41.手の平返し~ガルヴァウside
「それで、こちらが魔お、んんっ、我が国の国王陛下です」
「ザケルバードだ。兄君にはこんな形で申し訳ないが、フィリ……フィデリカの夫となった。もちろんフィデリカが成人して儂への気持ちが整うまでは、清い夫婦であり続けると誓っている。なので安心して欲しい」
儚げ美丈夫の紹介に頷いたのは、見た目エルフな美丈夫。
黒髪と金色のが、学園でカリエルに腹パンする妹を見ながら俺の腕の中で怯えて震えてたケモックと同じだ。
「で、私が陛下の最側近、ゴルと申します」
続けて自分で自己紹介をした儚げ美丈夫が、恭しく礼を取る。
こっちはこっちで、崩壊した学園の壁に横付けした妹に乗り物扱いされてたガーゴイルと同じ灰色髪に赤い瞳だ。
あのガーゴイルも妹の暴挙に怯えてたんだよな……。
「えーっと……結界から出れねえ? もしくは俺をそっちに入れてくれねえ? ちょっと妹のフィデリカに聞きたい事があるんだ」
何はともあれ、国王が俺を兄君だと呼ぶなら、妹に会わせてくれるかもしれねえ。
そう考え、せめて自分だけでも入れないか交渉してみる。
だけど、これがタミョルとコロロン的によろしくなかったらしい。
「ブルルッ」
「へ? うおっと!?」
――ドカッ。
「チッ」
いつの間にかタミョルがコロロンの手綱を引いて俺の後ろにが立っていたらしい。
俺の発言に怒ったコロロンが後ろ脚だけで立ち、俺の頭上目がけて両前脚を振り下ろしていた。
ちなみに咄嗟に避けて地面を転がった俺を見て、舌打ちしたのはタミョルだ。
「タミョルと申します。既にご存知でしょうが、こちらの脳筋馬、んんっ、筋力と体力に能力を全振りした方がガルヴァウ=カミュリッチ。フィデリカ様の兄君です」
結界越しに俺を紹介すんのはともかく、間違いなく脳筋馬鹿って言いかけたよな? 言葉を変えても結局、脳筋馬鹿って言ってるよな?
「私を忘れていたようなので」
「ブルルッ」
「もちろん私はコロロンを忘れていませんよ。ザケルバード陛下。こちらはフィデリカ様の愛馬、コロロンです。ガルヴァウ様はともかく、私とコロロンをフィデリカ様に引き渡してはいただけませんか」
コロロンの手綱を引いて結界前に出てきたタミョルが、軽く鳴いたコロロンと共に恭しく礼を取る。
つうかコロロンはそんな殊勝な態度取れんのか。
妹が魔国に行って以来、俺が近くに寄れば蹴るか噛むか体当たりするかのどれかしかなかった。殺る気みなぎる一撃も、妹がいた頃から今まで何度かある。
正直コロロンには、暴れ野生馬のイメージしかなかった。
「なるほど……これが兄君専用のコロロン・ツッコミ」
「まさかフィリ様から聞いていた一撃必殺ツッコミが実在するとは……」
美丈夫が二人揃って感慨深そうに頷くの止めてくれ。
今まで一度も当たった事はないが、一度でも当たったら普通に死ぬ。
妹もツッコミなんて可愛らしい表現してんなよ。普通に殺人未遂案件だ。
「我が国の誇る国民的お馬鹿スターであるフィリ様の専属侍女殿と愛馬殿の仰る事はわかりました。陛下、いかがなさいますか?」
あれ、俺の言ってた事はまるっと無視されてねえ? タミョルとコロロンの主張しか通ってねえ?
転がった地面から立ち上がった俺は、ゴルがザケルバードに投げた言葉に、思わず首を捻りそうになった。
もしかしてコレが同担歓迎する人種達の結束力というやつか!?
「ふむ……」
対してザケルバードは、ちゃんと俺を見た。
一応、いつの間にかなってたらしいが、さすが俺の義弟だ。多分、年は俺よりはるかに上だろうが、義理でも弟は弟。兄の存在を忘れてなかったらしい。
「申し訳ないが今はまだ、外部の者を結界内に引き入れる事はできん」
ただ出された答えは予想通りだった。
「ケチですね」
「ブルルッ」
「待て待て、不満げな言葉吐くのも鳴き声出すのも止めろ」
魔国が強力な結界を張って外部と接触を絶ったのは、結界の外にいる俺達を守る為だぞ。
魔国の成り立ちを知っている俺は即座に注意する。
正直、普段はカリエルや妹に考える事を放り投げて好き勝手やっている。
つまり交渉事は大の苦手だ。
そんな俺が、この一人と一体を御しながら交渉すんのは、ハードルが高すぎねえ?
「ケチ……フィデリカをここへ連れて来る事ならしようと思ったんだが……」
「フィデリカ様は素敵でお美しい旦那様を見つけられて幸せ者ですね」
「ブルヒヒヒン」
持ち上げるタミョルも、甘えた鳴き声出したコロロンも、手の平返しがすげえ……。




