37.疑わしき犯人~ガルヴァウside
「ぐすっ……フィー……」
カリエルが鼻をすする。
泣き出してから大してから時間は立ってねえものの、そんなカリエルを眺めながら心を鬼にする事に決めた。
妹の気持ちがカリエルに傾かねえ事だけは間違いない。
俺は妹の兄である事を優先すると決めている。
そんな妹がカリエルを受け入れる可能性が皆無だと判明している以上、カリエルには悪いが、いつまでも妹への想いを引きずってうじうじされては困る。
しかもこのままの状態が続けば、カリエルが次に妹と再会したが最後、妹へ本気でまとわりつこうとする気しかしない。
「カリエル、そろそろ泣き止め。どうしたってフィデリカは、お前に縋られたくなんかねえよ」
だからカリエルに現実を突きつける。
「うう……わかってるよ……」
するとカリエルはそう言って胸ポケットからハンカチを取り出して涙を拭い始めた。
「ところでテレヌ嬢が王族を呪ったり、第一王子を魅了したりすんのに使ってた首飾りは、どこで入手したのかわかったのか?」
それを見て話題を変える。
一連の状況から推察する限り、テレヌ嬢は第一王子と婚約した頃にはケバい首飾りをしてたんだろう。
首飾りにはマゼンダピンクのでっかい宝石がついてた……らしい。
俺が見たのは妹が宝石を粉砕した後の一部金属部分がひしゃげた首飾りだった。
テレヌ嬢と面識もなかったから、元の首飾りがどんなだったかまで正確には知らない。
「それなんだけどね。元々は王城の保管庫にあったはずなんだ。それも国王と王妃の両陛下と王太子しか入れないように魔法で施錠してる」
そう言うとカリエルは難しい顔になる。
「第一王子はテレヌ嬢と婚約して数年後に立太子された。なのに調べた限り、テレヌ嬢が首飾りを身に着けるようになったのは婚約直前。ちょうど第一王子と何度か顔合わせを終えた頃。それで……うーん……」
そこでカリエルは一度口を噤むと、何かを逡巡した。
「第一王子は昔から年上の熟じょ、んんっ、そこそこ年が上で胸が大き、んんっ、体型が大人の魅力に溢れた淑女が好きなんだ」
「カリエル、言い直した意味……」
「ごほんっ。人の好みは千差万別なんだよ」
「……そうか。でも元々が政略的な意図があっての婚約だろ?」
深く追求するのも、それはそれで第一王子に悪い気がして話を本題に戻す。
「婚約に至ったのは政略的な意図もある。けれどテレヌ嬢は、婚約者候補に上がった中の誰よりも第一王子の好みから外れてたんだ」
「まあ確かに童顔で細身ではあったな」
あえて細身とは言ったが、幼児体型だ。
「なのに他に好みの婚約者候補がいたにもかかわらず、第一王子がテレヌ嬢を見初め、是非にと望んで成立した婚約だった。私がこの事を知ったのは、つい最近だけどね」
「なるほどな。つまり首飾りが結んだ婚約だったって事か」
俺の出した結論に頷くカリエルは、目論見通り気持ちを切り替えられたのだろう。
「本来ならあの首飾りをテレヌ嬢に渡したのは国王と王妃のどちらか、もしくは両陛下となる」
「でもその線は薄いよな」
「そうなんだ。そもそも国王陛下は首飾りの存在を忘れてたし、王妃陛下に至っては存在そのものを知らなかった」
「知らなかった? そんな事があり得るのか?」
「まず首飾りの保管方法なんだけど、魔法で開かないように封じた箱に入った状態で、保管庫の最奥に保管されてたんだって。きっと保管した当初は首飾りを危険視していたんじゃないかな。国王陛下は保管庫の収納リストは覚えてたけど、首飾りに関しては直接見てはならないと先代国王からきつく言い渡されてた」
確かに聖女が絶えて久しい我が国だ。呪いや魅魅了の力を撒き散らす物騒な代物なら、国一番の権力者となる国王の目に触れさせないに超したことはない。
「保管庫や首飾りの入った箱を施錠した魔法に、何か不備があったのか?」
「それがないんだ。既に首飾りの力は、フィーが壊して無効化したから当面、呪いに関しての問題はない。かといって表立って調査するにしても……ねえ」
言葉を濁したカリエルが何を言いたいのか察する。
状況的には、伏せっていた国王がベッドから起き上がれるようになったばかり。
この状況で王族に呪いをかけた首飾りを持ち出した犯人が誰かと疑うなら、真っ先に王妃が疑われる。
伏せっていた国王の代わりに政務を行い、時間を見つけては国王の看護に励む王妃を表立って調べれば、世論は国王を弾劾する方向に動くだろう。




