第5話「自殺者N・その5」
母親は自宅に到着すると、また再び泣き出した。
だが、前を向いてもらうほかない。
「お気持ちはお察ししますが、どうか気を病まないでください」
私はそう言って、再び警察署に戻る。
通常ならこの時間ぐらいで勤務終了だ。
だが、最後の仕事がある。
警察署で第二報を書いて提出しなければならない。
結局終わった時は外は真っ暗だった。
夜、家でテレビを見ていたら、すでにメディアのニュースになっていた。
しかも全国区だ。
これは、解明しなければならなくなったな。
翌日。
机の上にはお茶が入った湯呑と一枚のA4用紙。
と、その男女を見つめる女性。
客間の上座には私、机を挟んで下座にはその紙を一直線に眺める男女、そしてそのどこでもない場所に座る、私と男女を見つめる若い女性。
「これは山梨県警から指定の葬儀社の一覧と、下にあるのが遺体の安置をしている警察署です。受付に行ってもらえれば、担当の者が対応します」
私はA4用紙を真っすぐ前に机の上をスライドする。
「はい」
紙を手に取る男性。
学校の情報によれば海斗の父親『中村栄一』。
一文一文字をじっくりと目で追っていた。
そしてその横から紙と私で目線を行ったり来たりしている女性。
海斗の母親、昨日の遺体確認に同行した『中村香』。
そして私と両親を不安げに見つめる海斗の姉『中村天音』。
「それで、息子は、自殺を・・・?』
栄一は紙を机に放り投げ、腕を組んで言う。
「それは言えません。死因は絞首ですが、脅迫などの事実があれば他殺となりうります。確かに言えることは、もう遺体から確認できることはありません」
海斗の両親は静かに黙ってしまっていた。
「あの」
沈黙を破ったのは、天音だ。
「なんですか?」
「海斗は・・・」
天音は両手を組んで、まるで私を、神や仏、はたまやマリアのようにみたて、願いを伝える様子で言う。
「学校でいじめを受けてたんです」
組んだ両手は、震えていた。
にじんだ目は、私を固定していた。
「情報ありがとうございます」
この家族が渡した唯一の情報はその後も役立つことになった。
数日の調査の結果様々なことが分かった。
海斗はいじめを受けていたこと。
学校側もそれは把握していたが、両親、栄一と香にはその事実を知らせていなかったこと。
しかし、天音はそれを信じていたこと。
いじめの加担者は事実を認めたが、全員に死亡推定時刻時点のアリバイがあり、さらに青木ヶ原樹海に移動する私的な手段もなかったこと。




