48.我の強い、自己顕示欲の強い女~カリエルside
「テレス=テレヌ。お前の父親は全てお前が仕組んだ事だと話した。精神異常者のふりをしても無駄だ」
もう妻乞いすらもできなくなった現実への苛立ちを抱えつつ、回帰前のこの女が、いかに狡猾な立ち回りをしていたか思い出す。
周りの貴族ばかりか第一王子にすら強気な発言をするテレヌ公爵。
女は常にそんな父親の後ろに常に控え、父親に従順な様子を見せてはいた。父親が誰かに傲慢とも取れる振る舞いを見せれば、そんな誰かをフォローした。
誰かが私を含めた王族であった時には、父親を諌めて王族を献身的に支えるかのように振る舞っていた。
私が正気を保っている間は、申し訳なげな顔で私の妻であるフィーを気遣う素振りすら見せていたのだ。
しかしこの女はフィーを直接その手で亡き者にしたばかりか、フィーの亡骸を足蹴にすらした。それこそがこの女の本性だ。
「私はお前が我の強い、自己顕示欲の強い女である事はお見通しだ」
憎しみが滲む声でそう告げる。
すると牢の床に手錠を打ち付けていた音も、延々と続いていた耳に障る呟きも止んだ。
「……嘘。私を大事にしているお父様が……私の言う事を全て肯定してくれるお父様が、そんな事を言うはずがないわ」
床を見つめていた女は、そう言ってゆっくりとこちらを見上げた。
女の言葉に、ある事がふと思い浮かぶ。
魔法で手の平に乗る程度の小さく丸い光源を作り、女へ向かって下から転がす。
「お前、父親も操っていたのか?」
二ヶ月程前はよく手入れされ、艶のあったピンク色の髪だった。しかし女の真横に転がった光源に薄明るく照らされた髪はぱさつき、褪せている。
一瞬、光に照らされた女の眉間にぴくりと力が入った。
私の中の疑惑が確信に変わる。
女はゆらりと体を揺らしながら立ち上がり、鉄格子の前で止まって口を開く。
「操るだなんて……酷い。ねえ、お父様は? お父様に――」
――パタパタ……。
しかし女の掠れた声が、どこにでもいそうな茶色い一羽の小鳥の羽音に邪魔される。
『カリエル』
鳥が私の名を呼ぶ。ガルヴァウだ。
私がガルヴァウに持たせた魔道具――連絡鳥だと一瞬で判断した為、特に驚きはない。
私はふうっと息を吐き出し、感情を切り替えてから鳥に向かって手を差し出す。
鳥にそっと防音魔法を掛け、ガルヴァウにこちらの声が聞こえないようにしてから会話を始める。
「やあ、ガルヴァウ。何かわかったかな?」
努めて平素のような声を出す。
私にとってガルヴァウは無二の友。私の醜い感情も、私がこの女に与える所業も知られたくない。
対して女には連絡鳥の声が聞こえてしまうが、防音魔法は一方通行な性質があり、二種の方向性が違う防音魔法を同時展開するのが難しい。
つまりこちらの声がガルヴァウに聞こえないようにするか、連絡鳥の声が私にしか届かないようにするかのどちらかしか行使できないのだ。
『ああ。まず黒タンポポだが、花弁のあるなしで効能が変わる。超虚弱体質の国王が飲んでた煎じ薬の一つが、花弁のついた黒タンポポだったので間違いねえみたいだ。黒タンポポを摂取すると呪いを取り込んじまうらしい」
「どうしてそんな危険な物を?」
ガルヴァウの話で、思わず眉を潜める。
『生きようとする欲を増幅して神経衰弱を抑えつつ、呪いの力が進行する体の虚弱を食い止めてたんだろうってさ』
「なるほど。毒をもって毒を制するって感じなのかな? でも呪いが体に蓄積すれば、少し前の陛下みたく、寝台から起き上がれなくなってしまうんじゃないのかな?」
『そこでテレヌ嬢が持ってた宝石の出番だったんだ』
私の疑問にガルヴァウが答える。
『あの宝石は、初代聖女が呪いを封じて魔石だ』
「魔石……もしかして聖女が使っていた魔石なら、陛下の体に溜まった呪いを魔石に吸収させ、封じられる……って事かな?」
思考を巡らせつつ、口にしていく。
『少なくとも薬師であるウォルフは、そう考えたんじゃないかって言ってたぞ』
言ってた、か。きっとガルヴァウはフィーから聞いたに違いない。
私もフィーに直接教えて欲しいな……。
ガルヴァウの言葉尻でそう直感した私は羨ましすぎて、ついついガルヴァウに嫉妬心が芽生えてしまう。
その時だ。
「ウォルフ?」
目の前にいた女が、ぽつりと漏らしたのは。




