第11話
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霧氷 刹那
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ワルキューレ・コーポレーション。
もともとは医療機関の開発を行っていた中小企業だったが、ダイバー向け装備を開発、販売することで大企業へと成長した、国内有数のダイバー装備メーカー。
装備類の品質はもちろんのことだが、広告塔である『ワルキューレ』のリーダーであり、現社長の娘でもある霧氷刹那の活躍によるところも大きい。
モデル、CMと多岐に渡って活動。自社の商品宣伝をしながら、自身もダイバーとして活躍……現在は日本国内最強の氷エレメント使いであり、世界レベルのダイバーでもあった。
そんな霧氷刹那は、ワルキューレ・コーポレーション本社ビルの社長室にいた。
大きなマホガニー材のデスクには、父であり社長、元S級ダイバーである霧氷一瞬が、難しい顔をしている。
そして、おもむろにリモコンを手にし、スイッチを入れると……壁に映像が映しだされた。
『忘れるな、命は……一つしかないんだ』
それは、白髪に深紅の瞳、仮面を被った黒衣の何者かだった。
一瞬は言う。
「刹那。これは一体、誰なんだ?」
「……わかりません。A級ダイバーライセンスは確認しましたが、名前も、所属も」
「……装備は国内、海外、どのメーカーの物でもない。いや……問題なのは」
一瞬はリモコンを操作する。
『召喚』
「ここだ」
仮面の何者かが、無数の剣を召喚し、異形のケンタウロスを攻撃した瞬間だった。
なぜ、こんな映像があるのか? 理由は……轟のせいだ。
轟は『あとで編集する』と言ってドローンカメラを飛ばしていたが、異形のケンタウロスことバオファオと戦う刹那たちを見て『これはおいしい』と、カメラの設定を生配信に変えたのだ。
その配信は瞬く間に切り抜き、拡散され、一夜にしてネット中を駆け巡った。
「この、剣……どの企業の物でもない。そもそも、映像を見るとこの剣、刺さると同時に消滅している。刹那……現場にこの剣は?」
「ありませんでした。というか……お父様、何度聞かれても、私はもうこれ以上のことは」
「欲しい」
「え?」
一瞬は、自分の顎を撫でニヤリと笑う。
「彼が欲しい。刹那……もし、また彼と遭遇することがあるなら、『ワルキューレ』に勧誘してくれ。彼の装備を見てみたい。ふふふ、お前のチームにはまだ空きがあるだろう?」
「そ、そうですけど……」
まんざらでもないのか、刹那はモジモジしていた。
正直……刹那は『黒い何者か』が気になっていた。
助けてくれたお礼も言えないまま、不思議な言葉を残して消えた。
全くの勘だが、歳は近いような気もしていた。
「傷を治す剣、無数の剣、うーむ……A級ダイバーのリストを照会してみたが、該当者はいない。この仮面で姿を欺いているのか? ふふふ、面白い」
ちなみに、一瞬はダイバーマニアでもあった。
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『ドレッドノート』
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チーム『ドレッドノート』の拠点は、都内でも一等地にあるビルのワンフロアを全てを使っていた。
フロア内には装備の保管庫、カナデたちの部屋、さらに常駐の医師、整体師、装備技師、さらに料理人もいる。まさに至れり尽くせりの環境だ。
そして現在、カナデたちは会議室に集まり、厳しい目で轟を詰めていた。
「で、正太郎。『録画したのを編集して公開』するって話だったけど……なんで生配信になっていたの?」
「あ~……まあ、悪かったよ」
轟は、申し訳なく思っているのか声が小さい。だがすぐに言い直す。
「でもよ。面白いことになったし、いいこともあっただろ? オレのアカウント、フォロワーが一気に倍近く増えたぜ。へへへ」
「……正太郎。いい機会だから言っておく」
カナデは、冷たい目で正太郎を見た。
「これ以上、調子に乗って好き勝手やるようなら、リーダー権限でアンタを除名するから」
「はぁ!? じょ、除名って……」
「本気だから」
カナデは、本気だった。
轟正太郎は、雷のエレメントを使用する弓使い。斥候としても優秀であるが……性格はいいとは言えなかった。
自分よりランクの低いダイバーを見下し、清掃人を底辺と決めつけ、配信ではあることないことを言う……カナデとは恋人関係というデマを言われたせいで、釈明配信をすることもあった。
他にも、三上や堂島に迷惑をかけたことも少なくない。
正直なところ、戦力としては惜しいが、それ以上に迷惑を掛けられるのが嫌だった。
「アンタなら、ソロでやっていける実力あるでしょ。自分の配信でも『ソロでもやっていけるけど、チームに必要だからいてやってる』って言ってたしね」
