第3話 気づいた時・自滅から解放へ
私は子供の頃から、毎日絵を描いて暮らせたらいいなと思っていました。
動物の絵を描きたい。
図鑑の図解や、小説の挿絵のような仕事ができたらいいな、と。
けれど、プロの挿絵画家の道はよく分かりませんでした。
描ける腕はありませんでしたし。
そこで漫画を選びました。
志望者は多くても、大半の人は一作も仕上げられない姿を知ったので。
描き上げれば、一歩前に出られる。
そう判断しました。
中学一年から高校卒業まで、睡眠は三時間ほどで、研究と練習。
漫画のアシスタントを掛け持ちし、毎日二十時間働いた年もありました。
とにかく描く。
弱点を潰す。
根性で描き上げる。
やがて漫画家になりました。
けれど現場は、願っていたものとは少し違っていました。
売れ線、ヒット作品のパクリの強要...
漫画は絵だけでは成立しません。
構成、台詞、演出、マーケティング。
それらは業界としては当たり前のことです。
ただ、私にとっては
「納得いくまで一枚を描く」という喜びから遠ざかる要素でもありました。
それでも続けていました。
ここまで来たのだから。
やめたら無駄になる気がして...
ある日、ふと、ひとつのイメージが浮かびました。
「十年後は力尽きて終わるだろう」と。
その瞬間、何かが落ちてきました。
全てが無駄だった
全てが無価値だった
終わりだと思いました。
心が冷え切って自分の心ではなくなり、
そう、死神が乗り移って来た感じ。
ほとんど思考能力を失った頭が「死のう」とささやきました。
高い所へ行こうと、意思とは関係無く体が動きつつありました。
その時、かすかに残っていた理性が「危ない」と知らせ、
布団に潜りました。
あの夜、私は世の中のすべてを絶ち、ただ布団に潜りました。
続けるとも、やめるとも決めませんでした。
ただ、切りました。
そして明くる朝、目覚めた時、心には静けさがありました。
自分を追い立てる声が消えて、
漫画は離れていました。
憑き物が落ちたように。
"漫画は私ではない"、その時ようやく気がつきました。
私はただ、絵を描きたかっただけ。
漫画はそのための手段だったのにと...
でも振り返れば、無駄ではありませんでした。
その時、にわかに他の絵の道が見えてきました。
そして、それを十分にこなせる技術も身についていました。
必死に背伸びして頑張った日々のお陰で。
あの夜、私はそれまでの人生を終えて、生き直したのだと思います。




