル」にリンクすることができるんだ』って……まだ詳しくはわからんけど、一階から三百八十階まで直通のポータルができるかもしれないな。
まあ、ポータルの調整は非常にデリケートで、設定するのに何日もかかるらしいけど。
「ここにあるってことは、さらに行けるのか」
ダンジョン大全をめくる……もらったはいいけど、あんまり読んでないからわからないんだよな。
「お? 『ダンジョンの最深部は最大でも五百階層。デッラルテではそれ以上の地下階層のあるダンジョンは確認されていない』か……もしかしたら、このダンジョンも五百階層まであるかも」
『ガウウウウ!!』
と、タルを見ると……デカいブタに喰らい付き、肉を食っていた。
まあ、新鮮な生肉を食いたくなる時もあるだろう。
「……そういえば」
ページをめくる。
「『ダンジョンは、十階層ごとに「守護獣」、百階層ごとに「超越守護獣」が存在する』か……」
こっちのダンジョンもそうなのだろうか。
十階層……清掃ギルドでは聞いてないな。そもそも、E7区画の清掃だけだったし。
もしかしたら、追加の説明とかあるかもしれない。
「待てよ?」
ここは三百八十階層。つまり、ガーディアンがいるのか。
「……そうだな、腕鳴らしするか。タル、この階層で一番強い魔獣のところ、行けるか?」
『ワウワウ』
タルは迷うことなく走り出す。
そして、この階層で一番広い部屋へ。
ドーム状の空間に、灯篭のようなものが四方に設置され明るく輝いている。
そして、部屋の中央にいるのは……鎧武者のような敵。しかも二体。
一体は剣を手に、もう一体は両手に盾を持っている。
全く動かない。だが……近付けば動き出すだろう。
俺はタルから降りる。
「タル、手を出すな。いい機会だ……俺の戦い、見ておけよ」
『……くぅん』
タルは入口で伏せる。
俺はゆっくりと近づく……赤い鎧武者、青い鎧武者が動き出す。
赤い方は剣、青い方は盾を構えた。
「攻守万能、ってか。メギストスで串刺しにするのは簡単だけど……身体が訛るしな」
俺は右手、左手を突き出した。
「武装召喚、固有武器」
右手に、一メートル以上ある巨大な出刃包丁のような剣を、左手には巨大な手裏剣を持つ。
「『鬼殺包丁』、『風雷手裏剣』……さあ、やろうか」
『『勝負』』
なんと、鎧武者が喋った。
そして、さらに一歩近づくと……なんと地面から鉄格子がせり上がり、囲う。
刀武者が一気に距離を詰めてくる。俺は手裏剣を投げ、鬼殺包丁で刀を受ける。
『斬る!!』
刀による連続斬りを、俺は剣で全て受ける。
背後に回った盾武者が、俺に体当たりしてこようとした……が。
「『風雷』!!」
『ぬっ!?』
巨大手裏剣が、盾武者に向かう。
風、雷を纏った、ダンバンお手製の手裏剣。一度投げると俺が許可するまで周囲を飛び回る。
盾武者は、飛んで来る手裏剣を盾で受ける。
その間、俺は刀武者と剣戟を繰り広げる。
『強き者よ……いざ!!』
「──シュッ」
振り下ろされた刀を紙一重で躱す。
そして、カウンターで一気に両断した。
「アサギ流剣術──『無用断』」
一撃必殺。
相手が攻撃を終えて力を抜いた一瞬で、渾身の斬撃を叩きこむ技。
デッラルテで五指に入る剣士、ハツネ・アサギから習った技だ。
『兄者……おのれ!!』
「兄貴だったのか。まあ、悪いとは──思わない」
『っ!!』
手裏剣が分裂する。雷、風を纏った手裏剣が、盾武者の左右から一気に襲い掛かる。
そして、手裏剣に気を取られた一瞬、俺は接近して剣で両断した。
盾武者も消滅……同時に、鉄格子が消え、奥の扉が開いた。
三百八十階層の守護者、討伐……ふう。
「とりあえず……あ、やべ」
時計を見ると、けっこうな時間が経過していた。
まずいな。そろそろ清掃ギルドに戻らないと。
「よし、今日はここまで。タル、百七十階層へ戻るポータルまで──」
「きゃああああああああ!!」
と、叫び声。
女の声。聞き覚えがある。
まさかと思い、タルを異空間に収納して部屋から飛び出し、声がした方へ走る。
「いや、やだ、やめてえええええええっ!!」
通路にいたのは、黒いゴブリンに襲われている三上かれんだった。
ゴブリンの数は二十以上。しかも、三上一人しかいない。
なぜ、こいつがここに……いや。
「召喚、射出!! メギストス!!」
メギストスを連射し、ゴブリンの頭を撃ち抜いた。
ゴブリンが消滅し、襲われ震えていた三上が俺を見る。恐怖なのか、眼は見開かれていた。
「……大丈夫だ。敵は全て倒した」
「……ぁ、ぁ」
服がボロボロだ。ゴブリン……メスとなると見境がないからな。
やむを得ず、俺は異空間からシーツを出し三上に放る。
そして、ゆっくりという。
「なぜここにいる。一人なのか?」
「……あ、そ、そうだ。あの、た、助けて……お願い!!」
「落ち着け」
三上は立ち上がり、震える声で俺に迫って来たので手で制する。
そして、呼吸を整え、俺に頭を下げた。
「お願い、助けて!!」
「わかったから、状況を」
「……うん。実は」
三上の話によると。
百七十階層から三百八十階層へ、カナデと霧氷刹那のチーム合同で転移。防御フィールドを張るのと、弱い魔獣と戦闘し、この階層がどれだけ強いのかを経験するために来たそうだ。
「と、到着したのはいいんだけど……ぼ、防御フィールド装置を設置していたら、未発見のポータルを見つけて。正太郎が触れたら、みんなが転移しちゃって」
「……みんな?」
「う、うん。たぶん、ポータルの形状的に、この階層内のランダム転移だと思う……」
この階層で、バラバラに転移か。
個人の実力だとかなり厳しいな……ったく、早く帰らないといけないのに。
「探すしかないな。スマホは?」
「……通じない。この階層、どれくらい広いのかわからないし……」
「…………はぁぁぁぁ」
ダンジョン内では自己責任……朱美さんも、サブさんも、ガンモさんもそう言った。
俺もそう思う。デッラルテでもそうだった。
ここで死ぬのは仕方ない。でも……友人である三上が泣きそうな顔で懇願しているのを見て、無視して帰れるほど俺は白状ではない。それに……幼馴染のカナデは助けたい。
俺は時計を確認……あまり時間をかけて、俺が戻らないと清掃ギルドが騒ぎになるのだけは避けたい。
仕方ない。
「召喚、来い」
「え、えっ……ええええええ!?」
俺はタルを召喚。仰天する三上を無視し、タルの背中に飛び乗った。
三上に言う。
「乗れ、速攻で探すぞ」
「の、のれ、って……これ、使役魔獣? こんな大きな、犬」
「詮索するな。仲間の命が惜しいなら、これ以上煩わせるな」
「あ、は、はい」
三上がタルの背中に乗ると、俺の肩を掴む。
「タル、聞いてたな。人数は……七人。匂いはわかるか?」
『ワウ』
「近いところから、速攻で行く。順番に頼む」
『ウォォン!!』
「うひゃあ!?」
タルは、ダンジョン内を駆けだした。