「あ、あれはその、言葉のアヤというか」
「……調子に乗らなければそれいい、ということだろう?」
「……ぐっ」
「言うつもりなかったけどせっかくだし言うね。正太郎、あんまり頭とか肩とか触らないで欲しいのよ」
「み、三上まで……」
非難の視線を浴び、轟は口をつぐむ。
堂島は轟が黙ったのをいい機会にとカナデに言う。
「カナデ。議題はそれだけじゃあるまい?」
「ええ。百七十階層に現れた魔獣……討伐されたけど『ネームド』に登録されたわ。討伐レートはSSで、個体名は『アガリアレプト』よ」
「……ねえカナデ。あの魔獣、どこから?」
カナデは、自分の前に置いてある書類を見る。
「どうやら、未登録ポータルから転移してきたみたい。調査によると、刹那たちが見つけたポータルは、地下三百八十階に続いてたみたいよ」
「さ、さんびゃく、はちじゅう……」
三上が顔色を悪くする。
現在、『ダイバーギルド本部ダンジョン』の最低階層は四百……それ以上の調査は進んでいない。そもそも、世界ランカーであるカナデたちですら、二百十五階までしか行けないのだ。
四百階層……先人のダイバーたちが傷付きながら調査し、長い年月をかけて到達した階層である。
堂島は言う。
「……その討伐レートSSの魔獣を、たった一人で倒した者、か」
「……ええ」
カナデが頷き、思い返す。
白い髪、赤い瞳、仮面に黒衣……日本語を喋ったが、くぐもったような声でよくわからない。
カナデは書類を放って言う。
「刹那の話では、A級ライセンスを提示したみたい。今、国内のA級ダイバーのリストに、当日ゲートを通ったA級ダイバーの名前もリストアップしてる」
「ね、カナデ。喋ったんだよね……どんな人?」
「どんな人、って……」
強かった。
得体の知れない剣を千本以上、どこからか出してアガリアレプトに突き刺した。そして、半透明の剣を自分たちに突き刺したと思ったら、重症だった傷が完治した。
地水火風光闇雷氷の、どのエレメントにも該当しない力に感じた。
だが……一番感じたのは。
「なんか……寂しそうな、ヒトに、見えたような……」
自分で何を言っているのか、カナデもわからない。
だが……どこか放っておけないような、気になる人だった。
「ねえカナデ……その人のこと、チームに誘うってのはどう?」
「……うん、考えてる」
「悪くないアイデアだ。チームの強化に繋がるだろう……ふむ、当日のゲート入場記録を見れば、すぐにわかるだろう」
「じゃあ、見つけたら誘ってみよっか!!」
「……うん!!」
ワイワイと、三人が喋っている中……轟正太郎は黙りこんでいた。
そして、歯を食いしばり、小さく呟く。
「ふざけやがって……仲間にするとか、冗談じゃねぇ」
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久世 逢魔
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「あああああああああああああ……」
現在、俺は自宅の地下で悶えていた。
『くーん』
「うああああああ……俺は何を言ってるんだ」
投げ出されたスマホ……ネットニュースでは、『謎の仮面ダイバー』だの『白黒の英雄』だの、俺がカナデ、霧氷刹那を救ったシーンが切り抜かれ、動画として拡散されていた。
轟のドローンカメラ……あの野郎、『あとで編集する』とか言っておきながら、生配信だったらしい。
ひっそりと、ソロでダンジョン攻略するはずだったのだが……日本中、下手したら世界レベルで俺の『偽装体』が拡散されてしまった。
床を転がる俺が面白いのか、タルタリヤことタルが飛び乗ってくる。
『わうわう』
「ああ……どうすりゃいいんだ。さすがに『久世逢魔』とは気付かれないはずだけど……霧氷刹那もいたし、俺がA級ダイバーライセンスを提示したの言ってるよな……ていうか偽造カードだし、バレる……よな」
俺はスマホを取る。タルが甘えてきたので胸に抱きよせ、一緒にスマホを見た。
「なになに……うわ、剣を投げ戦うダイバー、『アトラトル』の秘密に迫る。アトラトル……投擲の補助器具だったよな。なんか定着してるし……」
アトラトル。
地属性のダイバーで、土や砂から鉄を精製し、無数の剣を生み出している……と考察されている。
全然ちがう。まあ、地球の人には理解できないだろう。
「その強さ、間違いなく世界レベル。海外チームに所属しているダイバー。日本に視察に来ていた世界ランカー……適当書かれてるなあ」
スマホを投げ、俺はタルを撫でまわす。
「…………はあ」
『ぐるるるる』
やりづらくなってしまった。
ダンジョン調査、このままやっていけるのだろうか。
「……最悪。ルール無視してやるしかないか」
『わうう』
「タル。お前にも協力してもらうからな」
『わん!!』
とりあえず……今は、できることをやるしかないな。




