第14話
百七十階層、ポータル前に到着した。
さすがに、タルと一緒にポータルで転移するには狭い。タルから降り、異空間に入ってもらい、俺は一人でポータル部屋へと入ったのだが。
(……なんでいるんだよ)
霧氷刹那、そして仲間の三人がいた。
最初に目が合った霧氷刹那の視線が俺を射抜き、つられて三人も振り返る。
四人の視線が俺に向いたところで、ポニーテールの女が一歩前に出た。
「貴様……以前会ったA級ダイバー、いや違う。貴様……何者だ」
うげえ……これ、俺がA級ダイバーじゃないって絶対バレてる。
そもそも、俺が偽造したのはこのポニーテール女のライセンスだ。そのライセンスも処分したので今はない。
どうするか。
「貴様、何者だ。ダイバー等級の偽装、ライセンスの偽造はダイバー法に違反に抵触する。そして、我々ダイバーは、違反者の取り締まりも許可されている……」
ポニーテール女は弓を取り出す。そして、自分の周りに風を纏い始める……風属性か。
すると、ポニーテール女の前に霧氷刹那が出て制する。
「お嬢様!!」
「レンゲ。待ちなさい。まずは話を……」
霧氷刹那は、俺に向かって頭を下げた。
「命を救っていただき、感謝します。あなたのおかげで、こうして生きています」
「……」
俺は頷く。
霧氷刹那は、にっこり微笑む……この笑顔、嘘の笑顔じゃないな。
「私は霧氷刹那。チーム『ワルキューレ』のリーダーで、S級認定を受けたダイバーです。あなたのお名前をお聞かせください」
「…………」
当然だが、言えるわけがない。
黙っていると、ポニーテール女が眉間にしわを寄せて言う。
「名乗りもできないのか。お嬢様、こいつはすでに犯罪を犯しています。等級詐称……見逃すわけにはいきません」
「待ちなさい。はあ……マイ、レンゲを」
「うーい」
と、ショートヘアの女がポニーテール女を羽交い締めした。
「な、おい、マイ、お前」
「お嬢の命令だ。つかお前が喋ると話進まねーんだよ。揉むぞオラ」
「ひゃあああああああ!?」
と、ショートヘア女はポニーテール女の胸を揉み始めた……ツインテール女はどうすればいいのかわからず、二人を交互に見ている。
霧氷刹那は、そんな三人から視線を外し、俺を見て言う。
「では……『アトラトル』とお呼びしますね。あなたは、この先に進むつもりですか?」
「……そのつもりだ」
「そうですか。まだポータル部屋の設置も終わってませんので……これから私たちがフィールドを展開しに行くつもりでしたが」
フィールド展開……ああ、ハイジが言ってたな。
ポータルは基本、ダンジョン内に無造作に設置されている。なので、防御フィールドを発生させる装置を稼働させて保護し、気配を遮断する煉瓦で囲んで部屋を作ることで、ようやくそのポータルが使えるとか。
ポータルは、どこに転移するかわからない。だから、現在解放されている四百階層の中でも、誰も踏み込んだことのない階層はあるんだとか。
霧氷刹那は言う。
「あの、よろしければ……ご一緒しませんか? その」
「あーっ!!」
と、聞き覚えのある声。
振り返ると、カナデがいた……轟、堂島、三上もいる。
「刹那、なんでアンタが……それにアトラトル、アンタも」
「私は、ギルドから依頼を受けて、この先にフィールドを設置しに行くの。彼が来たのは偶然、これから一緒に行くのよ」
おい、俺は一緒に行くなんて言ってないぞ。
カナデはムスッとして言う。
「『一緒に行くなんて言ってない』みたいな顔してるけど? てか……アンタ、何者? A級ダイバーってホントなの?」
「おいカナデ。こんなやつどーでもいいだろ。オレらはこの先の調査するんだろ? 行こうぜ」
お、轟のやつ、珍しくいいこと言うな。
というか……俺としても、こんな会話に付き合っている暇はない。
でも……こいつらはS級ダイバーで、世間の影響力もある。戦力としては論外だけど、使えるかもしれない。
俺はカナデ、霧氷刹那に言う。
「一緒にいくつもりはない。俺は、俺のやるべきことを優先する……だが、忠告はしておく。お前たちにこの先はムリだ」
「「なっ」」
「だが、できることはある」
俺はポータルの前に立ち、全員を見て言う。
「ダンジョンは、お前たちが思っている以上に危険だ」
「そんなこと、知ってる」
「違う。そう言う意味じゃない。いいか……このままだと、世界は崩壊する」
そう言うと、みんなポカンとした……そして、轟が馬鹿笑いする。
「ぎゃはははははは!! ほ、崩壊? おま、何言ってんだ? ああ、そういや昔あったな、崩壊論だっけ?」
「電波ジャックされて、日本中のテレビ、ネットに『世界は崩壊する』と放映された事件か」
堂島が言うと、轟が「それそれ」と笑う。
カナデ、霧氷刹那も顔を見合わせ、どう言えばいいのか迷っているように見えた。
「それは事実だ。いいか……ダンジョンっていうのは、この地球の生命エネルギーを吸って作り出される。今なお、ダンジョンは地球で生まれている」
「な、なんでアンタがそんなこと」
「黙って聞け」
カナデを睨むと口を閉じる。笑っていた轟も、堂島に口を抑えられフガフガ唸っていた。
「お前たちなら、ダイバーギルドの上層部に俺が言ったことを報告できるだろ。いいか……世界、いや地球の崩壊が近づいている。それを止めるには、地球上に存在する十二の『核ダンジョン』を踏破して、最奥にある『核』を破壊するしかない。十二の核が、全ての元凶だ……このことを、報告しろ」
「じゅ、十二の、コア……?」
「……まさか」
霧氷刹那は察したのか、俺の後ろにあるポータルを見て言う。
「気付いたか。そうだ……このダイバーギルド本部ダンジョンは、核の一つが眠って……いや、もう動き出している」
俺は、このことを知るのに七年かけた。
核ダンジョン。その核を内包した魔獣を十二体倒したが……間に合わなかった。
「俺は、このダンジョンを攻略して、世界を救う。信じなくてもいい……いいか、必ず上に伝えろ。必ずだ」
「ま、待って!! アンタ、一体……」
カナデは俺に手を伸ばす。
俺はその手に触れることなく言う。
「それともう一つ。俺の邪魔をするな、詮索するな、関わるな……いいな」
それだけ言い、俺はポータルに入り、三百八十階層へ転移した。
◇◇◇◇◇
炎堂カナデ・霧氷刹那
◇◇◇◇◇
「「…………」」
カナデ、刹那の二人はポータルを見つめていた。
アトラトルが言った『崩壊』について……普通の人ならば。
「あいつ、何言ってんだ? 世界の崩壊とかアホじゃねぇの?」
誰もが、轟のように思うだろう。
三上、堂島も口には出さないが、表情で「確かに」と語っていた。
レンゲ、マイ、ランジュもそれぞれ顔を見合わせ、アトラトルが言った言葉について考えている。
「……ねえ刹那、どうする?」
「……私は、仕事をするわ。もちろん……アトラトルの願いも含めて、ね」
「そう。じゃあ……いうこと聞くの?」
「全てじゃないわ。この先の調査も、私にとっては仕事だから」
「ふーん。まあ、あたしたちもだけど」
カナデはチームに言う。
「アトラトルの話、まずは保留。今はダイバーの仕事……ダンジョン調査をやるわよ」
「そりゃそうだろ。あんなアホ話、聞き流しちまえばいい」
「違うわ。あとで報告書を作って、上層部に提出する。今は……この先の調査よ」
「……ねえカナデ。大丈夫かな。わたしたちだけで、三百八十階層の魔獣、戦える?」
三上が不安そうにする。
カナデたちは依頼されたわけではない。三百八十階層で自分たちは通じるのかという確認をするため、まだ準備の終えていないポータルに来たのだ。
ポータルの先に進み、その周囲にいる魔獣と戦闘をして、引き返すつもりだった。
「危険がせまったらすぐ撤退。今は、実力を試す……正太郎、かれん、鉄之助、行くわよ」
「お待ちを。カナデ……よければ、私たちも一緒に。ポータルの防御フィールドを展開する。少しは安全に戦闘ができるはずよ」
「……手伝えって? アトラトルに振られたから?」
「そうじゃない。実力を試したいのは同じ、そういうこと」
刹那が手を出しだすと、カナデは少し迷い……フンと鼻を鳴らし握手。
一時的な、合同チームの完成だった。
「じゃ、行くわよ。あくまで魔獣の確認、現状の実力確認ね。正太郎……わかってるわね」
「うるせぇな。わかってるよ」
「チーム『ワルキューレ』、行くわよ」
「「「ヤー」」」
八人は、ポータルで転移……三百八十階層へ向かうのだった。




